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57. 薬師メリッサ

 初の野宿で森へ入る前に、宿屋近くにある薬剤師のお姉さんのお店『薬師メリッサ』によっていく。


 わたしの薬草をいつも依頼して買ってくれている優しいお姉さん。

 メリッサお姉さんには今回、木のウロのことを相談して虫よけの薬草も作ってもらっていたので、いまから森へ一泊してくると報告しにきた。


 小さな三角屋根の緑の雨除けがトレードマークになっているお店。

 ドアには『薬師メリッサ』と書いた、木の看板がかかっている。


 そのドアを開けると上についている鐘が、思っているよりも高く、キレイな音色を奏でてくれる。


 キラン キラン


 ちょっとだけ、不思議?


 中に一歩入ると、フワッと薬草? 独特なハーブの香りが漂ってくる。


 店の中は丸い小さなテーブルと二脚の椅子がドア横の大きめの窓の前にちょこんとおいてあり、あとはカウンター側に備え付けの棚があるだけ。

 その奥はプライベートな部屋になっているのかな?

 小ぢんまりした、かわいいお店だ。


 鐘の音色を聞いて店の奥から、紫色の髪にくるくるヘアーで目がちょっとだけつり目な、見た目はシーナより少し上ぐらいに見えるけど、でもぜったいもっともっと上になぜか思ってしまう、年齢不詳なメリッサお姉さんが出てきた。


 どうして年齢不詳に思えるのか。

 それはわたしよりも十九歳年上のシーナより、なんなら二十六歳年上のマークよりも上だと感じてしまう、なんとも言えない落ち着いた雰囲気と言動。

 不思議な点がいくつもあるからだ。


 お姉さんがいう『ちょっと前』は、どう考えても 十年や二十年以上前のことで薬草の知識もずば抜けてすごい!


 見た目とぜんぜん合ってない。 

 ホントに不思議なお姉さんだ。


「あら、パールちゃん。いらしゃい。こんな朝早くに珍しいわね? なにか、買い忘れたものでもあったの?」


 冒険者の人たちのために朝早くからお店を開けてくれている『薬師メリッサ』だけど、わたしはいつも森の帰り薬草をギルドへ渡した連絡や薬草のお届けでよることが多いから、メリッサお姉さんに不思議がられた。


「今日これからあの木のウロで、一泊できることになったの。メリッサお姉さんには、いっぱい相談にのってもらっていたから、報告してから出発しようと思って」


 ふ、ふ、ふ、ふっ


「まぁ、そうなの。やっと泊まれるのね。じゃあ、ちょっと待ってて!」


 お姉さんはそういうと、店の奥に入っていった。

 しばらくして、いろいろ持って戻ってくる。


 一つ一つ、カウンターに並べていく。


 まずは、虫よけの薬草。

 これは一日中、虫がよりつかない薬草らしくウロに着いたら一番にウロの中へ撒くように勧められる。

 そして、この前の薬草。

 もしまだ虫や蛇がウロの中にいたりよってきたら、もう一度燻して使うための予備。

 あと、虫刺されによく効く軟膏ミニ。

 よほどのすごい虫でないかぎり、この軟膏で虫刺されは大丈夫だから、もしものときのために持っておくように……

 それから、ポーションは上、中、下と三本揃えていることを確認すると、ポーション? を一つ机の上に置いた。


「これはね、心が落ち着いて少し眠くなる、ポーションというよりはお薬ね! 夜、怖くなって不安で眠れないようなら、グイッと飲むのよ。少し眠くなりやすくするだけだから、イザッってときにはすぐに起きれるし、なんならスッキリ目覚めるはずよ!」


「おーっ、それはすごい! 怖くなくても飲んじゃいます!」


 ふ、ふっ


「それと、これもね。軽い獣よけとリラックスできる薬草が一緒に入っているから、ウロの入り口付近にでもおいておくといいわよ」


 お金は今回は使い心地を教えてくれたらそれで良いというので、ありがたくもらっておく。


 そのかわり、カウンターの上に置いてあった新商品の軟膏をひとつ買うことにした。

 

 大きさが二種類。

 大のサイズはおとなの女性メリッサお姉さんが手をグーにした大きさぐらいの円で、深さは三センチほどの容器。

 普通のサイズは深さは大と同じ、でも円の大きさが大の半分より少し小さい容器。


「これね、少し大の入れ物を良かれと思って、おまけで大きくしたら、普通のサイズが小さく見えてしまって失敗したのよね」


 なるほど……

 たしかに、普通のサイズが小さく見えてしまうかも……

 商売って難しいなぁ〜


 普通サイズが、銀貨五枚。

 大のサイズが、銀貨八枚。


 なんでもこの大の容器を別の物に変えるため在庫処分を兼ねて、今回ミニの軟膏が三つもついてくるキャンペーン中だといって全部で四つも軟膏が手に入った。


 んっ? それでいいのか……?

 不思議だけど、ありがたくこれももらっておいた。


 この軟膏は下級ポーションよりは効き目が落ちるし、ちょっと高く思うかもしれないけど、少しの擦り傷なら治り、 ポーションより使い勝手が良いそうだ。

 これはニ年ぐらいしか持たないらしいけど、手荒れなんかにも回数関係なく何回も使えるから、とっても便利よっと教えてもらう。

 肩から下げるカバンの中に全部つめて、メリッサお姉さんには、また帰りにお薬の使い心地を伝えによるとお礼と一緒にいっておいた。


 それからいつもの薬草を頼まれ、また依頼をギルドに出しておくわねっといってくれる。

 お姉さんはわたしの上得意さんだから、今回も指名依頼をしてくれるようだ。


 がぜんやる気になってきた。

 

 メリッサお姉さんには感謝しかない。


 わたしがこうして普通に街をひとりで歩けているのも、メリッサお姉さんのおかげ。

 

 そう、メリッサお姉さんに出会えたのはホントにラッキーだった。


『薬師メリッサ』このドアにかかった看板と……

 キラン キランと鳴るキレイな音色……

 そのあとにつづく、ハーブの香り……


 怖いイヤな思いをして逃げ込んだところが楽園のように思えて。

 お姉さんの笑顔に救われた記憶は、ぜったい忘れないだろう。



 わたしにとってハーブ、この薬草の香りが……


 しあわせを呼ぶ香りに変わった瞬間だった。

 

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