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53. 花冠

 朝早くにまたカイルさんが小屋にやってきた。


 ナギくんの容態が急変したかとドキッとしたが、なんのことはない。

 これからのことを昨日話さなかったので、朝一番に相談しにきたという。


 カイルさんは律儀だ。


 マークとも話しあって、ナギくんのからだは段々とよくなっていったように見せていくことで落ち着いた。

 しばらくはまだお母さんと二人、小屋で食事をしてもらうことになる。


 お礼はいくらしたらよいのかカイルさんが聞いてきたので、お金はいらないと言ったけど、それでは真面目なカイルさんが納得しない。

 少し考えて思いつく。


「わたしが後日、一本もらう香木は良いものを選んでおいて」


「そんなの当たり前だ! 他は?」


 何度も次を催促するから付け加えていってみた。


「んーっ、じゃあ……わたしがいなくなった後は、マークの味方になってあげて。様子を見てくれるだけでいいからね。そして……三年後にマークたちがここをでていった後、マークとトムさん家族のお墓をみてくれる?」


「パール……」


「そんなことでいいなら、任せとけ! オレの一家はずっとこの辺境伯様に仕えるから、一族の命の恩人の家族の墓としてずっと守っていくよ!」


「カイルさんありがとう! これで安心だよ! わたしのせいでマークとトムさんの家族の人たちが寂しい思いをするのが心配だったの……よかった」


「でも、ホントにそんなのでいいのか?」


「カイルさん、おれからもたのむよ! これでおれの心配ごともなくなるよ」


「まあ、そう言ってもらえるならいいのかね?」


「そうだよ、すごく助かるよ!」



 それからしばらくはナギくんの顔を見なかったが、少しずつ食堂で見かけるようになっていく。

 まわりの人たちも初めのうちは、もう大丈夫なのかと聞いていたようだけど、ナギくんは無難に大丈夫だとだけ答えていた。

 食堂で一緒に食事をするときも、あまり馴れ馴れしくせず、ホント賢い子だと思う。

 カイル家、安泰だね!



 わたしが王都に旅立つまであと二ヶ月と少し。

 厨房でみんながマークとシーナの結婚パーティーとわたしのお別れ会を同時に開いてくれることになった。


 マークがその前に辺境伯様へ挨拶をしておこうというので、二人で書斎へ向かう。


 はじめて入った書斎の中は豪華なソファがドンと置いてあり、まず驚いた。

 こんなにキレイなソファが世の中にはあるんだ……

 そんなソファに辺境伯様が優雅に腰掛けている。


 これは威厳なのか? 

 高貴なお方は何かが違う? 

 思わずマークにそっと近づくと、マークはわたしの背中を優しく撫でてくれる。

 ちょっと安心して案内された、ピカピカ輝いてみえるソファにマークと並んで腰を下ろす。


「とうとう六歳になって旅立つときがきたのだね、きみのことはきっと忘れないだろう。もう王都で住むところは探してあるのかい?」


「はい。両親が住んでいた宿屋に住めるように、マークが段取りしてくれました」


「ふむ。わたしはきみが旅立ったら、侯爵様に一応知らせなければいけないからね」


 辺境伯様は後ろに控えていたセバスチャンさんに目配せすると、セバスチャンさんは軽く頷きわたしの前に金袋をそっとおいた。


「これがわたしからきみへの最後の餞別になる。このようなことは今までになく寂しくも感じるが、最大限のことはしたつもりだ。冒険者を頑張ってくれたまえ」


「今までありがとうございました。ありがたくいただきます」


 簡単な挨拶をして辺境伯様への義理は果たした。



 さぁ、いまからはマークとシーナの結婚パーティーの準備だ!


 シーナに花冠を作りたいとマークに伝えて、森に入る許可をもらう。

 残念、やっぱりマークも一緒にくるみたいだ……

 ホントはマークにもナイショで作りたかったけど、森をなめたらいけないとこの前イヤと言うほど教えてもらったのでここは従って、マークのブートニアも隠さず一緒に作ることにする。


 森の探検で白ユリの群生地を見つけていたので、そこまで走っていく。

 マークと二人なら身体強化をすれば一時間もかからずに着くことができる。

 わたしが作っているあいだ、マークがまわりの警戒をしてくれるので安心して作れた。

 満足するものができて喜んでいるとポンッと、わたしの頭にマークがなにかをのせる?

 んっ、おろしてみると花冠だった。


「パールの分だよ」


「マーク、花冠作れたんだ? いつの間に作ったの?」


「妹が、パールの母さんだなっ、がいたからな。覚えさせられて、何度も作らされたよ」


 お母さんが……


「その、なんだ……パールが花冠って言ったときに、あー 、親子だなぁって思ったよ」


「そう……お母さんも花冠が好きだったんだ」


 さぁ、帰ろうかというときに、ハッとトムさんだけが何もないことに気づいて、もうひとつブートニアを作ることにした。


「あとは明日の結婚パーティーを待つだけだね! トムさんが腕によりをかけていっぱい美味しい料理を作ってくれるよ!」


「あぁ、そうだな……」


「なぁ、パール。このユリ、もう少しつんでいかないか?」


「どこかに飾るの?」


「いやな、マギーとベン義父さん。それからシーナのお母さんナンシーさんのお墓に供えようかと思ってな……」


 そうだよー! 大切なこと忘れてたよー!


「そうしよう! それがいいよ! とっておきのキレイなユリを探すね!」


 大きめの布の袋を持ってきてよかったー!


 なんとか持ち帰ることができたユリの花は、馬番小屋をユリの香りで埋め尽くした。


「パール。 ひとりで……花を供えに行きたいんだけど……いいかな?」


 アッ!!


「わたしのことは気にせず、行ってきて! いっぱいみんなとお話ししてきてね!」


「ありがとう……行ってくるよ」


 マークは三人分のユリの花を抱え、馬番小屋をでていった。


 なんて言ったらいいのか、わからないけど。

 マークにはこれからいっぱい幸せになってほしいな……


 まだ残っているユリの花冠とブートニアが、馬番小屋にユリの香りを程よく広げてくれている。


 マークが帰ってくるときには特製パールティーでも作って待っていようかな?



 あと少しで、わたしは王都へ旅立つ……


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