ガー ガー ガチョウおばさん
ガー ガー ガチョウおばさん
Cackle,cackle,Mother Goose,
落ちた羽はありますか?
Have you any feathers loose?
もちろんあるとも、かわいい子よ
Truly have I,pretty fellow,
まくら半分 十分につめられる
Half enough to fill a pillow,
丈夫な羽根も 一つか二つ持っておいき
Here are auills, take one or two,
それからわた毛でベッドをこさえてあげようね
And down to make abed for you.
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『あれ?…ここはどこ?』
その日、私は初めてこの夢に落ちた
幼かった私は夜、母に遠い海の向こうの
古いお話を聞かせてもらいながら
ベッドで微睡んでいた事は覚えていた
けれど、ふと気がつくとパジャマのまま
林の中の開けた場所に裸足で立っていた
空を見上げるとどうやら今は夜であるらしい
しかし、黄金に輝く満月は明るく微笑み
キラキラと瞬く星々は穏やかな子守唄を歌う
見知らぬ場所に幼子がたった一人で
いると言うのに、不思議と恐怖心は
湧くことも無く…
美しい夜空に見とれていると
林の中からサワサワと草木の囁き声が
聞こえてきた
不思議に思い覗き込むように見ると
それはそれは大きく美しいガチョウが
こちらにゆったりと歩いて来るでは無いか
そのガチョウは月光に輝く純白の羽を持ち
大きさは自分のような幼子ならば苦もなく
覆い隠せてしまうだろう程に大きい
そして、不思議なことに
頭に大きなボンネットをつけている
オシャレさんなのかな?
…なんて見当違いな事を考えながら
幼い私はそのガチョウを見つめた
そうして見つめていると
近づいて来たガチョウも私に気がついた様で
そのオニキスの如く輝くつぶらな瞳を大きく見開くと
「あらあらあら!まぁまぁまぁ!!」
なんて言いながら急ぎ足に
こちらに駆け寄って来るでは無いか
「幼き子がこんな夜更けのこんな場所で
一体全体どうしたんだい?
幼子はもうとっくに寝る時間だよ」
『大きな鳥さん喋れるの?』
「喋れるとも!」
『ねぇねぇ、大きな鳥のおねぇさんは
なんて鳥さんなの?』
「可愛い子、お前さんガチョウを見るのは初めてかい?
それに、お姉さんさんなんてよしとくれ
アタシは皆からはガチョウおばさんなんて呼ばれる
ただの世話好き話好きのガチョウさ」
ころりころり と鈴がなるような声から
幼い私はそのガチョウが女性であると
判断してお姉さんと呼べばおばさんだと返される
そう言いながら彼女は私の目の前まで
来ると、こちらを上から下へサラリと見て
また少し驚いたように口を開いた
「おやおや、それよりお前さん裸足じゃないか
人間の幼子は履物が無いと足を傷めてしまうよ
それにそんな薄着じゃ寒いだろう…
どれ、こっちにお座りよ」
そう言うと彼女はその大きな翼で
幼い私の体をすっぽりと覆ってくれた
彼女の美しく大きな羽は柔らかく暖かかった
暖かな羽に抱かれ、その柔らかさを楽しんでいる私を
微笑ましげに見つめ、一息付き
また、なぜこんな所に居たのかと聞かれる
幼い私は、特に隠す理由も意味も
考えつかなかったので、そのまま
ベッドで母に寝物語を聞かせてもらいながら
微睡んでいて、気がついたらここに居た事を
ありのまま正直に話した
話終わると彼女はなるほど、なるほど、と
訳知りげに頷いた
「幼き子、お前さん マレビトだったのかい
どうりで…」
『まれびと…?』
「それなら話は早いね
このまま眠ってしまえば元の場所に戻れるよ
どれ、アタシがママの代わりに
寝物語を聞かせてやろうね」
そう言うと彼女はその体をベッドに
翼を毛布にしながら優しい鈴の声で
ゆったりと語り始めた
羽の温かさと穏やかな声に
幼い私の意識は落ちていく
「っふふふ、さぁ おやすみ
お土産にこの羽もあげるから持っておいき」
完全に眠りに落ちる直前
そんな彼女の声を聞いた気がした
次に目を覚ませばそこは、いつもの
自分の部屋のベッドの中だった
しかし、いつもと違うのは
枕元に置かれた、1つの大きな白い羽根
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