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photographer  作者: 津辻真咲
7/8

ブラックホール


カシャ、カシャ。雪華はカメラのシャッターをきる。

――よし。順調。

彼女は微笑む。

「調子はどうですか?」

 弓弦が尋ねる。

「ばっちりです」

 雪華は笑顔で答える。

「それは良かった」

弓弦も笑顔になった。

「それで、今回は何の写真ですか?」

 弓弦は首を傾ける。

「気になりますか?」

 雪華は聞き返す。

「えぇ。もちろんですとも」

弓弦は笑顔で答える。

「今回は重力レンズによって歪んだ銀河の撮影です」

 雪華はそう説明する。

「そうでしたか。興味深いですね」

 弓弦は微笑む。

「ありがとうございます」

 雪華は嬉しそうにお礼を言った。

「いえいえ」

「ところで、コーヒーを淹れたのですが、飲みますか?」

「はい」

 二人はテーブルに着いた。

「今日の撮影を終えたら、何か用事でもあるのですか?」

 弓弦はコーヒーに角砂糖を入れる。

「いいえ。しかし、なぜ?」

 雪華はコーヒーを混ぜる。すると、弓弦は恐る恐る話す。

「あの、実は。親友の墓参りに行こうかと思ってまして」

「えぇ」

 雪華は相槌をうつ。

「それで、白井さんにも来てほしいと思いまして」

「そうだったんですね。でも、なぜ、私を?」

 雪華は疑問を彼に尋ねる。

「親友にあなたのことを紹介したく思いまして」

 弓弦はいつもとは違い、俯きながら言う。

「分かりました。行きましょう」

 雪華は笑顔で答えた。

「ありがとうございます」

 弓弦は少し、安堵しているようだった。



アンドロメダ支部 共同霊園

雪華は弓弦のあとをついて行く。

――この霊園に管理人さんの親友が眠っていらっしゃる。

 雪華は共同霊園の全体を見渡す。

「……」

雪華は白いユリの花束を抱えている。

「ここです」

弓弦は立ち止まる。その先に墓石があった。

「ここが」

「はい。僕の親友が眠っています」

 弓弦の横顔は少し、悲しそうだった。

「そうなのですね」

「……」

「……」

風でユリが揺れた。

「親友の方は、一体何で?」

 雪華は尋ねる。

「人類の寿命によってです」

 弓弦は答えた。

「寿命……。ということは」

「お考えの通り、延命治療を断ったのです」

――不老不死の医療を拒んだのか。

雪華はユリの花束を墓石の前に置く。そして、弓弦と共に手を合わせた。

「帰りましょうか?」

 弓弦は苦笑して言う。

「そうですね」



アンドロメダ支部 宇宙観測展望台

「今日はありがとうございました」

 弓弦がお礼を言う。

「いいえ。こちらこそ」

 雪華は微笑む。そして、彼に尋ねた。

「親友の方は、どのくらい前に?」

「五十億年前にです」

「というと……」

 雪華は考え込む。すると、弓弦は答える。

「えぇ。まだ、地球が存在していた時代です」

「そうなのですね」

「白井さんは、地球時代のことはご存じで?」

 弓弦は尋ねる。

「いいえ。まだ、生まれてはいません」

「そうでしたね」

 弓弦は苦笑する。

「地球、とても美しいそうですね?」

「え」

 雪華が微笑んだ。

「資料でしか見たことないのですが」

 そして、続ける。

「管理人さんは、地球で?」

「はい。地球で生まれました」

「そうだったんですね。地球はどんなところでしたか?」

 雪華はそう聞いた。

「空と海が青色でとても美しかったのを覚えています」

「そうなんですね」

 雪華は笑顔でそう言う。すると。

ピピピ。

携帯端末の着信音が鳴った。

「あ」

 雪華はメールの内容を確かめる。

「招集ですか?」

「はい」

「いってらっしゃい」

 弓弦は笑顔で送り出す。

「いってきます」

 雪華は手を振り、走り出す。弓弦は彼女の姿が見えなくなるまで、見送っていた。



アンドロメダ支社

「今回はオリオン支部にあるブラックホールの特集だ」

 比賀登はそう説明する。

「さぁ、準備だ」

「はい」

 三人は現場へ向かった。



オリオン支部

「さぁ、撮影開始だ」

 比賀登はそう言い放つ。

「まずは、ブラックホールの降着円盤ですね?」

 解は確認する。

「あぁ、そうだ」

「近くの青色巨星からガスを吸い込んでいるんです」

「そうみたいですね」

雪華は窓から宇宙を覗き、目視する。そして、高度カメラを担ぐ。

三人はしばらく、それを撮影していた。

「このくらいでいいですか?」

雪華は高度カメラで撮影した映像を比賀登に見せる。

「よし。これでいいぞ」

「はい」

 比賀登はOKを出した。

「次は、中心から1.5倍の位置ですね?」

 解は再び、確認する。

「そうだ。ブラックホールの中心から1.5倍の位置に来ると、はるか遠くに自分自身の後姿が見えるというものだ」

 比賀登が説明する。すると、雪華は高度カメラを担ぐ。そして、撮影を開始する。

「どうだ? 見えるか?」

 比賀登は彼女に確認する。

「ズームにすると見えますね」

 雪華はそう答える。

「よし。そのまま、撮影だ」

「はい」

 カメラは回り続けた。そして。

「もういいだろう。撮影完了だ」

「はい」

 比賀登の合図で撮影は終了した。



アンドロメダ支部 宇宙観測展望台

カシャ、カシャ。カメラのシャッター音が響く。雪華が宇宙の写真を撮影していた。

「コーヒー飲みますか?」

 弓弦がコーヒーを淹れてやって来た。

「はい。もちろん」

 雪華はカメラから視線を離し、弓弦の方を見る。彼は彼女を見上げていた。台の上にある望遠鏡に撮影機材を設置して、撮影している彼女を。

「では、こちらへ」

弓弦はコーヒーのカップをテーブルに置く。

「何の写真だったのですか?」

 弓弦は席に着きながら、尋ねる。

「惑星の写真です」

 雪華もテーブルの席に着く。

「おや。珍しい」

「そうですか?」

「えぇ」

 弓弦はコーヒーに角砂糖を入れる。

「地球の話を聞いたら、色々な惑星の写真を撮りたくなってしまって」

「そうだったんですね」

 弓弦はコーヒーを一口飲む。

「それで、どのような惑星を撮影しましたか?」

「地球のような岩石惑星だけじゃなく、木星のような巨大ガス惑星や天王星のような巨大氷惑星も撮影しました」

「そうなのですね」

「はい」

 雪華は微笑んだ。


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