表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/99

55 再びのレクイエム





「5月の有栖川先輩の件があった後から、音楽棟とラウンジの妙な噂が流れだしたんだ。まあ、ラウンジの方は寮長の仕業だって、本人に聞いてわかってたけど、音楽棟の方は全然心当たりがなくてちょっと調べてみた。と言っても、実際にピアノを聞いたって騒いでた連中に聞き込む程度だったけどな。だが不思議なのは、それはごくたまにしか聞こえないって事だ。噂を確かめようと毎晩音楽棟をうろついてたやつらでも、結局は聞けずじまいだった。で、もう一度連中の話をすり合わせてみると、どちらも新月の夜だと気が付いた。5月の末と6月の末。二度だけだから、偶然って事も考えられたが、一応、次の新月の夜に音楽棟を見まわる事にした。7月の末の事だ。そうしたら聞こえてきたんだよ。なんか暗ーい曲が。一緒にいた寮長は知ってる曲だったみたいだけど、俺はまったく聞き覚えのない曲だった。だいたいレクイエムって、そんなの普通真夜中に弾くか?だが寮長は選曲が意味深過ぎるって考え込むし、しかもピアノは聞こえてくるのに、その晩音楽棟を出入りする人間は一人もいなかったんだ。朝まで見張ってたのに、音楽棟に近寄る人間は誰もいなかったんだからな。だから俺は本当に幽霊が出たんじゃないのかと言ったんだ。なのに寮長は絶対に人間だと言い張った。なんか随分下手なピアノだったんだとさ。わざと間違って弾く幽霊なんているわけないだろって笑われた」


京極さんもやはり感じるポイントは同じだったようで、私は表に出さずに苦笑していた。



「で、その次の新月も音楽棟を見張ると決めてたわけだ。それで一昨日もここに来てみたら、お前が円城寺を引き連れてやって来てただろう?これはきっと俺の後をつけてきたか、それか学院の事を色々調べまわってるんだろうなと思ったんだ。その晩は予想通りピアノが聞こえてきたわけだけど、それを聞いたお前は案の定、翌朝学院長室に駆け込んでった。随分長居してたな。だから学院長とお前は繋がってる、それは確かだと思ったよ」


「その件は俺も栗栖から報告を受けていたよ」


合いの手を入れる京極さんに、栗栖君は視線を流す事はない。

そんな態度は、彼らが阿吽の呼吸以上、まるで二人で一人のような錯覚さえした。



「でも、ずっとお前を観察してた俺は、お前が学院長と繋がってたとしても、有栖川先輩や学院を貶めるような事をするとは思えなかった。何て言うか、さっきも言ったけど、ちゃんと思いやりがあるっていうか……。本当の事言うと、最初は、手に入れた情報が有栖川先輩や吹月に不利になるような事でも、変に正義感を見せて、躊躇いなく公にするんじゃないかって、ちょっと警戒してた。ほら、海外暮らしが長いと、人間関係とか物事にドライになるって話を聞くしさ、現に自分の髪を切った時だって、えらくクールな振る舞いだっただろ?でもお前を見てるうちに、館林 舞依って人間は、クールには見えるけど実は中身はめちゃくちゃ熱いんじゃないかって思うようになっていった。血が通ってるっていうか、人の心を思いやる事に長けてるって感じだ。だから、知り得た情報をきちんと精査して、何でもかんでも公開したりはしないだろうと踏んだ。だったら、」


「調べるだけ調べてもらって、その情報を我々に提供してもらおうと考えたんだよ、ミス・フルーガル」


「寮長はまだお前を疑ってるふしはあったけどな。でも男の俺達には探りにくい相手も館林にならできるかもしれないという事になって、それであの神村って女子高生と引き合わせてみたんだよ。彼女が有栖川先輩を好きだっていうのは知ってたし、毎朝あの時間帯に犬の散歩で風車公園を通るのも把握済みだったしな」



悪びれもせずに栗栖君がそう告げた時、前触れもなく、音楽棟からピアノの音が流れはじめた。

私達は揃って音楽棟を見上げた。


深夜の闇に添えるように浸み込んでくる、レクイエム ラクリモーサ、涙の日……



音楽棟の前で話していた私達は、音楽棟に入っていく人物を目撃していない。

私達がここに着くよりも前に音楽棟の中にいたとも考えられるが、おそらく、演奏者は、職員棟の楠先生の部屋に繋がるという隠し扉を使ったのだろう。

だがこの隠し扉の存在を、京極さんと栗栖君は承知していない様子だった。



「どうやらミス・フルーガルの待ち合わせ相手がお見えになったようだね」


悠々とそう言った京極さんに反して、栗栖君は少々の焦りを滲ませながら「まったく。いったいどこから入ったんだ?」と呟いたのだ。


「大方、隣の職員棟と繋がる隠し扉でもあるんだろう」


鋭い指摘を口にした京極さんに、私は素知らぬ振りで返した。


「隠し扉ですか…。京極さんも、実際にそれをご存じというわけではないのですか?」


自分が正解を知っているという事実はあえて告げずに、彼らの情報を引き出したかった。


「残念ながら。何らかの細工があるだろうと思ったから、調べてはみたんだけどね」

「どうやってお調べに?」

「まず当たってみたのは、音楽棟の設計図と口コミだよな」


今度は栗栖君が答える。


「けど職員棟で寝泊まりしてる教師陣は揃いも揃って隠し扉なんてあるわけないと笑い飛ばした。どうも嘘を言ってるような感じはなかった。だったら残るは建物の設計図しかないと思って、俺と寮長で学院長室に忍び込んだんだよ」

「栗栖」


京極さんの短い制止が交差してきたが、栗栖君にはどこ吹く風だった。


「いいじゃん、もうここまで来たら情報共有は惜しまない方がいいって。館林の待ち合わせ相手ももう来てるんだし、早いとここっちの話を終わらせないと」


確かにレクイエムは淡々と鳴り続けていて、私が指定した時刻は差し迫っている。

けれど私には、別のアングルから彼らの話に興味が湧いたてきたのだった。



「学院長室に、忍び込んだの?」











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