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52 あの夜の物音達





「あの夜、俺はたまたまラウンジにいたんだ。消灯後に寮長が何ウロウロしているんだというお叱りは甘んじて受けよう。寮長として常に誰かと接する生活を送っていると、一人きりの静寂を求めたい夜もあるんだよ。自分の部屋でもそれは叶うけれど、やはり手狭だからね。気分も解放させたい時、俺は時々夜の散歩に出るんだ。真夜中の管理棟はもってこいの場所だった。フラットAともつながってるし、普段なら(・・・・)誰も来ないしね」



京極さんは出来事を思い返している…といった様子ではなく、淡々と、まるでニュースキャスターが原稿を読み上げていくかのように説明していく。



「少し風が強かったけれど、気分転換を求めていた俺にはちょうど気持ちよく感じて、俺はラウンジの窓を開けてソファで横になっていた。すると人の声が聞こえてきたんだ。上の方から。ラウンジの真上は図書室(ライブラリー)だ。ラウンジ同様人が寄り付かない場所にこんな時間に誰かがいるなんておかしいと、自分のことは棚にあげて警戒しながら俺は様子をうかがった。ライブラリーの窓も開いてるようで、よく耳を凝らすと多少は聞き取れた。声の主は男二人。片方はアリス先輩だとわかった。だが相手の声は不明瞭で誰だか特定はできなかったし、二人の話の内容まではクリアに聞こえなかった。けれどなんとなく伝わってきたのは、あまり良い話をしてる感じではないという事だった。喧嘩してる風ではなかったものの、ちょっとした揉め事のような雰囲気だったんだ。ただ、途中で相手の男が『唯人』と呼ぶのは聞き取れた。アリス先輩をそう呼ぶ人は、俺の知る限りではいない。ますます怪しい、そう思ったよ。だがしばらくして話し声はぴたりと止んだ。だから俺は、ああ、何かトラブルがあったけど解決できたんだな…程度に思っていた。呼び方にしても、いくら吹月(ここ)は一学年30名の少人数制で、学年が違ってもほとんどが数年間寝食を共にする関係だからといって、俺がアリス先輩の交友関係を完璧に把握してるわけでもなかったからね。だけど、異変は間もなく起こった……」


一旦言葉を切った京極さんは、やおら胸ポケットから何かを取り出してみせた。

私にはそれが、例の手紙の一部だとすぐにわかった。



「ひときわ強い風が吹いて、上のライブラリーでバサバサと、何かがその風に飛ばされるような音がした。そして次の瞬間には、この手紙が、まるで吸い寄せられるように、俺がいるラウンジに迷い込んできたんだ。でもその時はそれが何なのかたいして気にもならなかった。何か飛んできたなと思っただけだ。だから俺は飛んできた物を追うより、これ以上上から何かが飛んでこないようにと、ラウンジの窓を閉めに立ち上がった。その時、ライブラリーからアリス先輩の声が聞こえた。『どうして』と。それは普段のアリス先輩を知ってる人間なら耳を疑うような、絶望感漂う声だった。しかもその後すぐ、もう一度、今度は囁くような、小さな小さな怒鳴り声で、「どうしてなんだよ!」と……。俺は思わずその場に立ち止まってしまうほどに衝撃を受けた。あのアリス先輩がこんな苦しそうに感情を吐き出すなんて、いったい相手の人間と何があったんだと心配になった。これは、すぐにでも上のライブラリーに行って、様子を見た方がいいんじゃないか。必要ならば俺が仲介に入るなりアリス先輩を慰めるなりした方がいいかもしれないと思い、窓とは反対の扉に向かった。だけど次の瞬間、外で物凄い音がした。俺は何がなんだかわからないまま、すぐに窓に駆け寄った。外はしんと静まり返っていた。ちょうど月が出てない時期だったこともあって外灯の当たらない建物付近は真っ暗で、俺は咄嗟に携帯で辺りを照らした。そうしたら、下に、人が倒れているのが見えた」


無意識のうちに、ごくりと、唾を飲み込んでいた。

倒れていたのが誰だったかなんて、訊かずとも答えは一つだ。

京極さんから既に聞かされていたのか、栗栖君は無反応だったが、表情は悲し気に見える。

きっと彼も、有栖川さんを心から心配している一人なのだろう。



「……植木の陰になっていて、倒れてる人物の顔ははっきりと見えなかったが、上のフロアから人の気配がなくなっていることには気付いた。二人とも、いなくなっていたんだ。つまり下で倒れているのはアリス先輩か、一緒にいたアリス先輩の事を『唯人』と呼んでいた人物のどちらかだ。俺は急いで下に向かいながらも、もう一人はどこに行ったのか考えた。なぜいなくなったのか。偶然なのか、それとも、いなくならなければならない必要があったのか……。階段を駆け下りながら、俺は、どちらかが相手を突き落とし、その場から逃げ去った……それが最も可能性が高いと考えていたんだ」











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