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名ばかり皇帝の跡継ぎに転生させられたけど、オレはこのまま終わるつもりはない  作者: ウエス 端
演劇大会編

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107.不気味な2人組

 ううっ、痛え。


 昨日のハプニングのせいで、オレの首はまだ痛みを引きずっている。


 だけどやるべきことはキチンとこなしてるよ。


 レオナから手伝いを依頼された大道具の製作作業。


 それからアンジェリカとのダンスパートの稽古。


 そして今は、丁度稽古が終わって休憩しているところだ。


「タツロウ君! 昨日も今日もダンス良かったよ! もう、マティアスなんて目じゃないくらい……痛い!」


「馬鹿なこと言ってんじゃねえよクルト! あんな程度じゃおれの足元にも及ばねえが、他にいねえから仕方なく代役を任せてるだけだ」


「もう〜、だからって頭を叩くことないだろう!」


 オレの目の前で下手な漫才を披露しているのは、今度の定期発表会で主役の王子様役を任せられているマティアスと、その参謀役を演じるクルトだ。


 ちなみにマティアスは男爵家、クルトは下級貴族でどちらもオレと同じ2年生だ。


 なんだかんだ言いつつも、オレとしては役者グループの中でこの2人が一番話しやすい。


「おっ、タツロウ殿! 拙者も貴殿のダンスには感服というか、尊敬の念を抱いてるでござるよ!」


 誰だコイツ?


