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25 名探偵は不在





「こちらは?」

「我が校の防犯カメラのデータだよ」


防犯カメラ……これはまた、強力なアイテムの登場だ。

ここに、当夜の出来事が記録されていたのだろうか?



「事件性に重きを置いていなかった警察は、はじめから学院の防犯カメラを隈なく確認する事はなかった。吹月の生徒の特殊性から遠慮があったのかもしれないがね。だが私は学院長としてその全てをチェックした。カメラは外向きに設置されてる物が多く、彼が転落する場面は記録されていなかったが、発見時刻の前後に、管理棟近くの門に人影が映っていたんだよ」

「発見時刻の…深夜にですか?門という事は、校外になるのですよね?それでその人物とは?」

「いや、そこまでは。ただ女性という事しか分からなかった。少なくとも私の知る者ではなかった」

「女性……そのような深夜に学院内にいた可能性がある女性関係者は、楠先生だけですよね?」

「その通り。他にも女性の職員はいるが、皆通いだからね。勿論その人影は第一発見者だった楠先生ではない。彼女は救急車に乗り込んでからはずっと彼につきっきりだったからね」

「それを警察には?」


おじさまはゆっくりと首を振る。


「ご両親の消沈ぶりを思うと、心を騒がせるのは避けたくてね。ライブラリーに散らばっていた手紙の件すら、ご両親には報告を控えたほどなんだ。それに門の向こうは私有地ではない。例え真夜中に女性が一人で歩いてようが、それだけでおかしいとも言えないだろう?」


それは一理ある。だがそんな時間帯にこんな森のような場所で、女性が一人で散歩などするはずもない。



「……その女性が、転落した三年の彼のお相手だったとは考えられませんか?」


ただの推測でしかないので控えめに問うと、おじさまも同意を返してくる。


「だったら良かったんだがね……」

「と言いますと?」

「カメラに映っていた時刻と楠先生が彼を発見した時刻、その両時刻から、彼女が転落に関与してるとは考えにくい。しかしながら、もし二人の関係が確認とれたなら、彼女をどうにか探し出して事情を聞かなくてはと思っていた。だがそれは叶わなくなってしまったのだよ」

「なぜですか?」

「このSDカードに入っていたあの夜の映像が、いつの間にか全て消されていたからね」


トントンと指先でテーブルを弾いたおじさまに、私は驚きを隠さなかった。



「……全て、ですか?」

「ああ、全てだ。あの夜の分だけ。それだけじゃない、パソコンに保存したデータまでもが何者かに消去されてしまった」

「それは……」


ただの転落事故で片付けるには物騒な展開になってきた。

私が無言でおじさまの表情を窺うと、おじさまは大きく一度だけ頷いた。


「彼の過失による単独事故なら、データを消去する必要なんてあるはずもない。つまり、」

「事件、だと?」


おじさまはそれでも躊躇うように視線を彷徨わせ


「考えたくはなかったんだがね……」


ついに認めた。

事件性を疑っていると。



「だから、保護者の方の要望をお聞きになって出来事自体も伏せる選択をされたのですね。事故と発表された後万が一事件性を主張する者が現れないように」

「その通りだ」

「ですがそれでは犯人隠匿になります」

「無論、犯人が存在するのであれば、見過ごすわけにはいかない。例え職員だろうと、どんな家庭の生徒だったとしてもだ」

「ではなぜ事件の可能性を公になさらないのですか?せめて警察にはお知らせしては?」

「確信が掴めてないからだよ。防犯カメラのデータを消去されただけでは事件性ありと断定するには足りない」

「そうでしょうか?」


データ消去だけ(・・)でも、何者かが手を下してる犯行には違いない。



「少なくとも、事故と警察が判断したものを覆すだけの証拠にはならない。だから私は他にも手がかりを求めて調査を開始した。勿論、調べた結果やはり事故だったと確証が持てたらそれでいい。だが、表向きは伏せられている出来事について調べるのは学院長の私ですら困難だった。目星もない以上、誰を信頼すべきかも判断できなかったからね。そこで私は、学院と関係のない人物の介入が必要だと考えたわけだ」


ここまで聞けば、おじさまの話の行きつく先は見えたも同然だった。

私は頭を抱えたくなるのを堪えつつ


「おじさま、まさかとは思いますが……」


気乗りしない声で伺う。

するとおじさまは「そのまさかだよ」と今日初めての笑顔になったのである。



「無理です」

「まあまあ、最後まで話を聞いてくれないかな?」

「いいえ、無理です」

「だが舞依ちゃんはアメリカの留学先をとても優秀な成績で卒業したと聞いてるよ?首席だったそうじゃないか」

「首席だとしても、学校の成績が優秀だったとしても、私に探偵の真似事はできません」

「そうだろうか?」

「残念ながら私には小学生とは思えないほど頭の切れる幼馴染も名探偵のお祖父さまを尊敬している幼馴染もいませんので」

「舞依ちゃんなら幼馴染の名探偵は必要ないだろう?」

「買いかぶりすぎです」

「だが、時間がないんだよ」


おじさまは笑顔を解き、神妙な顔つきに変えた。



「…もうすぐ9月1日なんだ。三年は推薦入試が始まる秋から帰省する生徒も多くなる。年が明ければ自由登校だ。5月から独自で調べていた私もさすがに焦りを感じているのだよ」

「ですが、」

「もしかしたら本当に事故だったのかもしれない。なのにこんなに悶々としてるなんて、時間の無駄、まさに舞依ちゃんの口癖 ”勿体ない”と思わないかね?」


そう言って、またもやニッと口角を上げたおじさま。

どうやらもう一歩たりとも引く気はなさそうだ。

確かに時間が勿体ないというのは納得できる。

そしてそれは私達が今交わしているこの押し問答にも言える事で。

だっておそらく、おじさまは私が首を縦に振るまでは諦めないだろうから。



私は数秒の思案ののち



「………わかりました」



とうとう了承したのだった。











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