重力波
カシャ、カシャ。シャッター音が響く。宇宙観測展望台は今日も美しい宇宙を届ける。
――今日も順調。
雪華は画面を見て、微笑む。
「今日もせいが出ますね?」
弓弦がやって来た。もちろん、二人分のコーヒーと共に。
「コーヒー淹れてきましたよ。どうですか?」
彼はコーヒーカップをテーブルに置く。
「それじゃ、息抜きに」
雪華は笑顔で答えた。
「どうぞ」
弓弦も微笑んだ。
「今日は何の撮影ですか?」
弓弦は雪華に尋ねる。
「銀河です」
雪華は答える。
「というと、白色? ですか?」
弓弦は少し、首を傾ける。
「はい。その通りです」
雪華はコーヒーカップを手に答える。
「そうですか。個展が楽しみですね」
「はい」
すると。
「あ、そういえば」
雪華は何かを思い出す。
「?」
弓弦はその様子を見て、首を傾げた。
「今回、新しくオープンした国立図書館に行ってみようと思うのですが、管理人さんもどうですか?」
雪華は彼に尋ねる。
「図書館?」
「はい」
雪華は真剣に答える。
「何を探すのですか?」
「銀河の写真集です」
雪華の楽しそうな様子に弓弦は少し、表情を緩める。
「ほう」
「何億年も前に撮影された銀河の写真を見てみたいんです」
仕事熱心というか、宇宙が大好きな彼女に、弓弦は心を打たれた。
「なるほど。新しく出来た国立図書館になら、何億年も前に発売された書物がそろえられているかもしれませんね」
弓弦は自身と同じ、宇宙が好きな彼女に嬉しくなった。
「はい。私もそう思ったんです」
雪華は一層、表情を明るくする。
「では、行ってみますか」
弓弦は、微笑んだ。
国立図書館前
「ここが新たな……」
弓弦は建物を見上げる。
「すごい。こんなに大規模なら、あるかも!」
雪華は表情を明るくする。
「では、入ってみますか?」
「はい」
二人は建物内へと入って行った。
国立図書館内
――わぁ。
雪華は表情明るく、あちこち写真集を探しまわっている。
――なるほど。こんなふうになっているんですね
弓弦は館内の様子を観察し、微笑む。
――何か、小説でも……。
弓弦は小説を探し始めた。
――これは、五千年前の小説ですかぁ。おもしろそうですね。
彼は手に取る。
――白井さんはどうなんでしょう? お目当てのものは見つかったのだろうか?
弓弦は雪華の方を見る。彼女は楽しそうに探していた。
――楽しそうでなにより。
彼は微笑んだ。
――この小説を読んで待ちましょう。
弓弦は椅子に座り、小説を読み始めた。
三十分後。
「管理人さん。お待たせしました」
雪華が満足そうにやって来た。
「目当てのものは見つかりましたか?」
弓弦は小説を閉じる。
「はい。五十億年前に刊行された銀河の写真集です」
雪華は嬉しそうに本の表紙を見せた。
「それは、良かった」
弓弦は微笑む。
「管理人さんは、何を見つけたのですか?」
雪華は首を傾げて、尋ねる。
「五千年前の小説です」
「おぉ」
雪華は少し、驚いてみせた。
「意外と面白い推理小説でしたよ」
「そうだったんですね」
雪華は笑顔で答えた。
「では、帰りましょう」
「はい」
二人は国立図書館をあとにした。
弓弦は借りて来た小説を読む。そして、雪華は銀河の写真集を見ていた。
――わぁ。この銀河、衝突する前はこんな姿だったんだぁ。
雪華は目を輝かす。弓弦はそんな雪華を見た。
――楽しそう。本当に宇宙が好きなんだなぁ。
弓弦は微笑んだ。
ピピピ。電子音が鳴る。
「あ」
雪華は携帯端末を取り出す。
「バイトの招集ですか?」
弓弦は小説を置き、雪華に問う。
「はい」
「いってらっしゃい」
