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12 再会は噂と共に





街までの移動はタクシーだった。

学院の正門から歩いて10分ほどのところにバス停もあるそうだが、決して近いとも言えないその距離に、多くの生徒はタクシーを利用するのだという。

裕福な家の育ちからタクシーに抵抗感がないのかもしれないが、複数人で乗り合いすれば、一人一人の支払い額もそこまでの負担にはならないらしい。

さりとて、その額の高い安いの感じ方は人次第だろう。

だが、金額だけを物差しにするのも乱暴な判断で、時間の有効利用と思えば、必ずしも贅沢とは言えまい。

私はそんな風に思いながら、昨日とは逆に流れる車窓をしっかり記憶させていったのだった。



「さて、どこから行く?館林はまず何が買いたいの?」

「順番は特に決まってないけれど、昨夜ちょっと困ったのは、マグカップかな。あとは洗濯用品……それから、別に急ぎではないけれど、もし美味しい茶葉を取り扱ってるお店があれば行ってみたい」

「それなら、輸入食品の良い店を知ってるよ」

「へえ、茶葉なんて単語が出てくるあたり、やっぱ館林はイギリス育ちだな」

「ここ数年はアメリカの方が長かったのだけれど」


私は否定も肯定もせずに返し、今度は円城寺君に尋ねた。


「円城寺君は何か買い物があるの?」

「僕はね、柔軟剤。いつも使ってるシリーズの新しいフレグランスが出たから、どんな香りかチェックしたいんだ」


語尾にハートマークでも付きそうなほどに、円城寺君は弾んだ雰囲気だ。

さすが寮暮らし、高校生男子にしては所帯じみたショッピングでも嫌がる様子がない。

甘やかされたお坊ちゃんなら実家からの定期配送があってもおかしくないのに、そうしない円城寺君に感心した。


「そんなの帰省したときに済ませておけばよかったんじゃないか?」

「うるさいなあ!新しいのが出たのは昨日知ったの!悪い?そう言う栗栖は何か買うの?言っとくけど栗栖の買い物には僕は付き合わないからね!」

「はいはい、お坊ちゃまにお付き合いいただこうとはこれっぽちもも思っておりませんよ」


……この二人は、本当にいつもこんな調子なんだなと、京極さんの助言が真実であったことを目の当たりにする。

けれど、寮からの外出には制服を着用すること、という規則により、二人とも揃いのライトブルーのワイシャツを着ており、その身長差も相まってお揃いの格好をした仲の良い兄弟がじゃれあってる姿にも見えてしまうのだが、それは本人達には言わない方が賢明だろう。


私は彼らの口先合戦には割って入らないことを心に留め、二人にエスコートされながら買い物を進めていったのだった。



彼らが ”街” と称したそこは、思っていたよりもずっと広いエリアだった。

専門店が並ぶ商店街には老舗から新規店舗まで多種多様で、東京やロンドンにもありそうなカフェやデリカテッセン、フードコートのあるスーパーマーケットなんかもあるし、そのまま頑張って歩けば駅にまで行けてしまうという好立地である。

情報通の円城寺君によると、それらは別荘地の発展と深く関係してるらしい。

昔は知る人ぞ知る隠れ家的な別荘地だったところを、不動産会社が目を付けて開発していったらしい。

もちろんその恩恵を受けてる地元住民も多いので、それが問題視されてるわけではないのだが、昔の隠れ家的な良さを知ってる人間からすると眉間に皺もできてしまうのは頷ける。

それゆえ、ある程度の開発が進行したところで、各方面からストップがかかったのだという。

どこの国にも似たような悩みはあるのだなと、私は内心で同情を示していた。



やがて、商店街を往復し、目当ての物は一通り揃えることができた。

円城寺君もお望みの柔軟剤の新しいフレグランスのチェックも叶い、栗栖君はちょうど欲しかったという秋用のジャケットを購入していた。

学院生の御用達だという文具店ではファイルやハサミ、便箋、万年筆のインクなど、予定外にたくさん買い込んでしまったが、”優しい人” 宣言通り、栗栖君は私の荷物は全て持ってくれた。

