28 暗号
「だって僕、マイマイを信用してるから。マイマイは、吹月の事も、有栖川先輩の事も、きっと大切に扱ってくれるって」
「そんなに簡単に信用してもいいの?」
「いいのいいの!僕、人を見る目には自信あるんだ!で、僕は何を手伝えばいいの?」
意気揚々な円城寺君。
絶大な信頼を向けられて、いささか心がざらつくけれど、私は淡々とこれから行う作業について説明した。
「とにかくテレビ番組表に印がないかをチェックして、印があればそのページだけを冊子から外して、印がないものは折り畳んで元に戻してほしいの。もしここに突然誰か来ても、私達が新聞を調べてるとは悟られない為に、広げるのは最小限にね。印があったページは小さく折れば人目につかないでしょう?私はこちら側から見ていくから、円城寺君はそちらからお願いできる?」
「了解!でも僕の事はユズユズって呼んでくれていいからね!」
「…考えておくわ」
随分円城寺君に懐かれたなと思うと同時に、どこかピンと張っていた気持ちにも和みの一滴が落とされたのは間違いなかった。
私は彼を全員容疑者のセオリーから除外してもよさそうに感じつつ、だがまだ、彼が私に向けるような全幅の信頼を寄せるには至っていないと、私自身を窘めて、古新聞の束を解いていった。
そして、それを見つけるまでにはそう時間はかからなかった。
5月2日の夕刊だ。
”たすけて” の新聞と同じ日付、つまり ”たすけて” の続きにあたる新聞。
夕刊なので番組表は朝刊よりも狭いが、そこに複数の丸印が残されていたのだった。
上から(Ro)(テ)(し)(あ)(名)(紙)……
何度読み返しても、全く意味を成さない言葉が浮かび上がってくるだけだった。
だが大きな手がかりには変わりない。
私は文字の全てを記憶すると、番組表のページだけを冊子から外し小さく畳んで制服のポケットにしまった。
「マイマイ?どうかした?」
問いかけてくる円城寺君には「何でもないわ」と誤魔化す返事をし、古新聞を調べる作業を再開した。
良心が痛まないわけではないが、手を動かしながらも、私は意味不明のメッセージを頭の中で並べてはひっくり返したり交差させたりフルスロットルで考えはじめていた。
(Ro)というのは略語かもしれない。
ルーマニア、
receive only(受信専用)、
reportable occurrence(報告すべき出来事)……いや、カタカナや漢字も含まれてるのだから、これは単に読みで(ろ)と考えればいいのではないだろうか?
では読み方が複数ある漢字についてはどう考える?
(名)は、ナ、メイ、ミョウ……
(紙)は、カミ、シ……他にも読み方があるのだろうか?
考えろ。
何かあるはずだ。
無作為ではなく、これらを選んで印を付けた理由が、繋がりが、何かあるはずなのだ。
私は考えて考えて、”たすけて”と ”Roテしあ名紙” を組み合わせて、混ぜ合わせた。
すると数秒後、朧気ながら、もしかしてと思わせる発想に行き当たる。
だが即座に、それは考えすぎだと一度は否定した。
しかしどうにもこうにも他に取っ掛かりもなくて……
「……円城寺君、ちょっと気になる事を思い出したの。申し訳ないけれど、ここは円城寺君に任せてもいいかしら?」
スッと立ち上がった私に、円城寺君は「どこ行くのさ?」と不服を覗かせた。
だが、「私は他の心当たりを調べるわ。二人で手分けした方が有効でしょう?時間が勿体ないの。新聞のメッセージの事は円城寺君にしか話していないから、ここは円城寺君にしか頼めないのよ」と訴えると、彼は可愛らしくも素直に喜色を示した。
「そっか、なら仕方ないなあ。じゃあ任せてくれていいよ」
「お願いね。くれぐれも他の人には知られたくないから、何かあったら私に直接教えてほしいの」
「わかった」
頼もしい返事は、私の中で彼への信頼感を微増させただろうか。
そのおかげで、次の目的地を躊躇いなく目指せそうだった。




