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「もし彼女が学院長から頼まれて俺達を探っていたのだとしても、手に入れた事実を学院のために握り潰したりはしないと思いますよ?でも逆に、有栖川さんの名誉を傷つけるような事実を知った場合は、それを公にする事もしないはずです。館林は、そういうやつですよ。正義感も、思いやりも併せ持っている、そんな人間です」


音楽棟の陰から姿を見せたのは、京極さんと同じく制服姿の栗栖君だった。



「ずいぶんミス・フルーガルの肩を持つんだな」

「肩を持つんじゃなくて、事実ですよ。なんてたって、俺は、あなたに言われて(・・・・・・・・)こいつをずっと見てましたからね」


さらりと、自分の立ち位置を告白した栗栖君。

彼が油断ならない人物だという事は承知していたし、京極さんと親しそうだというのも感じていた。

だが、吹月に来てからの強い視線の送り主だったことまでは、見抜けなかった。

栗栖君は特待生という事だから、もしかしたら京極家がスポンサーにでもなっているのだろうか。



「あれ?館林、俺が京極さんのスパイだったって聞いても、驚かないのか?」


栗栖君は私に歩み寄って来て、じっと顔を見つめてくる。

この明るくて社交的な表情の下に潜んでいるものを、私はもう、それとなく知っている。


「あの視線の正体が栗栖君だったとは思わなかったけれど、それ以外は、何となくは……」


「なんだよそれ。瞬ちゃん、やっぱこいつ只者じゃないって」


私の返事を聞くや否や、栗栖君は私越しに京極さんに向かって嘆き事を言い放ったのである。



瞬ちゃん(・・・・)……?」



京極さんの下の名前は瞬也(しゅんや)だ。

だが、いつもは ”寮長” と呼んでいた栗栖君が、まるで旧知の仲のような呼び方をするなんて、この二人の関係はいったい……



「その呼び方はするなと言っただろう。ほら、ミス・フルーガルが驚いてるじゃないか」


苦笑いを浮かべる京極さんも、栗栖君には気安い態度だ。

私は事前に目を通していたリストを思い返す。

京極 瞬也はリストに名前があったが、栗栖 敦啓(あついろ)という文字はなかったはずだ。

けれど種明かしはすぐに訪れたのだった。



「幼馴染なんだよ、俺と京極寮長は」


「幼馴染……そうだったの?」


そんな関係性ならば、本来ならリストに記載されているべきなのだが。

だがこれについても、栗栖君からは明確な理由が披露されたのである。


「ま、実際に一緒に過ごしたのは幼少時のほんの数日間なんだけどな。そこからは細く長くのお付き合いが続いてるってわけだ」


「俺達の事より、今はミス・フルーガル、君の事だよ」


いつもと何ら変わりなく、軽いスタンスで接してくる栗栖君とは対照的に、京極さんは真剣な眼差しに戻った。


「栗栖の言った通り、本当に、君は学院にとって不都合な事実を揉み消したりはしないと信用できるのかい?アリス先輩の名誉を傷つけるような事実を公開しないと、誓えるのかい?」



私は、目の前に突き付けられた吹月学院高等部生徒寮寮長としての矜持に、飲み込まれそうになってしまう。

それと同じくして、京極 瞬也、栗栖 敦啓、両名は容疑者のリストから除外すべきとも考えていた。

そもそも、ここに至っては、もう、”全員容疑者” という前提も半分ほどは毀損(きそん)されているようにも思えてならないけれど。


私は京極さんの双眸をまっすぐに捉え、嘘偽りないという心持を込めて返事した。


「勿論です。誓います」



すると京極さんは「そう。よかった」と小さな声でささやいた。

かと思えば、今度は私に向かってはっきりと告げたのだ。


「それなら、あの夜の事を、君に話そう。君の待ち合わせ相手が来るまでの暇つぶしにね」



京極さんは両手の指を体の前で組ませながら、話し始めたのだった。













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