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96 友人に囲まれて





彼ら(・・)が私に吹月に残ってほしいと思っているのなら、私は………



ごく自然に湧き上がった想いだった。

これは、感情に流されてしまっているのだろうか?

父がいつも口にしていた ”理由なき言動は身を亡ぼす” というのは、いわゆる、感情に左右されるなという教えも含まれていると思う。

ただ感情任せに反射的に動くのではなく、一旦は考えて、それを行う理由を明確化してから物事を進めるべきだと、大勢の人間の上に立ち続ける父は常に心掛けているのだという。

そして将来的には父の跡を引き継ぐ私にも、その姿勢は要求されている。

感情だけで判断するのは、危険極まりない愚行だからと。


けれど私は、感情だって立派な ”理由” になり得るのではないかと思いはじめていた。

好き嫌いといった短絡的な感情のみで動くのは稚拙かもしれないが、その感情が種となり、枝葉のように広がっていく事もあるからだ。


現に今私は、彼らに引き留められて、嬉しいと思ってしまった。

そしてその嬉しいという感情の先に待っているのは、私のはじめての同年代の友人、はじめての年齢相応の学生生活である。

これらはもう、決して感情だけではない、立派な選択理由になるのだろうから。

私が吹月学院に残るという選択の理由に。



「さあ、君の友人達はこう言っているが、どうするかね?」


おじさまは、私がもう答えを決めかけているのをお見通しのように、ニッと唇の端を持ち上げて。


「マイマイ……」


おじさまとは対照的に、円城寺君は頼りなさげに眉を曲げて。

それはちょっとした悲壮感すら滲み出ている風に見えて。

なんだか自分が虐めているようにも思えてきた私は、ついフッと笑いをこぼしてしまった。


「……マイマイ?」


不思議そうに不安そうに私の腕を放した円城寺君に、私は今度はふわりと笑いかけたのだった。



「円城寺君の言う通りね。スイスの学校は逃げていかないけれど、円城寺君がいる吹月学院は、今しかないものね」

「じゃあマイマイは吹月に残るんだね?!」


円城寺君は再び私の腕を掴んでくる。

さっきよりもより強く、しっかりと。


「そうね。もしかしたら調整が必要かもしれないけれど、私個人の気持ちとしては、吹月学院で引き続き留学生活を送りたいと思うわ」

「本当?本当だね?」

「ええ」

「やった!じゃあ僕、歓迎パーティーの計画をみんなに説明しなくちゃ!ほら、栗栖も行くよ。一年全員が参加なんだからな」


言うなり、私を放して次は栗栖君の腕を捕らえた円城寺君。


「それはいいけど、まさか幹事させるわけじゃないだろうな?」

「主催は僕がするから大丈夫。ほら、今なら食堂棟にみんな集まってるだろうし、行くよ」


自分よりもずっと背の高い栗栖君の腕に両腕を絡ませて、円城寺君は意気揚々と音楽室を出ていこうとした。

そしてそんな彼の背中を押すように、おじさまがぽんとセリフを投げられたのだ。


「そういえば、音楽棟の近くで(はなぶさ)君と会ったよ。円城寺君を探していたようだったが、もしかしたら歓迎パーティーの件だったのかな?」

「たぶんそうだと思います。実は歓迎パーティーを言い出したのは英だったから」

「なんだ、言い出しっぺはあいつかよ…」

「ほら、早く行くよ」

「はいはい。じゃあな、館林。明日からもよろしく」


栗栖君が円城寺君に引っ張られながらも、私に逆の手をあげた。


「こちらこそよろしく。栗栖君」


すると小動物のような同級生からは可愛らしいクレームが飛んでくる。


「マイマイ、僕は?」


嫉妬混じりの訴えには笑いを禁じ得ない。

私はクスクスと息を跳ねさせながら返した。


「勿論あなたもよ。よろしくね、ユズ(・・)


「え……?―――っ!うん!よろしくね、マイマイ!歓迎パーティーも期待してて!」


はじめはきょとんと首を傾げた円城寺君だったが、私が名前を呼んだ事にわかりやすく大喜びを見せてくれた。

そして、今なら何だってできそうだと言わんばかりの勢いで、栗栖君を引きずって音楽室から飛び出していったのだった。




「ミス・フルーガルは絶大な支持者を得たようだね。彼の友愛は相当なものと見たよ」


開け放たれた扉を見やりながら、多少は暢気に京極さんが言った。


「では彼の信頼を裏切らぬよう努めなければなりませんね」


それでなくとも、私には嘘や秘密、多種多様の事情が混在していたのだから。

するとそれらを生み出した張本人でもあるおじさまが上機嫌で仰ったのだ。


「舞依ちゃんにいい友人ができて、私も嬉しいよ。いい友人に囲まれて、この先も(・・・・)有意義な高校生活を送ってくれたら、なお言う事はない」

「……ありがとうございます、おじさま」

「うん、では私も学院長室に戻るとしよう。京極君、すまないが舞依ちゃんをフラットAまで送り届けてくれるかね?」

「勿論です、学院長」


おじさまに頼まれずとも、京極さんなら私を寮までエスコートしてくださったのだろう。

私達は揃って音楽棟を後にし、扉の前で校舎に戻られるおじさまと別れたのだった。










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