20. 図書室
お屋敷の玄関ホールには、大きなボンボン時計がある。
わたしたち平民に時計は高価なモノ。
お屋敷の従業員たちは、このボンボン時計を中心に生活している。
外では教会の鐘のなる回数で、ある程度の時間がわかるようだ。
十二(0)時で鐘が一回、三時で鐘が二回、六時で鐘が三回、九時で鐘が四回、三時間ごとに鐘はなる。
これを二周して一日。
一分は六十秒、一時間は六十分、一日は二十四時間、一週間は七日、一月は三十日、一年は十二ヶ月。
チェリーに聞くと前世も同じだった。
四季は国や領地によって違うみたいで、この国に雪は滅多に降らない。
リエール辺境伯領は、概ね春の陽気だ。
大抵は半袖と長袖シャツで生活できる。
この一年でいろいろお屋敷のこともわかってきた。
まず、辺境伯様は午前中、四つの鐘がなる九時頃に視察へ行くことが多い。
大抵セバスチャンさんがそのとき一緒についていく。
午後からは書斎にこもっているので、セバスチャンさんも必然的に書斎にいることになる。
これ、重要!
奥様は午前中部屋でゆっくりされて、午後からお茶会で忙しくなるようだ。
お屋敷でのお茶会だけ気をつけていたら、そう会うこともない。
一人息子のルート様も、四つの鐘がなる九時頃に先生がやって来て勉強させられている。
午後は剣の扱い方と乗馬の練習が一日おき交互にあって、そのあとまた部屋で自習。
三人の中では一番屋敷内をうろちょろしていて厄介かな?
なぜこんなことを細かく調べたかというと、図書室に忍びこむため!
一番会う確率の高いルート様に合わせて動くことにした。
午前中は先生がルート様を勉強で、部屋に確保してくれている。
四つの鐘がなる九時頃から一つの鐘がなる十二時まで、この時間が一番図書室へ忍びこむのに安全だとわかった。
朝、お屋敷の従業員は鐘が三回なる六時までに、朝食を食べ終わって働き出さないといけない。
マークとわたしも五時頃には朝食を食べに、お屋敷の従業員食堂へ行く。
ここからわたしの一日が始まる。
鐘が三回なる六時。
マークは馬小屋で馬の世話を始める。
わたしは身体強化を使い、おもいっきり走って湖までいく。
誰もいない湖でチェリーを先生にして、魔法の練習をする。
鐘が四回なる九時。
いったん馬小屋に戻る。
そして身体強化を使って、お屋敷の裏手側にある塀から一番近い木に登りだす。
木をつたって、二階図書室の少し出っ張った雨避けに移り、そこから図書室の風通し用小窓に移動する。
木片で止めておいた窓をそーっと開け、中の様子を伺う。
図書室の掃除は毎日ではないし、掃除をしても辺境伯家の人たちが動き出す九時までには終わっている。
この時間はセバスチャンさんが辺境伯様の用事で、本を探しにくる以外は誰もこないと調べがついているのだ。
誰もいないのを確認して、小窓から図書室の中に入り、一番近い本箱の上に飛び移る。
あとはお目当ての本を探して、部屋の隅に移動するだけ。
ドアから死角になる所でゆっくり、鐘が一回なる十二時までお目当ての本を読む。
戻る時も小窓から、もと来た道順で馬小屋に戻る。
そのとき風通し用の小窓に、外から木片で窓が開かないようにすることも忘れない。
マークが馬小屋で待ってくれているので、一緒に昼食を食べに従業員食堂までいく。
お昼からはお屋敷がバタバタしだす。
マークのそばにいるか、また湖に行き鐘が二回なるころ、三時ごろになればキリのよいところで馬小屋に戻る。
お風呂は夕食前か後、その日のマークの仕事具合で決めているかな。
夕食は鐘が三回なる前の五時〜六時ごろで、空いている人から順番に食べていく。
夕食後は就寝まで好きなことをして過ごす。
一日は、あっという間だー!
「よっパール、リンゴのジャム持ってきたぞぉ」
トムさんとシーナが夕食後に、馬番小屋までやってきた。
トムさんもシーナも大きなバスケットを持っている。
もしかして……
ウフッ
ちょっと首を傾けて、少し困ったような顔で……
「わたしも一度、お願いするわね。パール?」
やっぱりそうですか……
「お父さん、お願いね」
「おうよ、まかせとけ」
トムさんがバスケットの中からカナヅチとクギ、ロープを出してお風呂場に向かう。
まさか、もしかして……
シーナがバスケットの中から布を取り出す。
「本当は衝立がよかったんだけど、ちょうどいいのが今なくって、カーテンにしたのよ。パールもどうせ必要になるでしょう?」
「そう……だね……」
いそいそとシーナはお風呂場へ、草原の見える部分にカーテンを取り付けに行った……
マークと二人で顔を見合わせる。
「シーナって、じつは、頑固……なの、かな?」
「そうだな……まあ、頑固、だな」
二人して思わず、プーっと吹き出し笑ってしまう。
笑わせてくれた、お茶目で頑固なシーナのため……
樽風呂のお湯を張りにマークと二人。
笑顔で向かった、楽しいな。




