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魚との対話

作者: 山手順平

ある人が湖畔を歩いていると、水の中に魚がいるのが見えました。

彼は立ち止ってそれを眺めていましたが、ふと疑問になって魚に尋ねました。

「おい魚、お前はなぜ水の中にいるんだい? なぜ陸にあがらないんだい?」

「陸では生きられないからさ」

「それは変だな。僕は陸で生きてるよ。水の中で生きる方がおかしくないかい?」

「それは変だな。僕は水の中で生きてるよ。陸で生きる方がおかしくないかい?」

「なぜ水の中でしか生きられないんだい?」

「そういう風にできてるからさ」

「なぜそういう風にできてるの?」

「知らない。それじゃ聞くが、君はなぜ陸でしか生きられないの?」

「空気が必要だからさ」

「僕は水の中にある空気を吸って生きてるんだけど、君はなぜ水から空気を吸えないんだい?」

「知らない」

それきり彼も魚も黙り込んでしまいました。


やがて彼がまた口を開きました。

「おい魚、もし水がなかったらどうするんだ」

「水がなかったら僕はここにはいない。君こそ土がなかったらどうするんだ」

「土がなかったら僕はここにはいないよ」

「でも土があっても君がいないことはあるね。今までそうだった」

「うん、水があっても君がいないことはあるね。今までそうだった」

「じゃあ、なぜ土があるの? 君がいなくてもいいのに」

「じゃあ、なぜ水があるんだ? 君がいなくてもいいのに」

二人はまた黙りこみました。


やがて魚がいいました。

「それじゃあもしかしたら、土でも水でもないものが、もしかしたらあるかもしれないね」

「空気かな?」

「空気には鳥が住んでるよ。土でも水でも空気でもないものがあるかもしれない」

「うん、そうだ。その土でも水でも空気でもないもののなかには、僕らとはまた違った何かがいるのかもしれないね」

「土でも水でも空気でもないものって何だろう?」

「それが何かとは言えないよ、だって『ないもの』なんだもの。『ないもの』には名前もないもの」

「じゃあ、名前をつけよう。オキョってのはどうだい?」

「いいね。じゃあ、オキョの中にいるものってなんだろう?」

「何だろうと言っても、いないものには名前がないよ」

「じゃあこうしよう、オキョの中にいるものはヒョンパだ」

「いいね。じゃあ、オキョの中にいるヒョンパは何をしているの?」

「生きてる」

「生きているだけ? 他に何をしているの?」

「知らない」

そしてまた二人は黙ってしまいました。


やがて彼がまた思いついたように言いました。

「魚よ、君はヒョンパが好きかい?」

「分からない。君は好きかい?」

「分からない」

「じゃあ、陸にいる君は水にいる僕が好きかい?」

「分からない。でも話しているんだから好きなんじゃないかな」

「じゃあ、君はオキョにいるヒョンパも好きなんじゃないかい?」

彼はそう魚に言われて突然合点がいきました。

「そうだね、僕はヒョンパが好きなんじゃないかな。君はどうだい?」

魚は少し考えてから言いました。

「僕が言った理屈から言えば、僕もヒョンパが好きかもしれない」

「そうか、よかった。じゃあ解決だ。僕らはどちらも好きなんだもの」

「そうだね、話せてよかったよ」

「僕も話せてよかった」

そう言って二人はお互いに手と手ビレを振って別れました。


どんどはれ。

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