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25. 厨房で待つ

 厨房は今日のメインの仕事が終わり、明日の仕込みをしている。

 みんながちょっとだけゆったりしていた。


 料理長のトムさんはスープストックを味見しながら、わたしの相手をしてくれている。

 トムさんの邪魔にならないように注意し、踏み台を使って大きなお鍋の中を覗きこむ、そこにはお肉の塊がゴロゴロ入っていた。


「味見してみるか?」 


 その言葉でトムさんの顔を下から覗きこみ、目を輝かす。


「いいの?! 飲んでみたい!」


「ほれ」


 小さな椀にスープをいれて渡してくれた。


「ここからいろんな料理ができるんだぞ、知っていたか?」


「うん。なんとなくだけど、知ってる」


「ほーぉ。それは、まあ……あれか?」


 スープを飲みながら、軽くうなずく。


 よく考えてみると、知らないはずのことをなんだか知っていたっと、思うことがたまにある。

 そのときになって、あーっ、そうなのかと自分でも気がつく。


 厨房には他の人もいるから『前世の記憶』のことを濁してくれたようだ。


 料理長が作ったスープストックを味見できるなんて、他の料理人からしたら羨ましいだろうけど、みんなやさしく見守ってくれている。

 やはりわたしが六歳で冒険者にならないといけないと、知っているからだろう。

 男の子でも六歳で冒険者になるような子は、この領にまずいない。

 しかもわたしは女の子、早すぎる。



「どうだ、味がわかるか?」


「うん、おいしいよ。お肉の味がすごくするね」



 ふっと急に、前世の記憶が頭をよぎる。


 ばあちゃんにもトムさんと同じように聞かれて、同じようにおいしいと答えた……記憶……?


 不思議? へんな感じ。

 このあとの会話は、たしか……



『ばあちゃん、おいしいけどなんでお鍋の中に、野菜のくずが入っているの? これゴミだよ!』


『バカいってんじゃないよ。これが野菜のくずなんて、思い違いもいいところさ。これは野菜の端のほう! ゴミでもない。これだってキレイに洗えば、立派な野菜になるんだよ。ここには、秘密のおいしさがいっぱい隠れているんだからね』


『本当!?』



 ばあちゃんが笑いながら教えてくれた。

『秘密のおいしさ』なんで急に思い出したんだろう?




「ここに野菜は、今から入れるの?」


 前世の記憶に引っ張られて、ついトムさんに聞いてしまった。


「野菜か? 野菜は、調理するときに入れる。そうしないと崩れて溶けてしまうからな」


「えっ!? そうなの?」


「んっ。なんだ、違うのか?」


 トムさんの片方の眉毛が、ピクンと上がる。


「わたしが知っているスープには、ここに『野菜のくずぽいモノ?』が入っていたかな」


 ばあちゃんに注意されたのを思い出して、野菜のくずを『野菜のくずぽいモノ』に言い換えてみた。

 ばあちゃんが教えてくれたことは、ちゃんと守るからね!

 顔も思い出せないのにスープを思い出すなんて……

 いい加減だけど、きっと大切な記憶なんだと思う。



「野菜のくず? おい、これは餌じゃないぞ。辺境伯家の方たちがお口にする、上等なスープなんだぞ」


 顔を歪めて悪い冗談をいうなと、今にも怒鳴られそうだ。


 あわてて真面目な顔をして言葉を続ける。


「違うよ。冗談じゃなく本当に、野菜のくずぽいモノを入れてたんだよ。トムさんだって、スープには硬いすね肉とか使うでしょ? それと同じことだよ」


 んっ?!

 トムさんの片方の眉がまた少し上がり、アゴをゆっくり片手でなでる。


「……それは、どう使うんだ?」


「小鍋で作ってみる?」


「わかるのか?! やってみてくれ」


 軽くうなずきトムさんに平たいかごを借りて、厨房の中を見て回った。

 後ろからトムさんがついてきて、それを厨房の人たちが遠巻きにみている。

 すごく気になっているみたいだ。


 言葉選びが悪かったのか?

『野菜のくずぽいモノ』って、言葉を選んだつもりだったけど、それでもまだダメだったのかな?


 失敗したかも……


 そんなことを考えながら、野菜を集めて回る。


 タマネギの皮とへたの部分、ニンジンの葉とつけねの部分、ネギっぽいものの緑色した部分、セロリの葉、転がっていた小さなニンニクやその辺にあったハーブ、捨てるためにまとめていた場所から少しずつ拾い集めていく。

 

 集めるあいだは黙ってみていたトムさんが、集められたモノたちをまざまざと見て、一度両目を閉じる。


 ハーッっと、ため息を吐き……


 おもわず声が漏れた。



「……ゴミだな……」












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