きらきら輝く小さな星よ
きらきら輝く小さな星よ
Twinkle twinkle, little star,
あなたはいったいなんでしょう
How I wonder what you are!
地上をはるか下に見て
Up above the world so high,
まるでお空のダイヤモンド
Like a diamond in the sky,
きらきら輝く小さな星よ
Twinkle twinkle, little star,
あなたはいったいなんでしょう
How I wonder what you are!
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「あねの、今日ね、幼稚園できらきら星のお歌を歌ったの!」
幼稚園からの帰り道。幼い私は母に今日あった事をニコニコと話す。あれが楽しかった。こんな事を習った。誰と遊んだ。幼い私の小さな報告会は毎日の恒例で、楽しそうに話す幼い私の事を母も微笑まし気に見つめ、うんうんと嬉しそうに返してくれるのだ。今日の小さな報告会は幼稚園で習った歌の話だった。幼稚園ではいろんな歌を教えてもらう。早速母に、今日教えてもらったばかりの歌って聞かせれば母は、上手ね。と頭を撫でて褒めてくれた。
「きらきらひかる おそらのほしよ まばたきしては みんなをみてる」
「きらきら星のお歌が気に入ったの?」
「うん!わたし、お星さまだいすき!」
「そっかぁ、じゃあ今日の夜のお話はきらきら星にしようか」
「きらきら星もお話なの?」
「そうだよ。きらきら星の元になったお話がマザーグースに有るんだよ」
そう言って微笑みかける母に、また新しいお話を聞かせてもらえると心を躍らせるのだった。
その夜、ベッドに入りふかふかの毛布にくるまる幼い私の頭を優しくなでる母は、あえて開けていたカーテンの向こうを幼い私によく見る様に言った。夜とは言え都会は人工的な光が強く、いくら住宅街とは言え、窓の向こうに広がる空は暗く、星の光もあまり見る事は出来ない。しかし、そんな夜空を幼い私に見せながら「私達からはよく見えなくても、星は私達を見ているの」と、今夜の寝物語を語り始めた。
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その夜、幼い私は小高い丘を裸足で歩いていた。柔らかい芝生の絨毯が敷き詰められた大地のおかげで子供の白い足は傷つくことは無い。穏やかな優しい風にさわさわと揺れる芝生で少々こそばゆくは有ったが,現代のコンクリートに覆われた地面ばかりに慣れた足には、その感触は新鮮で楽しい物であった。深呼吸をして芝生のあおい匂いを胸いっぱいに吸い込み、そっと吐き出す。そしてそのまま頭上に広がる吸い込まれそうな暗闇を見上げる。都会では背の高い建物に切り取られた唯々重苦しい暗さを感じる夜の闇は、しかしここでは輝く宝石たちに彩られ神秘的なヴェールとなる。思わず手を伸ばしたくなる程に美しいその女神のヴェールは星と月の灯りに照らされて、夜空とはただ暗いだけではなかった事を知る。
あても無く歩いていれば、いつの間にか丘の頂上までやって来ていた。その丘の頂上は周りの丘より高い所に有ったようで、輝く星たちが一層近くに感じられる。芝生の絨毯に座り込み、そのままぼんやりと星空を見上げ、自然のオーケストラに耳を澄ます。ヒューヒューと鳴る風のフルート。サラリサラリと揺らされる草木のハープ。小さな虫たちのヴァイオリンはこの自然の中でしか聞く事が出来ない透き通るような心地よさを感じる。都会の雑踏の中では決して聞く事が出来ない、なんとも贅沢な演奏会だ。
そうして暫く大自然の音楽に浸っていると、今度は何処からともなく唄が聞こえて来た。キラキラ、シャラン、と軽やかに響く輝きは星の歌声。閉じていた瞼をそっと持ち上げる。再び大空を仰げば、ひときわ輝く一等星をメインボーカルに、二等星、三等星が合わせるハーモニー。時偶に駆け抜ける流星は瞬きのコーラス。大地の演奏会に星の合唱団が加わる事で完成された大自然のオペラは思わずうっとりとする程に心地よい。
大地の演奏に、星の唄に聞き惚れていればそれに気が付いたおおいぬの一等星が幼い私の傍まで寄ってきて声をかけた。星に語り掛けられた事に一瞬だけ驚いたが、ここは夢の物語の中だと、最初のガチョウおばさんの事を思いだし、そのまま星の声に耳を傾ける。おおいぬの一等星は、少年とも少女とも解らぬ声で軽やかに語り掛けて来る。
「こんばんは、可愛い御嬢さん。」
「こんばんは!すてきなお歌だね」
「お褒めのお言葉をありがとう!」
おおいぬの一等星が話しかけたのをきっかけにか、周りの小さな星々も続けて声をかけてくれる。幼い私の周りは、いつの間にか輝く星たちが集まり、透き通るような明るさに輝いていた。キラキラ、シャラシャラとグラスハープの様に繊細な星の声は、普段人間と言葉を交わす事が無いからか、幼い私の周りで随分と楽しそうに弾んでいる。少しの間、あれやこれやと星たちとのやり取りを楽しんで居れば、少し上からクスクスと微笑まし気な笑い声が聞こえて来た。周りに来たのとはまた別の星だろうかと思えば、その声の主はまるで星たちを我が子の様に優しく見守る白銀に輝くレースのドレスを纏った三日月の淑女。
「ふふふ、可愛い御嬢さん。貴女の事は少し前にガチョウの奥様から聞いていましてよ。噂の可愛いマレビトさんに何時頃会えるかと楽しみにしていましたの。」
さあいらっしゃい。と招かれて淑女の膝に抱えられれば、それに続いて星々もそれぞれ順番に定位置に戻り、再び歌いだす。星々の輝きの唄には明確な言葉による歌詞は無かった。しかし、耳の奥に、頭の中に響いてくるその”オト”は確かに唄だったのだ。三日月の淑女の腕は心地よい揺り籠。小さな星々のきらめきの子守歌に、何時の間にか幼い私の瞼はとろりとろりと落ちてゆく。
「可愛いマレビトさん。またいつでも遊びにいらっしゃい。夢での眠りは朝の目覚めよ。私たちは何時でもお空から見ていますからね」
貴女はマレビト。
貴方が望めば、わたくし達は何時でも答えましょう____。
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