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名ばかり皇帝の跡継ぎに転生させられたけど、オレはこのまま終わるつもりはない  作者: ウエス 端
演劇大会編

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114.狂ってる外道と怪物パワー

「ウウッ……」


 脇腹をオスヴァルトに刺されたドミニクがドサッとその場に倒れ込んだ。


 傍にいるアンジェリカは、もう声を上げることもできないくらいにショックを受けているのか、それを呆然と見送るしかできないようだ。


 オレもこの異常な状況に呑み込まれそうになったが、そうはなるかとオスヴァルトに向かって声を張り上げる。


「テメェ……! こんなの、殺人じゃねーかよ! 無茶苦茶じゃねーか!」


「クックック。だからどうしたと言うんだい? コイツはもう用済みで、でも最後の使い道……死んで僕の役に立ってもらっただけじゃないか」


「正気で言ってんのか? お前のやってることは外道ってんだよ!」


「まあ何とでも呼んでもらって構わないけど。それに、その罪を被るのはお前なんだよ、タツロウ」


「何フザケたこと言ってんだ! そんなの、ここにいる女子たちが証言すれば、お前の犯行だってすぐバレるだろうが!」


「クックック。それは問題ない。アンジェリカを含めた女子全員を僕の別邸に招待することになるのだからねぇ」


 別邸だぁ?

 コイツの実家は大金持ちらしいが、そんなものまで持ってんのかよ。


 だが……。


「それこそ、学校の敷地の門から出る時にバレるし、もうこの時間だと閉まっていて出られねえ筈だ。いい加減なこと言うな!」


「ところがだ。僕はねぇ、運動部のクラブハウスが集まってる場所、そこの最も外に近い所に専用のクラブハウスを所有してるんだ」


 そういえば、学園祭の時にリュストゥングフットボール部の一部部員から『あってはならない物』が見つかったという事件があった。


 そして『危ないクスリ』に関係しているらしいオスヴァルトが運動部の近くに拠点を設けているのは偶然ではなさそうだ。


「……そこにアンジェリカたちを監禁するつもりか? でもすぐに見つかるぞ」


「クックック。そこから別邸まで秘密の地下通路で繋がっているんだ。別邸は学校のすぐ近くでね、僕は寮生活なんて面倒なことはせずに自由に生活してるのさ」


「なんだと……!」


「そしてそして、アンジェリカには僕のお嫁さんになってもらうんだ! 他の女たちも別に使い道はあるからね。そうだ、その誘拐犯もお前に被ってもらうとしよう」


「フザけんな! そんなに都合よくオレに全部擦り付けられるかってんだ」


「大丈夫。お前には、まともに言葉も話せないくらいの廃人になってもらうから」


 コイツ、狂ってるとしか思えねえ!

 それはともかく、このままじゃソフィアたちの身が危ない。


 どうにかしてこの窮地を脱しなければ……!


 と、ここで閃いた。

 ハッタリでコイツらを怯ませてやる。

 上手くいけば退散するかもしれん。


「フフン。いくらオレに罪を被せようとしたってよー、返り血を浴びたお前の服を見られたら終わりじゃねーか」


「……誰に見られるっていうんだ?」


「決まってるだろう。ここを通りがかった演劇部のメンバーに、だ! お前らの人数じゃこれ以上拘束できねえだろうが」


「クックック。そんなハッタリはよせ」


「な、何がハッタリだってんだよ!」


「今日は、他のメンバーは先に帰路について、お前らの後からここを通りかかる奴はしばらくいない」


 確かに、今日はドミニクの担当作業が長引いて部長たち以外のメンバーではオレたちが最後に部室棟を出ることになった。


 だけどなんでそれを……!

 そしてオスヴァルトの指摘はまだ続く。


「部室棟にはオリヴィア、ヘルムート、あと大道具係の現場まとめ役ウルバンだけしか残っていない。しかも発表会直前で残務が多く、まだまだ部室棟を出ることはない。こっちはちゃ〜んと全部把握済みなんだよ〜!」


 どうしてそんな情報まで!


 あっ、しまった。

 ドミニクから全部筒抜けになってるんだ……。


 しかも今日帰りが遅くなったのはドミニクが原因、というかワザとゆっくり作業して時間を調整したに違いない。


 チクショー!

 今日のことは、最初から全部、綿密に計画が練られていたってことか……!


 この道を戻った先には、演劇部の部室棟と学校の演劇ホールくらいしかない。


 つまり、他の生徒が通りかかることも少ないのだ。


 だけど嘆いていても仕方がない。

 何か次の手を考えないと。


 そればかりに気がいってしまっていた。


 周りへの注意力が落ちていたオレだが、ソフィアの叫び声で気がついた。


「タツロウ君! 後ろです!」


 背後から何かの固まりみたいなものがグワッと顔に急接近してきたのが見えた。


 オレは咄嗟にしゃがみつつ前方へ回避すると、頭の上をブゥーンッ! と塊が衝撃とともに通過していくのを感じた。


「ほう……今のを躱すとはな。『木刀のタツロウ』、思っていたよりもやる……!」


 バスティアンの重低音の声。


 振り向いてみると、ヤツの右腕はフックを打ち終わった後のような構えになっていた。


 それにしても、その腕がとんでもない。


 腕周りは丸太のような太さで、手はグローブのように分厚くなっている。


 そして何より、大きく硬そうな拳ダコ。


 最初にオレたちに聞こえた、木を強く叩くような大きな音は、コイツが木を殴って発生したものだったんだ……!


 と、今度はソフィアのいる方から男の声が聞こえてきた。


「おいテメェ! 勝手に声を出すんじゃねえ!」


「い、痛いっ! やめてください!」


 ソフィアを拘束している男が彼女の腕を強く捻じりあげていたのだ。


「テメェー! ソフィアに何しやがる!」


「いいのか? 注意を他に向けていて」


 またバスティアンの声!


 同時に今度は左フックが襲いかかってくる。


「危ねえっ!」


 間一髪避けてそのまま後転し、その間に掌に魔力を集中する。


 そして起き上がった瞬間に反撃だ!


「食らえ風圧魔法!」


「無駄だ!」


 バスティアンの前にスクリーンのような土の壁が地面から突き上がって防がれた、クソッ。


 そして土の壁がオレに向かって一定間隔で突き上がってくる。


 ヤツは土属性の魔力らしい。

 だけどよぉ。


「こんな攻撃食らうかよ!」


「……これはただの目眩ましだ」


 バスティアンは自分で作った土の壁を拳でぶち壊しながら目の前に迫ってきた。


「フンッ!!」


 ヤツが掛け声と共に放った右フックがオレの左頬を確実に捉える。


 ドガアッ! とあたりに響く打撃音の後に、悲鳴にもならない声がオレの口から飛び出た。


「グフウウーッ!?」


 凄まじい威力のパンチだった。

 オレの顔は右へ大きく弾かれ、意識が完全に飛びそうになったのだ。


 なんとか踏ん張ることができたが、こんなのまた食らったら……。


「フゥーッ……こ、こんなんじゃオレは倒せねえぜ……ゲフッ、ゲフッ!」


 口の中に違和感を感じて、オレはそれを地面に吐き出した。


 それはなんと、2本の奥歯だった。


 それ以外にも口の中が切れているのか、痛くてしょうがない。


 クソがっ。

 こんな怪物みたいなパワーを持ったヤツに、オレは果たして勝てるんだろうか?


 いや、勝たなきゃならねえんだ……!

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