 古めかしいというか仰々しい言い回しをしている……正確には、帝国は結構広いので、まだ方言の中にそういうのが残っている地方の出身なのだろう。


 それにしても老けた顔して高校生には見えないな。


 落ち着いた雰囲気といい、3年生の先輩なんだろう。


「なんか、褒めてもらってありがとうございます。えっと……」


「拙者、ゼップと申します」


「失礼しましたゼップさん。これからどうぞよろしくお願いします」


「……ところでタツロウ殿。なにゆえ拙者に敬語を使ってへりくだっているのでござるか?」


「えっ? だって先輩なんじゃ」


「いえいえ、拙者はまだ1年生。タツロウ殿にとっては後輩でござるよ」


「ええっ!? な……」


「はっはっは、拙者の顔が老けていると仰っしゃりたいのであろう? 小さい時分から言われ続けているので慣れっこでござるよ」


「コイツさ、1年坊だけど、この老け顔に見合ったシブい演技するんだぜ〜。だから今度の芝居で老齢の王様役を任されてんだ」


「はっはっは。マティアス殿、そんなに褒められると照れるでござるよ」


 褒められてるのかは何とも微妙なところだけど、確かにその配役を任されてるのはすげえな。


 そういえば、まだ今度の演劇の内容を説明していなかったが……。


 帝国内では『四大ざまぁ劇』の一つとして馴染みのある作品らしい、知らんけど。


 簡単に説明すると……。


 とある王国に君臨する老齢の王様には男子がおらず、三姉妹の中から後継者を選ぶことにした。


 中でも三女は、後継者とか関係なく普段から王様のために献身的に働くしっかり者だ。


 後継者は三女かと周囲からも期待され始めた矢先、あろうことか老王は突然三女を国外に追放してしまう。


 長女と次女が老王に甘言を弄していつの間にか味方につけ、三女についてあることないこと讒言して追放させたのだ。


 失意の三女は、追放先の王子と運命的な出会いを果たし、その力を借りて祖国へと舞い戻る。


 そして姉2人に復讐を遂げ、王子とともに2つの国を統べる女王として荒廃した祖国を立て直すのであった。


 ざっとこんな感じかな。


 あとは主な配役だが。


 主役の三女がアンジェリカで、運命の王子はマティアス。


 長女は現看板女優のハンナ先輩、次女は何とソフィアだ。


 というか、2人の普段の様子からは悪役令嬢役なんて想像がつかないな。


 老王はゼップ。


 そして次女の彼氏にして王位簒奪を狙う悪役貴族役は、『演劇部の王子様』ことイェルクだ。


 異名からして正義役しかやらないのかと思いきや、悪役もこなすのか。


 まあ、どうでもいいけど。


 オレはマティアスのダンスパートの代役、その役割をこなすだけさ。


 それはともかく、そろそろ大道具係の作業場へ戻らないと。


 稽古場の出口へ向かう……と、ドアで誰かと出くわした。


「おっと! 危なかった」


「きゃっ! ってタツロウくんだ。もう1階に戻っちゃうの?」


 休憩室から戻ってきたアンジェリカとソフィアだった。


「ああ、行かないと作業が残ってるから」


「そう。タツロウくん、また後でね!」


「……」


 アンジェリカとは笑顔で言葉を交わしたのだが、ソフィアとは話も何もしなかった。


 お互いに相手をチラ見はするが、昨日の口論とハプニングのことで、まだ気まずい思いが残っている。


 それで何て声をかければいいのかわからない状態なのだ。


 ソフィアはどう思っているかはわからんが、恐らく同じ思いだろう……多分。


 オレは結局そのまま1階の作業場へ降りてしまった。



 今日の部活動の時間は既に終了した。


 そして今日もオレは、ソフィアとアンジェリカへの出待ち対策役を帰り道で果たしているのだが。


「あらあら。いつもこんな風にタツロウ君だけ先を歩いてるのね〜」


 何故かハンナ先輩まで加わっているのだ。


 ああそうか、もしかして彼女も。


「先輩もやっぱり出待ちに悩まされてるんですか? 看板女優を張るのも大変っすね〜」


「いえいえ、全然。看板女優としては、寧ろ1人くらいは待っててくれないとカッコつかないんだけどね〜」


「じゃあ、何でオレたちと一緒に帰るんですか?」


「だって〜、こんなに面白そうな状況、見逃すのは勿体ないじゃない〜?」


 これのどこが面白いんだよ!

 こっちは真剣にやってるのに……この人の感覚はやっぱり他の人とズレがあると思う。


 そして実はもう一人、アンジェリカよりも小柄な女子も加わっているけど……誰だっけか。


「この子は1年生で、次の更に次の看板女優候補になれそうな期待の若手なのよ〜」


「わたし、グレタと申します〜! タツロウ先輩はウチのお兄ちゃんに雰囲気が似ていて、一緒に帰ると何だか安心できるのです〜!」


 オレに似た雰囲気って……自分で言うのもなんだがヤンチャ過ぎる奴なんじゃないのか?


「タツロウくん! 2人にばかり構ってないで、わたしの話を聞いて!」


「あはは、ますます大変になっちゃったね〜、タツロウ!」


 アンジェリカとレオナも割り込んでくるし、身が持たねえよ。


 ソフィアは……全く話そうとしてこない。

 昨日、あんなこと言わなきゃよかった。


 アンジェリカと会話しつつどうしたもんかと考えていたのだが、いい手が思い浮かばん。


 それにしても、今日も出待ちはいないようだし平和だなぁ〜、と別のことを考え始めた矢先のことだった。


「タツロウ君。あの……」


 ソフィアが話しかけてくれた!

 できる限り丁寧な応対を心がけねば。


「どうしたんだい、ソフィアさん?」


「……前を向いてください。あそこの木陰の辺り」


 なんだよ、出待ちの野郎を見つけてくれたってことか?


 教えてくれたのは嬉しいけど、がっかり感も半端ない。


 で、出待ち野郎はどんな奴だ?


 近づくにつれて、どうやら2人いるってのはわかってきた。


 2人だろうが3人だろうが関係ない、怪しい動きを見せたら即追い払うだけだ。


 しかしここで異変が起きた。


「あっ! そんな……!」


「アンジェちゃん! 私の後ろにすぐに隠れて!」


 2人組の人相がわかるところまで来ると、アンジェリカが急に震えだし、ハンナ先輩が彼女を守ろうとし始めたのだ。


 ただ事じゃねえな。

 オレは警戒感MAXで奴らとの対峙に臨む。


 そうしてお互いの姿がはっきりわかる距離で確認した奴らの姿だが。


 一人は中肉中背の男……いや少し痩せ型でパリッとした制服の着こなしをしている。


 立ったまま木に持たれ掛かって、腕組みと足をクロスした姿勢のまま突き刺すような視線で睨んでくる。


 もう一人はデブ……もとい、かなり恰幅が良く腹周りがでっぷりしていて、背もオレよりだいぶ高い男だ。


 こちらは普通に立っているが、ガムか何かをクチャクチャと噛みながら両手をズボンのポケットに突っ込んでいる、ちょっとだらしないスタイルだ。


 コイツはオレたちをジーッと眺めるように睨んでいる。


 そして2人とも無言で、非常に不気味だ。


 オレは通り過ぎる間も絶対に視線を外さずに奴らとの睨み合いを続けた。


 少しでも目を反らせば奴らが仕掛けてくる、そんな予感がしたからだ。


 この状態はお互いの姿が確認できなくなるまで続いた。


 まあ、結果としては何も起きずに済んで良かった。


 オレはアンジェリカに事情を尋ねようと話しかける。


「なあ、アイツらなんなんだ? 一体何があったのさ?」


「……」


「タツロウ君、今日はもう勘弁してあげて。また今度ちゃんとお話するから」


 答えられない状態のアンジェリカに代わってハンナ先輩が場を収めてくれた。


 レオナも話すつもりは無さそうだ。


 ソフィアとグレタは……表情からすると何も事情を知らないようだ。


 今日は寮の分かれ道ですぐに別れ、女子たちはアンジェリカを気遣いつつ早々に引き上げていった。


 せめてオレが睨みつけたことで奴らがこれ以上何も仕掛けてこなくなればいいのだが。


 だが、事はそう都合よく展開してはくれなかったのだ。

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