24. 剣の手合わせ
四歳になって夕食をマークと一緒に食べながら、シーナに食事のマナーの指導をしてもらっている。
はじめは軽い気持ちで教えてもらっていたのに、それを知ったまわりの人たちまで、指導という名の注意を食事中にポンポン入れてくるようになった。
「パール、そんなに急いで食べてはいけない」
「パール、スープを飲むときの姿勢が悪いよ」
お屋敷の人たちは自分はさておき、お貴族様を相手に仕事をしているから、へんに目が肥えている。
ちょっとだけ、鬱陶しい……
「おまえのためになるから、ありがたく指導されておけ。六歳で冒険者になったら幼いおまえにいろんな人から、さまざまな指導が入るぞ。その予行練習だと思え」
確かになっ。
そうと思って指導されながらの夕食を、ありがたく受け入れている。
「マーク、夕食後ちょっと書斎まできてくれるかい」
セバスチャンさんがやってきて、それだけ告げるとすぐに戻っていく。
わたしはそのあいだ厨房で、時間潰しをさせてもらえることになった。
わぁーっ、久しぶりの厨房だからウキウキする。
♢
「お呼びでしょうか?」
書斎のドアをセバスチャンさんがゆっくり開ける。
中に入るとすぐ目に飛び込むのは、重厚感のある美しい曲線のソファたち。
中でも辺境伯様がお座りになっているソファは、当主様専用の椅子なのだろう。
高い背もたれの上部両面に耳がついたような見たことのないフォルムで、なにものからも守られているような、高貴で歴史ある辺境伯家そのもの。
威厳と存在感に圧倒される。
そんな高貴な椅子に辺境伯様は優雅に腰掛け、なにかの書類を見比べていた。
アース様は姿勢正しく足を揃え、長い数人掛けの重厚なソファの端に浅めに座り、なにか話しているようだ。
マークが視線に入るとサッと席を立ち、辺境伯様の後ろに控える。
「まあ掛けたまえ、きみに確認したいことがあってね」
高貴なソファたちに圧倒されながらも、マークはアース様のいた場所に同じく浅めに座る。
「パールのことなんだが、アースがいうには剣の手合わせを身体強化を使ってきみとやっているとか? 本当かい」
「はい。辺境伯様やお嬢様に支援してもらいましたので、あの子を冒険者にするために二人で精進しております」
「ふむ、そうだったね。あの子は侯爵家の方とのお約束があるから、必ず冒険者にさせないとね」
「はい、わかっております」
「アースがね、あの子がルートの手合わせにちょうどよいと言うんだよ。年齢的にもあと素性もね、パールは身内になるから未熟なルートのいろいろが……まあ、のちのち出てきては困るからね。たまにあるんだよ、いつの話しだという噂が流れでることが」
「お言葉を返すようで申し訳ないのですが、アース様にも先日お伝えしましたが、パール、あの子はまだ人に手加減ができるほどうまくありません。ルート様が強く打ってこられたら同じように打ち返してしまいます。そのときどんな打ち方をするか、下手をしたら両者とも怪我をしてしまうかもしれません。辺境伯家跡取りのルート様に、冒険者にならないといけないパールです。危険ではないでしょうか?」
「それについては木剣ですし、わたしとマーク君のふたりが付いているところで、手合わせをしてもらいます。そのほうが安全であなたも安心でしょう。あとポーションも用意していただけることになりました。それに毎日ではなく、週に一回でよいのです。あの子も一緒に教えましょう」
「マークどうだろう? 今回は特別に屋敷の手伝いとしてあの子に小遣いを渡そう。冒険者をするんだ、お金は必要だろう? その上、アースに剣の指導もしてもえるよ。安全にね」
「はーっ、わかりました。ポーションまでご用意していただけるとは……そういうことでしたら、どうかよろしくお願いいたします」
「ふむ、よろしい。あとはセバスチャンに任せるよ」
斜め後ろアース様とは反対側に控えていたセバスチャンさんがスッと出てきて会釈する。
立ち上がって帰ろうとしたマークは、ふっと思い出した。
「辺境伯様。ひとつ、お伺いしたいことがございます」
「なんだい?」
「はい。パールのことですが、あの子は六歳になったらすぐに冒険者にならないといけないのでしょうか、それとも六歳のあいだであれば、いつでもよいのかをお聞きして、旅立つ用意をさせないといけません。できれば六歳のあいだでっということにしていただくとありがたいのですが、いかがでしょうか?」
「そうだね。詳しいことは決めていなかったから……六歳のあいだならいつでもいいんじゃないかい?」
セバスチャンさんを横目で見て軽くうなずくと、何かの書類に目を向け出した。
話しは終わりだ。
「ありがとうございます。助かります。旅立ちの日にちが決まりましたら、お知らせさせていただきます」
頭を目一杯下げ、マークは書斎をあとにする。




