102. 宿屋をでる
宿屋には変幻のマントに念のため認識されにくくする帽子をかぶり、お店の裏から自分の部屋へいく。
別にたいした物は部屋に置いてないけど、少しのお金に服と雑貨……
すべてキレイに、腰のマジックバックへしまう。
手紙は奮発して紙を使い、無事に帰って来たけど、この部屋を出ることになったとだけ書いて、いままでの感謝と心配をかけた謝罪も伝えておく。
もう他のことは何も書かなかった。
砂金の入った細いバンブの木を一本と金の塊をひとつ、机の上に置いて部屋を出る。
最後にそおっと、オヤジさんとおかみさんの顔を見に食堂までいくと、忙しくなる前で夕食の準備中のようだ。
いつもと変わらない二人……
ここでの生活も慣れてきたところだったけど、また少し経ったら会いにこよう……
オヤジさん、おかみさん。
さよなら……
いままでありがとうございました。
オヤジさん、心配かけてごめんなさい……
元気な顔をみせたいけど……
やっぱりメリッサお姉さんのいうとおり、迷惑をかけそうなのでやめておく。
不義理だな……
それからまた『薬師メリッサ』まで、お祖母さんに届ける荷物をもらいに戻ってきた。
キラン キラン
この心地よいハーブの香りは、もうしばらく嗅げないのかな……
メリッサお姉さんはひと抱えほどの布の袋を用意して待ってくれていた。
中には薬草をいれているのか?
受け取ると、見た目よりだいぶ軽い。
それとは別に裏から小箱を持ってきて、そこにはわたしのいつもの薬草セットとポーションが四本。
新商品の軟膏も 大、中、小、と、いろいろ入っている。
あとは見たことのある袋? を取り出して……
その袋? とは大きさの合わない、リンゴがいっぱい入った小さめの木箱が中から出てきた。
「あっ、魔法袋!」
わたしが叫ぶと、メリッサお姉さんは笑いながら教えてくれる。
「これはサラマンダーが一匹分の、時間経過もある魔法袋よっ」
薬師として独立するときに、お祖母さんからもらったそうだ……
いまこの世界にある魔法袋の最大量は、サラマンダーが五匹分。
そして時間経過が少し遅くなるモノを、ここの王族が手に入れているとウワサがあるらしい。
だからそれ以上を持っていたとしても、人にはぜったい言わないよう忠告してもらった。
この腰のカバンのマジックバックだけでも、すごく珍しいみたいだ。
うわっ?! そうなの? 聞けてよかった……
それにポーションも薬草もリンゴも、すごくありがたい。
全部せんべつだといって、渡してくれる。
わたしもなにか他にあげるモノは? っと考えて、マークたちにもお別れのときに渡した、香木で作った一粒の丸い玉のネックレスをメリッサお姉さんに渡す。
「これはわたしが辺境伯で作った、香木のネックレスなんだけど、よい香りがするから使ってね」
「まあ、これはっ! いま王都の貴族が噂している貴重な香木じゃないの!? そう……辺境伯領にあったのね。パールちゃんが……ありがとう。大切に使わせてもらうわ……」
お祖母さんの家の地図をもらい、メリッサお姉さんと抱き合って、しばらくしたらぜったいまた遊びにくると約束してお別れをした。
いまから親方と約束をした鐘が二つと三つのあいだまでは、だいぶ時間がある。
今の間に少し食べ物を買い足しておこうかな?
まずは木陰で少しだけ変装。
アクロさんにもらった髪の色と目の色がかわるピンをつけてから、認識されにくくする帽子をぬいだ。
これで買い物ができる。
広場で角ウサギの串焼きを、十本買う。
5本ずつ葉で包んでもらって、メリッサお姉さんからもらった袋に入れるふりをして、スペシャルな腕輪へ入れる。
これは、いい!
このやり方だと、袋の中で簡単に腕輪へ入れられる……
この腕輪、指輪に変えた方がもっと良いかも?
しばらく使ってみて、考えよう。
それからおいしそうなパンやオレンジ、干し肉なんかも買って入れておく。
一応、変幻のマントを羽織っているから、どれだけ買ったのかも分かりにくいはず……
お金なら大丈夫まだまだあるし、そうだ!
大きめの肩から背負うカバンをひとつ、また買おうかな……
そうしたらもっと、持っているふりができるかも?
念のためギルドの近くにある革屋さんより、ちょっと離れたところにある革屋さんに入って、今まで持っていたカバンによく似たモノを見つける。
「いらっしゃい! そのカバンは大きめだからなんでも入るし、型くずれもしにくいから便利だよ!」
お店のおかみさんがすぐ声をかけてきた。
一度カバンを背負わせてもらい、丈夫そうなので値段を聞くと、大銀貨一枚だと告げられる。
どうしようか?
またかけ引きしてみる?
いや、今は目立つことはやめておいた方が良いかも?
ひとり悩んでいると、おかみさんが革の小袋をおまけでつけてくれるというので買うことにした。
なんだかわたしは、おまけに弱い?
そのままおまけの革の袋を肩から背負うカバンに入れ、ついでに羽織っていたマントも一緒に入れてみる……
「どうだい? 思っている以上に、たっぷり入るだろう。肩の調子はそれで大丈夫かい?」
あんがい入るカバンによろこんで、肩の調子も大丈夫だとおかみさんに伝えて笑顔で店を後にする。
そのままもう少し買い物をしようかと思ったけど、不意に人の視線を感じ出し不安になってしまった。
これは、ダメだ。
やっぱり木陰で変幻のマントをもう一度身につけることにした。
「チェリー、どうしよう〜? 今まで人の視線からはずれてしばらくいたら、それがラクでマントを脱げなくなったかも……」
「はい。変幻のマントは便利ですが、それでは困ります」
「ふぅ〜。人って、すぐラクを覚えるんだよね」
「はい。とくにパールは、はやいです」
「えーっ! もーーっ、そんなことないよ!」
ふ、ふっ
チェリーとの……
何気ない会話が、心地いい……な。




