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10 制服 





「館林さん?いらっしゃいますか?」


男性の声は少し(しわが)れていて、どう聞いてもずっと年上の、そして紳士的な言葉遣いだった。


「はい、今参ります」


私は手早く窓を閉め、扉を開錠した。

このタイミングで私を部屋にまで訪ねてくる年配の男性だなんて、思いつくのはたった一人しかいない。


「…ああ、もう戻ってらしたんですね。よかったよかった。実は学院長先生から館林さんにこちらをお渡しするように仰せつかっておりまして。ああ申し遅れました、私は吹月学院生徒寮全体の管理人をしております、葛城(かつらぎ)と申します。どうぞよろしくお願いいたします」



やはり管理人さんだった。

管理人の葛城さんは小さく頭を下げながら、大事そうに抱えていたものを私に差し出した。

それは衣装カバーに包まれた制服と、紙袋に入った靴と鞄だった。


「館林 舞依です。ご挨拶が遅れてしまい失礼いたしました。こちらは制服ですね。ありがとうございます」


私は両腕でしっかり受け取り、柔らかい佇まいでいる葛城さんに礼を伝えた。

見た印象では、彼は管理人というよりも執事と紹介された方がしっくりくるかもしれない。



「普段着はご自身で洗濯をされる生徒さんも多いですが、制服や繊細な洋服については皆さんクリーニングを利用されてます。平日の登校前に玄関にあるクリーニングボックスに入れてくだされば夕方には仕上がってきますので、館林さんもぜひご利用ください。中等部で入学されたばかりの頃は生徒さん達もアイロン掛けに挑戦なさいますが、やはりワイシャツにピンとアイロンをかけるのはプロに任せた方が良いという結果に辿り着くようです」


親切に教えてくれる葛城さんに、私も「そうですね、そうします」と返した。

葛城さんが『中等部で…』と言ったのは、ほとんどの生徒が中等部からこの学院に入ってるせいだろう。高等部からの入学も無くはないが、かなりの狭き門だと聞いている。

それゆえ、私の編入はとにかく異例中の異例に見えるのだろう。


「勿論制服以外もクリーニングに出していただいて構いません。ですがシーツ、ブランケットの類はランドリールームのリネンバスケットに出してください。新しい物もランドリールームにありますので…もうこの説明は受けられましたか?」

「はい。でもありがとうございます」

「いえいえ。それから、栗栖君から館林さんは夕食を召し上がらずにお休みになると聞きましたが、よろしいのですか?」

「ええ、軽い時差ボケもありますし、今日はこのまま休みます」

「それでしたら、簡単な食事でもお運びしましょうか?」

「とんでもないです。どうぞ気を遣わないでください。実は…あまりお腹も空いてないんですよ」


葛城さんの丁寧な申し出は私を少しばかり恐縮させた。


「そうですか?体調が優れないときは遠慮せずに頼ってくざさいね。校医もおりますし」

「ありがとうございます。もっと悪くなるようでしたら、その時はよろしくお願いいたします。ですが、眠れば明日の朝にはすっかり元気になってると思います」

「では、内線通話の使い方はもうご存じですか?」

「はい、教えてもらいました。何かあったら葛城さんに一番にかけさせていただきますね」


その一言に葛城さんはようやく心配の色を薄めてくれたようで、また丁寧にお辞儀をして戻っていった。



キィ…と扉を閉じると、そこからは一人きりの時間が流れはじめる。

私は制服のカバーを外し、壁のハンガーフックに掛けた。

制服は二着あり、ライトブルーのワンピースと、もう一方はブラックに近いネイビーのそれだった。

事前にパンフレットで確認した限り、男子生徒の夏服はライトブルーのワイシャツだったので、それにあわせたデザインなのだろう。

二着には黒っぽい色のベルトも付属されており、胸元には男子生徒と同じく校章のエンブレムが施されている。


前以て制服に関して意見を求められたが、すべて久我のおじさまにお任せしていたので、私はこれから自分が毎日袖を通すことになるユニフォームと、たった今初対面を果たしたのである。

二種あるのは、おそらく、私が実際に使用したうえでの意見をもとに、正規デザインを決めるつもりなのだろう。

どちらも膝丈もしくは膝下あたりの丈で、日本の高校の制服は短いスカートが多いと認識していた私は少々驚きつつ、でもその品を保ったスタイルには感心していた。



「明日から、よろしくね」


制服の襟をひと撫でし、私は明日からはじまるここでの生活に想いを馳せたのだった。












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