弓弦は笑顔でそう言う。
「いってきます」
雪華は笑顔で手を振った。
アンドロメダ支社
「今回は、重力波観測施設での撮影だ。重力波の撮影とその歴史について、ドキュメンタリーで追う」
比賀登はそう説明した。
「はい」
「では、出発」
《リブラ支部へ到着いたしました》
アナウンスが流れた。
「ここが……」
「重力波観測施設」
雪華と解の二人は建物を見上げる。
「わぁ」
「すごい」
解は感嘆する。
「さぁ、中へ入るぞ。さっさと撮影の準備だ」
「はい」
二人は比賀登の指示に従った。
撮影開始
「どう? 撮れましたか?」
解は雪華に尋ねる。
「うん。ばっちり。重力波の可視光線への変換の映像、撮れたよ」
雪華は笑顔でそう言う。
「良かった。無事撮影完了ですね」
解は表情を明るくした。
「館長さん、今回はどうもありがとうございました」
比賀登はこの重力波観測施設の館長に礼を言った。
「いいえ、こちらこそ。取り上げてもらいどうも、感謝しております」
館長は笑顔で軽く会釈した。
「では、失礼いたします」
比賀登は頭を下げた。
「あとは編集だけですね」
「そうですね」
雪華と解の二人は外へ出ると、そう話し合った。
「編集完了!」
雪華は背伸びをする。
「お疲れ様です」
解は笑顔でそう言う。
「佐木くんもありがとう。手伝ってくれて」
「いいえ」
「あ。そうだ。一緒に来る? 宇宙観測展望台」
雪華はそう提案する。
「いいのですか?」
解は少し、首を傾げる。
「もちろん。管理人さんとも三人でお話しましょう?」
「はい」
解は笑顔で返事をした。
宇宙観測展望台
「こんにちは」
解は弓弦に挨拶をする。
「おや、久しぶりですね。こんにちは」
弓弦は笑顔になる。
「今日は、佐木くんも一緒です」
雪華が説明する。
「もちろん。大歓迎ですよ。さぁ、こちらへどうぞ」
弓弦は解を席へ案内した。
「今日は何の撮影ですか?」
案内した後、弓弦は撮影機材を組み立てる雪華に尋ねた。
「銀河の衝突の写真を撮影しようかと」
雪華は少し、微笑む。
「なるほど。興味深いですね」
弓弦も微笑んだ。
「さぁ、佐木さん。コーヒーです」
弓弦はコーヒーを淹れて来た。
「ありがとうございます」
解はそれを受け取った。
「熱いので、お気をつけて。少し冷めてからが一番ですかね?」
「管理人さんは、猫舌ですよね?」
雪華が話に入って来た。
「おやおや。そうでしたか。私は普通だと思っていたのですが」
弓弦はきょとんとする。
「猫舌ですよ」
雪華は少し、微笑む。
「だそうです。佐木さんはお好きな時に」
「ありがとうございます」
解は角砂糖を一つ入れた。
「ん? これは?」
解はテーブルの端に置かれてある本に気付いた。
「これは、今日、国立図書館へ行ったときに借りて来た銀河の写真集です」
弓弦が説明する。
「関さんが?」
「いいえ。白井さんです」
解はそれを手に取り、ページをめくった。そして、後半にさしかかると。
「これは!」
彼は驚いた。
「どうかしましたか?」
弓弦は内心、その声に驚きながら、尋ねた。
「この星空、見たことあります」
解はとある写真を指差し、そう言う。
「え?」
弓弦はそれを見ようと本を覗き込む。
「これは、昔、まだ太陽系が存在していた時代に撮られたものだと思います」
解がそう説明する。
「と、いうと?」
弓弦は興味深そうに聞く。
「これは、地球の星空です」
「そうだったんですね」
弓弦は驚く。
「びっくりした?」
雪華は撮影機材から顔を覗かせる。
「知っていらした?」
弓弦は機材を見上げる。
「えぇ。私の本業ですから」
雪華は笑顔で言った。