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名ばかり皇帝の跡継ぎに転生させられたけど、オレはこのまま終わるつもりはない  作者: ウエス 端
演劇大会編

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106.口論とハプニング

「あのさ、タツロウ」


「……何だよレオナ」


「どったの? 稽古から戻ってくるなり殆ど喋らないで。あ、もしかしてダンスがダメダメで部長に怒られたの?」


「……」


「ふふん、どうやら図星だな〜!?」


「違う! 何でもねえよ、疲れてるだけだ」


「もう〜、あたしがせっかく心配してあげてるのに、つれないなあ」


 大道具係の作業部屋で黙々と作業をこなすオレの近くへ、レオナが何気なく寄ってきたのだが。


 オレは今、自分でもよくわからないが苛立ってんだ、話しかけてくるんじゃねえ!


 とはさすがに面と向かって言えなかったので、心の中で悪態をつきながら作業を続ける。


 それに作業に集中してる方が嫌なことを忘れられるのだ。


 あれ?

 嫌なことって何だ?


 オレが苛つきだしたのはソフィアとイェルクのダンスの稽古の後からなのだが……。


 別に彼女たちから嫌がらせをされたわけでも無いのに、自分でもよくわからなくなってきた。


「へっ、ざまぁねえなぁ!」


 おまけに通りがかった1年生男子ドミニクからは嘲りを受けるしで、今日はロクなことがねえ。


 唯一の収穫はダンスの稽古でアンジェリカを何とかリードできたことかな。


 彼女の力量や動きのクセとかもわかったし、明日以降の稽古での取り組み方に繋がる。


「タツロウ〜! 今日の作業はもう終わりだよ。キミにはもう一つ役割があるんだからさ、さっさと着替えてあたしと彼女たちを待とうよ」


 レオナから部活が終業時間となったことを告げられた。


 いつの間にかそんな時間になってたのか。


 それじゃあ、オレのもう一つの役割である『出待ち対策』を全うしますか。


 着替えてから部室棟のドアの外側で黙って待つ。


 レオナはオレに気を使ってか話しかけてこない。


 なんか悪い気がしてきたが、でもやっぱりそっとしておいてほしいのだ。


「あっ! タツロウくん、お待たせ〜!」


「……みんな揃ってますね。さあ帰りましょう」


 アンジェリカとソフィアがドアを開けて外に出てきた。


 アンジェリカはオレの姿を見るといつも笑顔を見せてくれるのだが、ソフィアはいつもの微笑みを崩すことは殆どない。


 しかし、今日のソフィアは心なしかいつもより楽しそうな、充実感が漂った表情をしていると思う。


 稽古の出来がそれだけ良かったってことなんだろう。


 まあでも、そんなことはどうでもいい。


 オレは無言で彼女たちより少し前を歩きだした。


 今日は部活棟の前で出待ちをしている奴らは見かけないが、道の途中に隠れて待っているかもしれない。


 左右を見渡しながら、時々睨みつけるようにして進んでいく。


 それにしても春だからなのか、やけに風が強い。

 しかも向かい風だ。

 ただでさえ気分が晴れないのに、身体まで疲れるぜ全く。


 なのでオレはあまり喋りたくないのだが……。


 アンジェリカは普通に話しかけてくるので、さすがに黙ったままというわけにもいかなかった。


「今日の稽古は楽しかった〜! タツロウくんのおかげだよ」


「……そうか? オレはダンスの稽古を一緒にしただけだが」


「そのダンスが特に、なの! マティアスは確かに上手なんだけど……自分本位というか、彼が思う通りにわたしも動けっていうリードの仕方なんだよ」


「あーなるほどねぇ。まあ、そういうやり方をする性格してそうだな、アイツ」


「そう思うよね! 本当にいつも酷いんだから。でもタツロウくんは優しくしてくれるから嬉しいの」


「あはは、そうかな。自分じゃわかんねえけど」


 ここでオレは視線を前に向け直して話を半ば強引に切った。


 アンジェリカには悪いが、やっぱり笑顔で話し続けるのはしんどいのだ。


 そして少しの間だけ沈黙が場を支配したのだが、今度はレオナとソフィアが話しかけてくる。


「あのさ、明日の作業なんだけど……」


「タツロウ君。私の……」


「あ、ごめん。被っちゃった」


「……私は後でいいです。レオナ、お先にどうぞ」


 まずはレオナからか。

 まあ、適当に話を合わせよう。


「タツロウ、明日はあたしが今やってる作業を手伝ってほしいんだけど」


「ああ、いいよ。何をすればいいんだ?」


「それはね……」


 そんなことを話してるうちに、いつの間にか男子と女子それぞれの寮へと続く分かれ道が見えてきた。


 レオナは慌てて話し終えると、アンジェリカと何やら喋っていたソフィアに謝りはじめた。


「ゴメン! つい長く話しちゃって、ソフィアがタツロウと話す時間が殆ど残ってないよ」


「問題ありません。私が話したいことはそれ程多くはありませんので。気にしないでください」


 結局ソフィアもオレに話しかけてくるのか。


 でももうすぐ分かれ道だし、話が途中でも打ち切って、さっさと寮に戻ろう。


 早く一人になりたいんだ。


「……タツロウ君。私の稽古というか、ダンスはどうでしたか?」


 どうでしたかって……。

 何でオレに聞いてくるんだよ。


 それに何故にこやかな表情なんだ?

