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名ばかり皇帝の跡継ぎに転生させられたけど、オレはこのまま終わるつもりはない  作者: ウエス 端
演劇大会編

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112.大ピンチ

「よおーし! これでダンスパートは完成だ! 2人とも今の感覚を忘れないように!」


「「はいっ!」」


 オレとアンジェリカのダンスパートの稽古は、今日もオリヴィア部長に付き合ってもらっての特訓となった。


 そして、ようやく舞台で見せられるところまで完成したのだ。


「やったね、タツロウくん! ここまでこれたのも貴方のおかげだよ!」


 喜びのあまりオレに抱きついてこようとしたアンジェリカだったが、さすがに部長の視線を感じたのか咄嗟に腕を降ろして近づくのを止めた。


 そのままだと不自然なので、オレは右手を差し出して握手を求めるポーズを取る。


「いやいや、アンジェリカが頑張ったからだよ! あと1週間で定期発表会だし、これで自信持って本番に臨めそうだ」


 そうなのだ。

 あと1週間しか残っていないこのタイミングでなんとか仕上げられたのは非常に大きい。


 来週の稽古は感覚を忘れないように調整することを主な目的として行えるからだ。


 そして彼女は両手でオレの右手を握ると満面の笑みで来週への希望を口にした。


「ありがとう。来週も稽古を一緒に頑張ろうねっ!」


 それからオレは1階の大道具係の作業場へ戻っていった。


 だけどアンジェリカはこのあともダンスパート以外の稽古に参加しなければいけない。


 オレだってダンスの稽古で疲れてるのに、彼女は弱音を吐くこともなく稽古をこなしていく。


 女優としての矜持というかプロ根性というか、彼女のそういったところには敬意を払うしかない。


 そして大道具係の各作業も仕上げに向けて急ピッチで進められる。


 オレはあちこちから手伝いや雑用の肩代わりなどで、ある意味引っ張りだことなって目が回るような忙しさだった。



 時間はあっと言う間に過ぎ去り、部活動の終了時刻となった。


 これからいつも通りに、アンジェリカとソフィア、レオナ、ハンナ先輩のグループと一緒に帰り道につくのだが、実は2日前からもう一人加わっている。


 それは大道具係の1年生男子ドミニクだ。


 最も危険な帰り道では、やはりもう一人男子がいたほうがいいということで、大道具係の男子の中から選ばれたのだ。


 というか内々に希望を募ったらアイツの方から積極的に応募してきたらしい。


 アイツが何故かオレを嫌っているのは知っているが、一緒にアンジェリカたちを警護するんだし、毎日一応は声をかけている……んだけどね。


「ドミニク! 今日も頑張ろうぜ。いつも通りにオレが前でそっちが後ろでいいか?」


「……勝手にしろよ」


 相変わらずつれない態度だぜ。


 まあそれはともかく、とにかく彼女たちを安全に寮まで送らねば。


 これまでなら、途中でアンジェリカたちがオレに話しかけてくるのだが、ドミニクが加わってからは必要なこと以外は会話自体があまりない。


 ぶっちゃけ言えば、その内容を部長に逐一報告されては堪らないからだ。


 しかしドミニク自身はそう思われてるのを知ってか知らずか、時々アンジェリカに話しかけようとしている。


 だけどアンジェリカには適当にあしらわれていて、なんだか気の毒になってくる程だ。



 さて、先週オスヴァルトたちがオレたちの前に姿を現した場所に差し掛かろうとしている。


 このあたりは道の両側にちょっとした林の如く木が立っていて、少人数なら身を潜めることも可能ではある。


 奴らが立っていた地点は過ぎた。


 しかしこの先にはカーブしつつなだらかに登っていく箇所があり、先が見通しにくい。


 そこさえ抜ければ、あとは最後まで見通しの良い道が続くので、ここが最も気合の入れどころなのだ。


 そして登っていった先、頂点に差し掛かろうとしたところでそれは起こった。


 ドーン! ドーン!


 頂点の向こう側、左前方に立っている木が揺れている。


 そこから何か……恐らく木を強く叩くような大きな打撃音が響き渡る。


 オレたちは思わず足を止めて周りを見回した。


 そして右前方の木陰からオスヴァルトが姿を現した!


 まだ部室棟に残っているはずの部長たちに救援を求めるべく、オレは振り向いてレオナとソフィアに走って戻るように指示を出そうとしたのだが。


「へっへっへ……」


 いつの間にか後ろから3人の制服姿の男が接近していた。


 くそっ、奥側の木の上に登って葉と枝で身を隠していやがったな。


 でも忍び寄ってくるにはもっと手前の地点から降りて来なければ、後ろの道を塞ぐのが間に合わないはず。


「ドミニク、何やってたんだ! ちゃんと後方見とけよ!」


 思わず叫んでしまったが、ドミニクは何も答えずに動きも要領を得ない感じだ。


 コイツをあてにしたオレがバカだった。


「うりゃあ!」


 オレは右腕を上げて掌に魔力を集中し、風圧魔法を3人の男に向かって放った。


「ぐあっ!」


「痛ってーな、テメェ!」


 とりあえず一時的に怯ませて動きを止めたが、文字通り一時しのぎにしかならない。


「ソフィア、レオナ! オレが足止めしている間に走って戻りながら魔法を打ち上げて救援を要請してくれ!」


 後ろの3人を抑え込みつつ、前から来るであろうオスヴァルトとデブ男も相手しなければならない。


 少しでも早く救援を呼ばねーと。


 オレは前方の状況を確認するために一瞬だけ前を向いた。


 まだ2人は近づいてくる途中だ。


 なので再度後ろを向いたオレの目に入ったのは、最悪の状況だった。


「ドミニク! あたしたちの邪魔をするなんて、どういうつもり!?」


「……腕を放してください!」


 なんと、ドミニクが両腕でソフィアとレオナそれぞれの腕を掴んで動きを封じているのだ。


 3人の男はジリジリと近づいてくるし、ハンナ先輩はアンジェリカを抱いて庇うので手一杯だ。


 どうすればいいんだ……!

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