そしてついでにと円城寺君の分も持たされて、二人でまたひと悶着あって……そんな楽しい時間だったのだが、私はその最中、突き刺さるような強烈な視線をいくつも感じ取っていた。


それは、私達と同じく街に出ていた吹月学院の生徒達がすれ違いざまに私を珍しそうに見てくるのとは、まったく別のものだった。

ただでさえ学院の制服は注目を集めそうだし、栗栖君も円城寺くんも目立つ外見をしているので、仕方ないのかもしれない。

街には同年代の女の子もたくさんいるわけで、おそらく、こうやって見られるのは二人には毎度の事なのだろう。

そう思い、納得しようとした時だった。



「あら?もしかして舞依ちゃん?館林家の舞依ちゃんではなくて?」


思いがけず呼びかけられて、足が止まった。

振り見た先には、よく知るご婦人の姿があった。



「これは北園のおばさま…。ご無沙汰しております」


私は父の古くからの知人である老婦人に体ごと向き直り会釈で挨拶した。


「ごきげんよう。一昨年のアスペン以来かしら」

「そうですね。今年の夏はこちらでしたか」

「そうなの。8月いっぱいで引き上げようかと思ってたのだけど、今年は一段と暑いでしょう?もう少し涼んでいたくなったのよ。そんなことより、その制服…噂は本当だったのね?」

()、と仰いますと?」

「8月に入ってから、館林家のご令嬢が吹月に編入されるらしいと、夫のところに同窓生から話がまわってきたのよ。夫は『俺の母校に女子生徒が…』と、それはそれは驚いていたのよ?ああ、心配しないで?夫は舞依ちゃんなら大歓迎と言っていたから。それよりも、どうして教えてくれなかったのかと私に八つ当たりするのよ?困った人よね。ほら、私の仕事のこともあるけれど、夫は私と舞依ちゃんが仲良しなのを知ってるから。でも私だって本当に知らなかったんですもの。学院長もサプライズがお好きよね。交換留学生に女子生徒を迎え入れるだなんて」

「交換留学生、ですか?」

「あら、違ったかしら?吹月の学生さんが一人留学するから吹月にも留学生を受け入れる事にしたと聞いたのだけれど」

「いいえ、その通りです」

「期間は今年度いっぱいだったかしら?」

「はい。交換留学される方が三年生でしたので」

「でも、急な事で学院側も準備が整ってるとは言えないはず。何か不自由はないかしら?」

「お気遣いありがとうございます。ですが、久我のおじさまが色々と考えてくださってるので、今のところは特に困ったことはありません」


二年ぶりにお会いするおばさまはまだまだ話し足りないという様子だったものの、私の後ろで待ってくれている栗栖君と円城寺君に気付き、「まあ、もうお友達ができたのね?」と両手を叩いて仰った。


「そうなんです。彼らが街を案内してくれてるんです」

「そう。それなら引き止めてはいけないわね。何かあったら夜中でもいいから時間を気にせず連絡してちょうだいね。吹月は職員の方も女性が少ないから、相談があったら遠慮なく言ってほしいわ」

「ありがとうございます。その際は甘えさせていただきます」

「体には気をつけてちょうだいね。そしてあとは、有意義な高校生活を」

「ありがとうございます。それでは失礼いたします」

「ごきげんよう。そちらのお友達も、舞依ちゃんのことをよろしくお願いしますね」


北園のおばさまは栗栖君と円城寺君にも声をかけてくださった。

二人はおばさまとは面識はなさそうだが、それぞれの礼で応じた。

栗栖君は丁寧な会釈で。

円城寺君は「お任せください」と可愛らしい笑顔で。

そんな二人に安心したのか、北園のおばさまはにこやかにお帰りになったのだった。









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