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05. 面会

 わたしは両親と宿屋の契約のお陰で伯父さんに無事会うことができたが、伯父さんにとってそれは辛いショッキングな出来事だった。


 妹夫婦の死。


 託された一歳の赤ん坊。



 伯父さんは二年前の流行病で奥さんと義父を同時に亡くし、リエール辺境伯家の馬小屋に隣接した小さな小屋で今は一人、馬番をしている。


 哀しむ時を与える間もなく、契約していた宿屋の人は妹夫婦のことを事務的に伝えると、伯父さんにわたしを預けすぐにその場から立ち去った。


 きっとそれが一番良い方法(渡し方)なんだと思う。


 この契約の一番辛い瞬間だ。


 残された伯父さんは涙を上着の袖口でグイッと拭い歯を食い縛ると遺された赤ん坊の額に軽く唇が触れるくらいの口づけをした。


 まるで黙祷をしているかのようにしばらく額に口づけ、そしてそっとつぶやく。



「リリー」


 それは伯父さんの妹の名前だった。



 伯父さんは赤ん坊をギュッと一度抱きしめてゆっくり動き出す。



 まず家令のセバスチャンさんに辺境伯様にお会いしたいと申し送りをし、玄関ホールの端で待機した。


 ちょうど村の視察から帰って来た辺境伯様はセバスチャンさんから話しを聞き、その場で玄関ホールでの面会が許される。



「お忙しい所の面会ありがとうございます。わたしは馬番をさせていただいておりますマークでございます。この度妹夫婦が亡くなり、この子の身寄りがわたしだけになってしまいました。どうかこの子を辺境伯様のご慈悲でわたしのそばに置いて下さいませ。仮の冒険者登録ができる六歳まででけっこうでございます。食事代もわたしの給金からこの子の分を引いていただいて、どうかこの子を辺境伯家の片隅に置いてやって下さいませ」


 辺境伯様は伯父さんと赤ん坊を交互に見て軽く頷き。


「まだ小さいのに可哀想に……よかろう、冒険者の仮登録ができる六歳まで許可しよう。それまで精進して過ごしなさい」


「ありがとうございます。辺境伯様のご慈悲に感謝致します」


 ホッとした伯父さんは赤ん坊を抱きしめながら頭を下げ、辺境伯様が玄関ホールから立ち去るのを待っていると……



 パチパチパチパチッ


「すばらしいですわぁー! わたくしとても感動致しました!!」


 拍手と一緒にやって来た派手な軍団。


 辺境伯家でたまたまお茶会をしていた侯爵家のお嬢様とご婦人方。


 いつもは侯爵家のような高貴な方がこのリエール辺境伯家のお茶会に参加することはない。

 今回は隣の領まで田舎の視察に来ていた侯爵家のお嬢様を、隣の領地の子爵家の奥様が自慢したくてわざわざ連れて来ていたのだ。


 わたくしはこんな高貴な人ともお知り合いなんですよーぉ!的な自慢。


 いつもより派手に着飾ったご婦人集団は玄関ホールにさっそうと現れて。


「マナー違反ではありますが、偶然お話しは聞かせていただきました! 辺境伯様は身寄りのなくなった平民にも生きる術を示してご慈悲を与えられるすばらしいお方なのですね! 感動致しました。微力ですがわたくしもこの子が冒険者として生きていけるように力添えさせていただきます」


 今まで広げていた宝石の付いている扇子を パチンッと音を派手に響かせて閉じ、侍女を通してその扇子を伯父さんに渡してきた。


「立派な冒険者になるのですよ!」


 お嬢様は鼻息荒めで得意げに赤ん坊に向かってひと声かけると、善い事をしたと気分良くさっそうと帰って行く。


 残され伯父さんと辺境伯様は苦い顔でポツリと一言辺境伯が……


「すまない……その子を雇うことができなくなった。せめて六歳まではここで自由に冒険者になるための準備をしておくれ」


「ありがとうございます…… 過分なご配慮、感謝いたします」


 軽く頷いた辺境伯様は少し遠い目をして玄関ホールから去って行く。


 領の風習で身内の子どもを雇ってもらうときの常套句に『冒険者の仮登録ができる六歳まで……』 という言い回しがあるらしく、それを知らないお嬢様がその言葉を本気にしてしまい、わたしは六歳で冒険者になることが決定してしまう。


 お屋敷の人たちからすると。

 ちょっと不憫で可哀想な子になってしまった……


 瞬間だった。


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