11.ナンパとツンデレ
学校中に響いていた鐘の音が止まり、朝の礼拝は終了した。このあとどうすればいいんだろうかと考えていたが、今度はアーベル先生の声が教室内に響く。
「本日の連絡事項は……転入生の紹介だけで特にありませんね。それではみなさん、今日の授業も頑張りましょう。ああそれとマルコ、タツロウ君は貴方とカリキュラムはほとんど同じだから、いろいろ案内してあげて」
「は〜い、了解で〜す、先生」
なるほど、それでマルコの隣の席を指定したんだな。先生も案内とか面倒な用事はできるだけ省きたいよな。
「すまないマルコ、今日からよろしく頼むよ」
「いいよそんなかしこまらなくても。俺こういう役割結構好きだし」
ホントいいヤツだ。先生も親切だし、自分が人質だっていう状況をつい忘れてしまいそうになる。
先生の話が終わると、クラスメイトの半分くらいが席を立ち、どこかへ移動していく。
「ああ、俺たちはこのままこの教室で1時限目の授業だよ」
移動していくクラスメイトをオレが目で追ってるのを見て、先に案内してくれた。
この神学校は、年齢的には丁度日本の高校生ぐらいの学生がほとんどだが、授業のやり方が違う。
日本の大抵の高校は、所属しているクラスでほとんどの授業を受けて、選択科目で別のクラスの教室に移動するやり方だが、ここは大学みたいにカリキュラムや選択した授業毎に教室を移動するのが普通だ。
だから、教室も自分用の机と椅子を並べたタイプではなくて、長机と跳ね上げ式の椅子が何列か並んでいるタイプになってるし、席の場所も決まっていない。まあ自然といつも同じ場所になってしまうみたいだけど。
クラスも一応分けられてるが、クラスメイトと必ず一緒にいるのは朝の礼拝と連絡事項の通知の時間だけで、あとは基本的にバラバラだ。
アーベル先生も、一応担任ではあるが、実質的には朝のホームルーム担当といったところだ。
と、ここまでマルコからザッと説明してもらった内容を、オレの前世の高校生活と比較してなんとか理解した。
「ねえちょっとマルコ、そろそろ、あたしの紹介もしてよね」
説明が一息ついたタイミングで女子の声が聞こえてきた。そう、ここは男女共学なのだ! 前世でも共学だったので、ここだけは譲れない。ただし、残念なことに寮は男女別だ。
「ああっ、そうだね……。この子はサンドラ、俺とタツロウと同い年だ。俺とはここに入学する前からの友人で、まあ腐れ縁ってヤツだ(ガシッ)……いきなり蹴ることないだろ、痛たたた!」
「アンタが変な紹介するからでしょ!」
そんなに変だったかな? 女子の考えることはよくわからん。
「……ごめんなさいタツロウ君、お見苦しいところ見せちゃって。あたしはアレクサンドラ・リンデンブール。サンドラでいいわよ」
サンドラはハキハキした口調で自己紹介してくれた。髪の毛は肩より少し長いツインテール、少し吊り目気味で、顔の輪郭はシャープな感じの美少女だ。
「オレもタツロウでいいよ。なんか2人仲良さそうだけど、彼氏彼女さん?」
「ち、ち、違うわよ、誰がこんな女たらしの貧乏貴族なんかと! 勘違いしないでよね!」
もしかして、これがツンデレというやつか。実際に目の前で見るのは初めてだ。俺に向けてじゃないのが残念だけど。
「いやそれ誤解なんだ、聞いてよタツロウ〜。俺の方からは何もしなくても、女の子の方からアプローチしてくるんだよ。で、付き合うことになっても、いつも俺の貧乏っぷりに愛想尽かして向こうから去っていくんだ」
確かに、女子の方から寄ってくるというのは嘘じゃないな。マルコはイケメンではあるが、どっちかというと「色男」といった方がいいタイプだ。目は少しタレ気味で優しげな顔立ち、肩幅が広めでガッシリしてるがスリムな体つき、少し低めのボイスとモテる要素満載だ。
「なのに、いつの間にか、俺の方が女の子を取っ換え引っ換えして弄んでるって話になってるんだよね。さっきみたいに、先生にまでナンパ男だと思われてる始末さ」
モテ男もそれなりに大変なんだな。そういうお前は前世で彼女はいなかったのかって? さあ、どうだったかな。
「は〜い、みなさん、そろそろ1時限目が始まりますから、席についてくださいね〜」
アーベル先生の声が聞こえてきた。1時限目の科目は先生の担当なんだな。周囲を見渡すと、いつの間にかほとんどの席が埋まっている。
これまでは勉強は不真面目にしてきたが、せっかくの機会だ。今回はちゃんとやろうと思いつつ授業に臨んだ。




