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32 遭遇





「だけどマイマイって、超超お嬢様なのに自転車乗れたんだね」


円城寺君が感心しきりに言う。


「私を何だと思っているの?」

「だって僕の知ってるお嬢様方は自転車は怪我したら危ないって禁止されてるらしいからね」

「館林は留学生活も長いし、箱入りってわけじゃなさそうだからなあ」

「ミス・フルーガルは運動神経も良さそうだしね」



お目当てのベーカリーでパンと飲み物を購入した私達は、霧がほんのりと残る風車公園に立ち寄っていた。

ベーカリーにはカフェも併設されていたが、せっかくサイクリングに来たのだから外で食べようという事になったのだ。


霧の中でもそびえ立つ風車の存在感は霞むことなく、むしろ見上げれば幻想的な景色にも感じてしまう。

何気なくその白い巨体を眺めていると、隣のベンチに座る栗栖君が「まだ慣れないのか?」と訊いてきた。


「この近さはなかなか慣れないわね」

「公園の中ににょきって生えてるから、違和感はあってしょうがないよ。どこかの風車群みたいにたくさんあれば気にならないかもしれないけどさ」

「何だよ円城寺、館林にはえらく甘くなったんだな」

「べ、別に?」


またもや二人の掛け合いが始まりそうだったので、私は咄嗟に間に入った。


「円城寺君の言う事も一理あるわよね。この辺りは風車の増設計画は出てないの?」

「さあ、どうだろ?」

「俺は聞いた事ないけどな」

「そうなのね。ところで、二人とももうそんなに食べたの?」


私は焼き立てのパンをゆっくり味わって堪能していた。

評判の店というのは納得の味で、京極さんおすすめのデニッシュパンに舌鼓を打っていたが、さすがに食べ盛りの高校生男子、私が一つ食べきる前に二つ三つと平らげていくのだ。

躾が行き届いている所作ではあるが、屋外ということもあってか三人の食べっぷりは快活で、私がそんな彼らに感心していると、ふと栗栖君と目が合った。


「館林は、もう食べないのか?」


私の膝の上のパンを指しながら、まるで食べないのならよこせと言わんばかりの栗栖君。


「食べるわよ?あまりにも気持ちのいい食べっぷりだから、思わず見とれて……ッシュン!」


自転車に乗ってるうちは体が温まっていたが、ベンチでじっと腰掛けている今は、徐々に肌寒さが蘇ってくるようだった。

そして私のくしゃみにいち早く反応したのは栗栖君だった。

羽織っていたカーディガンをサッと脱ぎ、有無を言わせず私の肩に被せたのである。

ふわりと、彼の匂いに包まれる気がした。


「どうもありがとう。でも大丈夫よ?栗栖君、下は半袖シャツ一枚じゃない」

「俺は暑がりだからいいんだよ」

「私も冬は氷点下が当たり前の地域で暮らしていたから、寒いのは平気よ?」

「くしゃみしてた奴がよく言うよ」

「氷点下が当たり前って、ミス・フルーガルはどこに留学してたんだい?」

「お話ししてませんでしたか?」

「俺が学院長先生から聞いたのは、この夏に優秀な成績で留学先のアメリカの学校を卒業したという事だけだよ」

「そうだったんですね。私は……」


答えようとした私だったが、視界の端に侵入してきた人物に注意が逸れてしまった。

三人からも、私の視線の動きを追う気配がした。

人影がほとんどなかった公園に、犬を連れた少女が入ってきたのだ。

私達と同年代に見える彼女には、少しの見覚えがあったから。

彼女の方も同様だったらしく、こちらを見て足を止めた。


あ……

そんな感じに唇が動く。

彼女は、この公園で私の事を色々噂していたメンバーの一人だった。



「……よく会うな、彼女と」


栗栖君も気付いたらしく、その呟きにつられて円城寺君も思い出したようだ。


「無視だよ、無視!マイマイや吹月の悪口言う人なんて、僕にとっては透明人間なんだから」

「いやお前、無視って言ってる段階で透明人間じゃないだろ。透明人間なら気付きもしないんだから」

「うるさいなあ!」

「彼女がどうかしたのかい?」


いつものようにじゃれつく二人をそれこそ無視して、京極さんが私に尋ねてきた。


「それが……」

「館林が髪を切る事になったきっかけの一人ですよ」


説明に迷った私を庇うように、栗栖君が鋭く言い放った。



「へえ…」


京極さんは多くは返さなかったが、こちらを窺っている女の子を観察するようにじっと眼差しを固定した。


「何なのあの子?何で僕達を見てくるのさ?まだ文句があるわけ?」


円城寺君は不快を隠しもしない。

その声が届いてるのかは定かでないが、彼女は私達に対して一歩踏み出し、また引いたりしている。

円城寺君の推測通り、もしかして私達に何か用でもあるのだろうか?


「ま、何だっていいけどね。僕は無視しようっと」


円城寺君はぷいっと彼女から体ごと逸らし、最後のパンの包みを開いた。



だがそこで、とうとう彼女がこちらに駆け寄ってきたのだ。










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