10.転入と挨拶
校舎についたオレたちだが、今日は正面玄関からではなく裏口から入った。
グーテンベルクについて1階を歩いて行くと、焦茶色で木目が渋い観音開きの扉が目についた。扉の前で止まると、グーテンベルクはコン・コン・コンと少しゆっくり目にノックし、部屋に向かって挨拶した。
「おはようございます。グーテンベルクです」
「どうぞ、入ってください」
「失礼します」
許可を得て扉のドアノブを捻って扉を押して中に入っていく。オレもその後に続いて入る。部屋の中には初老の実直そうな男が一人、両手を前に組んで立っている。
「例の転入生をお連れいたしました」
グーテンベルクは俺の方に手を向けながらその男に紹介する。
「お待ちしておりました、殿下……いや、タツロウ殿。私は本校で校長を務めているハイルマンと申します。ケイン大司教神学校へようこそ」
いい忘れてたが、これがこの神学校の正式名だ。そのまんまで捻りはないし、領内では『神学校』だけでここのことだと通るようだ。
それにしてもここの奴らはウッカリさんばかりだな。いちいちオレの正体を言いそうになる。
「タツロウ・タカツキーです。こちらこそよろしくお願いします」
俺も挨拶を返したところで、再びドアをノックする音が聞こえる。
「アーベルです。おはようございます」
校長がどうぞと返すや慌ただしく中年の男が部屋に入ってきた。顔がちょっと厳つくて怖そうだ。
「丁度いいところに来た、アーベル先生。本日からの例の転入生、ル……タツロウ殿です」
先生か、もしかしてオレの担任か?
「タツロウ・タカツキーです。未熟者ですがご指導のほどよろしくお願いします」
とにかく先に挨拶しておこう。こういうのは第一印象が大事、ただでさえオレは目をつけられやすい立場なのだから。
「アーベルです。わからないことがあれば何でも聞いてください。生活上の悩みも、少しなら相談に乗りますよ」
ニッコリ笑顔で挨拶を返された。見た目より優しそうな先生でちょっと安心した。
「それでは、私はこれで失礼します。あとはアーベル先生に案内していただければ」
グーテンベルクはそう言うと、少し急ぎ気味に部屋を出ようとしたが、ドアノブに手をかけたところで振り向きざまに
「そうそう、昼食のことを言い忘れておりました。寮の食堂にて簡単な昼食が用意されておりますので、昼休みになったら管理人室をお訪ねください。ご案内します」
そう慌ただしく言い残して、足早に部屋から出ていった。色々忙しいところ手間かけさせてすまなかったね。
「では、そろそろ教室へ参りましょうか、タツロウ殿。同じクラスの学生たちも登校してきている頃です」
はいと返事すると早速校長室を出て教室に向かった。途中でアーベル先生から神学校について説明を受ける。
「我らが神学校は、そもそも偉大なるケイン大司教様により聖職者育成を目的に設立されました。約200年の歴史で優秀な司教を多数輩出し――」
大司教と神学校の自慢話を延々と聞かされた。それはすごいですね〜と時々相槌を打ちながらやり過ごしたので、内容はほとんど覚えてない。
それに先生が言ってた通り、既にみんな登校してきてる。すれ違いざまに片っ端からおはようございますと挨拶に忙しかったのだ。
「さあ、着きましたよ、君のクラスの教室に。クラスメイトに元気よく挨拶してくださいね」
なんか小学生っぽい扱いだなと思いつつも、緊張しながら先生のあとについて教室に入る。オレの姿を見て、ざわついていた教室内が静かになっていく。
「皆さん、おはようございます。今日からこのクラスに入る転入生を紹介します」
先生から目で合図が来たので自己紹介する。
「タツロウ・タカツキーです。ドラゴベルク領出身の15歳です。最初はわからないことも多いと思いますのでいろいろ教えてください。みなさんよろしく」
パチパチとまばらな拍手が返ってきた。歓迎されてないのか? 不安な出だしだ。
「それじゃあ、そうだな……タツロウ君、あそこのナンパ男の隣に座りなさい」
「先生〜、ちょっとヒドくない? その紹介」
指さされた男子生徒の返しにどっと笑いが起きた。クラスの雰囲気は悪くなさそうだけどな。
オレは指定された場所に向かい、席に座りながら
「オレはタツロウ、よろしく」
と改めてナンパ男に挨拶した。
「俺はマルティクス・マルケルス。マルコでいいよ」
最初からフレンドリーな感じで、オレとは気が合いそうだ。そういうヤツといきなり知り合えたのは幸運だな。
「さあみなさん、朝の礼拝の時間です。席で静かに祈りを捧げましょう」
先生からの呼びかけの直後、鐘の音が校内に響き渡った。さすが神学校、その辺の儀式は抜かりなく行われる。オレも起立して手を組み祈りを捧げた。