 そんなにイェルクと踊るのが楽しかったのかよ。


 オレは抑えていた苛立ちをぶつけるように、彼女につっけんどんな言い方をしてしまった。


「良かったんじゃねえかな」


「……それだけ、ですか?」


「これ以上、何が聞きたいんだよ?」


「それは、例えばリズムの取り方とかステップの踏み方とか、私の踊りを見てどう思ったかを詳しく」


「そんなの一緒に踊ってたイェルクに聞けばいいじゃん」


「いえ、私はタツロウ君がどう思ったかを聞きたいのです」


「……それなら最初に言っただろ、良かったって。それ以上は言いようがねえよ」


「そう、ですか……」


 最後の言い方はちょっと酷かったかな、悪いことをした。


 まあいい、ここで話を切り上げて3人と別れよう。


「それじゃあな。オレはもう行くよ」


 だがここで、ソフィアは思い切ってという表情で、オレに不満をぶつけてきた。


「タツロウ君! 前から思っていましたが、私と話す時だけ、話し方が雑になっていませんか?」


「そ、そんなことねえよ。他の女子と同じように話してるつもりだけど」


「……いいえ。先程も、あまり私の顔を見ないで、ムスッとしたまま適当な返事をしたではないですか」


「そうだったか? そりゃあ、オレだって虫の居所が悪い日もあらぁな」


「でもアンジェとレオナの話には、笑顔で丁寧に聞いてあげていましたよ?」


「そ、そんなことは……それを言うならお前だって」


「わ、私ですか? 私は人によって態度を変えることは極力無いように気をつけているつもりです」


「そんなことねえよ。オレと話すときは不機嫌だったり怒ってたりすることが多いじゃないか」


「それは、貴方がその切っ掛けを作っているからです」


「オレには身に覚えのないことも多いけど。それにオレ以外の奴には笑顔を見せていることが割とある。特に今日なんか、イェルクと喋ってる時はずっと笑顔だった」


「そ、そうでしたか? でもイェルクさんは……」


 ソフィアはイェルクのことを言いかけたところで、ほんの少し間を置いて思案する様子を見せた。


 そのすぐ後、普段は見せない不敵な笑みを一瞬だけ浮かべて、いつもより強めの口調で話を続けた。


「彼は頼れる先輩ですし、演技もダンスも実力が高くて尊敬できる方ですから。自然と笑顔が出るのです」


「なんだよそりゃあ! まるでオレへの当てつけみたいに!」


「フフッ、そう聞こえました? でも貴方の方から言い出したのですよ、彼のことは。私は思っていることを言ったまでです」


「止めなよ2人とも! こんなところで、お互いの思い違いを延々と言い争ってどうするのさ?」


「レオナは関係ないだろ!」


「関係あるよ! あたしたち演劇部の仲間でしょ?」


「……わたし、前から思ってることがあって。ソフィアって『言わなくてもわかってほしい』ってタツロウくんに求め過ぎてない?」


「アンジェ……そんなことは……」


「それで自分の思いが伝わってないとすぐ不機嫌になっちゃってさ。わたしのように積極的に伝えなきゃ、彼には伝わらないよ」


「……」


「あとね、さっきの発言だと『彼から別の人に乗り換えようとしている』って受け取ることもできるんだけど。例の約束の件、ソフィアの棄権で私の勝ちってことでいいのかな?」


「それは……!」


「もう! アンジェまで煽るのやめて、収集つかなくなるじゃない!」


 うわあっ……!

 オレも煽ったとはいえ、本当にどうにも止められなくなってきた。


 どうしよう。

 こんな時はどうすれば。


 だがここで、いわば神風とも言うべき強い突風が、オレたちの間をブワッと通り抜けていった。


 そしてオレの眼前には、3人の眼福な光景が……♡


 それからすぐにスカートの裾を手で抑えたソフィアは、顔を赤らめながらオレに詰問した。


「……み、見えましたか?」


 どうしよう、素直に本当のことをいうと却って彼女たちに恥ずかしい思いをさせるかもしれない。


 ここはあえてトボけることで有耶無耶にしてしまおう。


「な、何が?」


「……わ、私たちの、ス、スカートの中が、です」


「……いや、何も見えてないよ?」


「本当に、ですか?」


「もちろん本当さ! 白とピンクと水色のパンツなんて全然見えてないから! だから安心してくれ!」


「見えてるじゃないですかー!!」


 ソフィアの強烈な平手打ちがオレの顔面をバチーンと吹き飛ばした!


「ぶへあーっ!?」


 く、首が痛え!


 そりゃないぜ!

 オレは何もしていないし、あんなの不可抗力じゃないか!


 しかしオレの抗議を聞く間もなく、ソフィアはオレから顔が見えないようにしながらタタタッと女子寮へと進む道の方へ行ってしまった。


 レオナとアンジェリカは、呆然とするオレを慰めるかのように話しかけてくる。


「あはは……あたしも見られたのは当然恥ずかしいんだけどさ。さっきのは不可抗力だし仕方がないよね」


「わたしは、タツロウくんになら見られても嫌じゃないよ? なんなら、わたしのがどの色だったか確かめてみる?」


 ええっ!?

 レオナはともかく、アンジェリカの反応は男子高校生には刺激が強すぎる。


 多分恥ずかしさを紛らわせるためにオレをからかってるんだろうけど、どう返せばいいものか。


「レオナ! アンジェも! すぐに寮へ帰りますよ!」


 おお、いいタイミングでソフィアが2人を呼びつけた。


「なんかソフィアがうるさいから、もう行くね。タツロウくん、ばいばい」


「あはは……さっきのは、明日までには忘れてもらえると、あたしは嬉しいかな」


 3人は早足で寮へと帰っていった。


 やれやれ、ハプニングが起きて大変だったけど、おかげで険悪な雰囲気をリセットすることができた。


 それにしても……。

 オレがソフィアに対して募らせていた不満を、彼女もオレに対して抱いていたとはな。


 明日から彼女にどう話しかければいいんだろう。


 上手くできるかわからないが、できる限り雑な話し方をしないように……って、なんか面倒だなあ。

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