111.昼休み
アンジェリカが登校を再開してから早くも3日が過ぎて、もうすぐ週末だ。
そして今は昼休み。
そしてそして、オレは今、校舎の中庭でソフィアと一緒に昼飯を食べている。
……といっても、2人でというわけではなく、アンジェリカとレオナ、そしてサンドラとマルコの計6人でだが。
今日は天気もよく、開放的な中庭でこのメンバーで食事するというのは、ちょっとしたピクニック気分があって楽しい。
と、これだけなら浮かれていられるのだが、残念ながらそうはいかない。
なぜなら、アンジェリカが昼休みに寮へ戻って昼食をとるのが難しくなったから、なのだ。
一昨日のことだ。
昼休みに寮へ戻ろうとしたソフィアとアンジェリカ、レオナの3人グループが通った道で、不気味な2人組の一人……3年生の大柄で恰幅の良すぎる男の姿が見えたのだ。
といっても、向こうからなにか仕掛けてくるわけでもなく、ジーッと眺めるように睨まれ続けただけで被害はなかった。
最初から睨むだけのつもりだったのか、多くの生徒が一斉に移動している状況で何もできなかっただけなのか。
相手の意図がわかりにくく、それが却って不気味さを増している。
それはともかく、その出来事のせいで、アンジェリカは昼食に殆ど手を付けられない状態になってしまったのだ。
校舎へ戻るときはサンドラにも付き添ってもらい、幸いにも2度目の遭遇はなかったので事なきを得た。
当然ながら昼休みをどうするかってのが問題になった。
昼休みも寮まではオレが一緒に行くというのも検討されたのだが、それは見送られた。
どのみち途中で遭遇すればアンジェリカはまともに食べられなくなってしまうからだ。
そこで、校舎の中庭に弁当持参でみんなで一緒に、となったのだ。
教室でも良かったのだが、今のアンジェリカには少しでも開放的な気分が持てる時間がほしいのだ。
「タツロウ。アイツは結構大柄だけど、対象の人物かな?」
ベンチで隣に座っているマルコから目線で確認を求められた。
ちなみに女子たちはオレたちとは少し離れたベンチに集まって食事をとっている。
「いやアイツは違う、問題ない」
そう、マルコとサンドラには事情を打ち明けて協力してもらっているのだ。
そしてオレとマルコで時々周囲を見渡して、奴らが中庭をうろついていないか見張っている。
もしどちらかだけでも現れたら、サンドラに伝えて女子たちはさり気なく教室へと戻るという手筈になっている。
彼らなら他人にベラベラ喋ったりしないと強く信頼できるし、サンドラとソフィアは親友なのでイザという時の連携も問題ない。
「悪いなマルコ。昼飯をゆっくり食えないのに協力してもらって……モグモグ」
「そんな水臭いこと言わなくても。俺たち友だちなんだから、これくらいの協力は惜しまないからさ……パクパク」
「ちょっと〜、アンタたち食べながら喋るの止めなさいよね、みっともない! ねえソフィア」
「……そうですね、マナー違反ではありますが。でもここは開放的な雰囲気なので大目に見てあげましょう、サンドラ」
「もう〜、ソフィアは甘いんだから!」
サンドラ、これくらいはいいじゃねえか。
オレたち仕事しながら食ってるようなもんなんだからさ。
と心の中でだけ言って、引き続き任務を遂行する。
口に出すとサンドラから倍になって返ってくるので面倒くさいことになるからだ。
狙い通りにサンドラの攻撃は防いだが、次はレオナが手を上げてオレに問いかけてくる。
「タツロウ〜! どう、あたしたちが作ったお弁当は? といってもあたしはちょっと手伝っただけなんだけどね」
「ああ、メッチャ美味しく食べてるよ!」
「……お口に合ったのでしたら良かったです」
弁当といってもサンドイッチなのだが、ソフィアとレオナがオレとアンジェリカの分まで作ってくれたのだ。
それにしても本当に美味いな。
メインで作ったのはソフィアのようだが、見た目も綺麗に揃えられていて、甘すぎずしょっぱすぎずで絶妙な味付けだ。
プロ並みとまではいかないだろうけど、何をやってもソツなくこなすのは彼女らしいと言える。
どうせなら『はい、あーん!』って食べさせてもらいたかったけど。
誰にしてもらいたかったのかって?
そんなの、誰でもいいだろ……ゴニョゴニョ。
なお、マルコの分はサンドラが作っていて、これまた丁寧な仕上げで美味しそうだ。
そういえば言ってなかったがマルコとサンドラは校内では既にカップルとして認定されている。
隣のクラスのマチルデは、年末あたりまではサンドラに張り合っていたのだが、ある日からパッタリとマルコの席の隣に来なくなったのだ。
彼女とは後日話す機会があって、その時ボソッと言われたのが『いくら頑張ってアプローチしても、マルコは結局は振り向いてくれず、もう疲れてしまった』ということだった。
まあ、マルコの心の中では大事な相手は最初から決まっていたのだろう。
マチルデには気の毒な話ではあるが、もう吹っ切れたようなので、オレがこれ以上何かを言っても仕方がないことだ。
さて、昼休みも終わりが近づいてきた。
籠の中に残っているサンドイッチはあと一つ、卵サンドだけだ。
中身がとても綺麗に詰めてあって、食べるのがもったいない気もするが。
でも残すのはもっと勿体ないので、思い切ってパクパクと食べてしまう。
「ご馳走さん! あー、おいしかった!」
「ふふっ、お粗末様でした」
ソフィアは単なる微笑みではなく、本当に嬉しそうな表情でオレの賛辞に返事してくれた。
……と思う。
まだまだオレは女子の心の内を完全に読み取ることはできていないだろう。
でも今はそう信じて、平和なひと時を満喫した気分のまま昼休みを終えることにしよう。
あまり話さなかったアンジェリカも多少は気分が晴れたのか、作ってくれた2人に笑顔で感謝している。
「ソフィア、レオナ。とっても美味しかったよ! あとゴメンね。わたし、こういうことが苦手で、ご馳走になっちゃって」
「気にしないでくださいアンジェ。3人分も4人分も大して変わりませんので。それよりも美味しく全部食べていただいて嬉しいです」
「今度、あたしとアンジェに料理教えてよソフィア!」
「いいですよ、いつでも」
女子たちも親睦を深められたという感じで、見ていて微笑ましい光景だ。
こうやって、ずっと何事もなく演劇大会まで楽しく過ごせればいいな……そんなオレのささやかな期待は、しかし残念ながら叶うことはなかったのだ。




