108.少しだけ仲直り……?
「ちょっとタツロウ! アンタに話があるんだけど」
帰り道で不気味な2人組と睨み合いになった出来事があった日から週が替わり、今日は週明け初日。
ホームルームが終わって授業に入る前の僅かな時間に、クラスメートの女子サンドラがオレの席の前に立って話しかけて……というか明らかに尋問するつもりだ。
なんだろう。
このところ部活動で忙しかったからサンドラに因縁をつけられる覚えはないんだが。
「いいけど、何の用件だよ」
「決まってるじゃない、ソフィアのことよ。最近、朝の挨拶すらロクにしないで、会話も殆どしてないらしいって聞いたんだけど」
「まあ、概ねそのとおりだが」
「アンタ一体何しでかしたのよ! まさかアンジェリカと何かあったんじゃ」
「なんも……ねえよ!」
「ウソおっしゃい! 今の返答、ちょっと詰まったでしょ!」
「少なくともアンジェリカのことは関係ねえから!」
「でも、やっぱり何かはあったのね! さっさと白状しなさいよ!」
言えるわけないだろう。
オレのつまらない苛立ちを切っ掛けとして、彼女と口論になった挙げ句に気まずい状態が週明けまで続いているなんて。
だけど他に適当な言い訳も思い浮かばずにグズグズしていたら、サンドラのイライラ度合いがどんどん高まっていくのを感じる。
そして爆発寸前に……。
「タツロウ! いつまで待たせるのよ!?」
「そ、それはだな」
もうダメだ。
観念して話すしかない、そう思った時だった。
「……どうしたのですか、サンドラ。朝から男子を相手に大きな声を出して」
ソフィアがサンドラに声を掛けたのだ。
おかげで追及を一時的にでも躱せる。
サンドラは少し驚きつつもソフィアに状況を説明した。
「あれ、どうしたのソフィア? 次の選択授業で教室を移動したんじゃ」
「……うっかり筆記用具をこちらの机の上に忘れまして。それで、タツロウ君に何か白状しろとか迫っていたように聞こえたのですが」
「それは……アンタたち2人が何かギクシャクしてるみたいだから。どうせタツロウがソフィアを怒らせるようなことをしでかしたんでしょ?」
「……それについては、お互い様といいますか。私にも反省すべき点がありまして。ですから私が自分で解決しなければいけません」
「えっ? そうなの」
「そういうわけなので、しばらく見守っていただければ助かります。心配していただけるのはとても有り難いのですが」
「……わかった、ソフィアがそう言うなら。でも何かあったら相談してね。タツロウ、ちゃんとソフィアと向き合って、よ〜く話し合いしなさいよね!」
サンドラは言いたいことだけいうと踵を返して自分の席へと戻っていった。
「すまない……いやありがとうソフィア。おかげで助かったよ」
「……先程も言ったとおり、これは私たちで解決すべき問題ですから。でも、私の方がまだ自分の中で上手く消化しきれていなくて。もう少し待っていてもらえますか?」
「ああ、もちろん。オレもまだ自分の考えが纏まっていないんだ」
「ふふっ。やっと少しですが、私に向き合って話をしてくれるようになりましたね。思い切って抗議した甲斐が有りました」
「それについては悪い……いや、ちゃんと考えてから改めて言うよ」
「それでいいです、私は待ちますので」
「ありがとう。あー、それとだな……この前聞かれたこと、今答えてもいいか?」
「この前……?」
「ソフィアがイェルクとダンスを稽古した時の感想、だよ」
「あっ……あの件ですね。是非お願いします」
「では手短に。全体的には、オレなんかより2人のレベルが上なんで、素直に凄かったと思う。だけどステップの入り方とか、オレならもっとこう……」
ソフィアはオレの拙い感想を、真剣な眼差しで聞き入ってくれた。
それはいいが、段々とオレの方に近づいてくるのには参った。
彼女から漂う甘い匂いに心が惹かれて、最後の方は話すことに集中するのが大変だった。
「……こんな感じだけど、いいか?」
「ありがとうございます。彼との次回の稽古の際に参考にさせてもらいますね」
「あれで役に立つのなら、それでいいよ」
「もちろん、とても役立つ内容でした。ところで話は変わるのですが……放課後、この教室で待っていてもらえますか。用件は、アンジェリカのことです。詳しくはまた説明します」
「わかった」
「では放課後にまた……あっ、早く行かないと授業に遅れちゃう!」
最後は彼女には珍しくバタバタしながら教室を出ていった。
それはともかく、彼女とは少しだけ仲直りできた……のかな?
あとはアンジェリカについて動きがあるようだ。
というか心配していたのだ。
あの2人組の件があった翌日は、部活動の稽古はおろか授業も体調不良で休んでいたらしい。
週末だったので日数にしたらそれほどでもないが、いつも元気なアンジェリカがこんなことになるとはな。
それにしても何なんだろうな、アイツら。
もしアンジェリカに危害を加えるつもりなら、ボコボコにブチのめしてやる……!




