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photographer  作者: 津辻真咲
2/8

ガンマバースト


「今回は何の撮影ですか?」

 管理人の弓弦はいつも通り、宇宙の写真を撮影している雪華に話しかける。

「散光星雲です」

 雪華はカメラから、目線を逸らし、弓弦に答える。

「ほう、そうでしたか。青色ばかりですが?」

 弓弦は少し、首を傾げて、尋ねる。散光星雲は青色だけではない。

「テーマは青です」

 雪華は笑顔で答える。

「そうだったんですね。素敵な色です」

 弓弦も笑顔で、それを誉めた。

「個展用ですか?」

「はい」

 雪華は嬉しそうに返事をする。今回、初めて個展を開けるのだ。

「そうだ。コーヒーを入れて来たんでした。どうです?」

 弓弦は手に二人分のコーヒーを持っていた。コーヒーカップとミルクがそれぞれ二つずつ、角砂糖も然り。

「いただいてもいいのですか?」

 雪華はいつも通りの展開でも、嬉しそうに表情を明るくする。

「もちろんです」

「ありがとうございます」

 雪華は弓弦から、コーヒーを受け取り、テーブルについた。

「個展のテーマが青ということですよね?」

 弓弦はコーヒーに角砂糖を入れる。

「ちょっと違います」

 雪華はミルクを先に入れる。

「というと?」

「個展のテーマは色です」

 雪華は少し、照れている。初めての個展だからだろうか、少し緊張と恥ずかしさが混ざる。

「なるほど、その中の青色が今日の撮影なんですね?」

「はい」

彼女は笑顔で返事をする。

「管理人さんは何色が好きですか?」

 雪華は彼に尋ねる。

「緑色です」

「そうでしたか。今度、挑戦しますね」

「その時は、よろしく」

「はい」

ピピピと電子音が鳴った。

「あ」

 雪華の情報端末だった。

「バイトの招集ですか?」

 弓弦はコーヒーカップをテーブルに置く。

「えぇ。今回はエリダヌス本部のガンマバーストのようです」

 雪華も置く。そして。

「いってらっしゃい」

「では、いってきます」

雪華は手を振る弓弦に手を振り返す。そして。タタタタタと走って現場へ向かった。弓弦はその後姿を見て、少し微笑んだ。



「あ! 来た! こちらです! 白井さん!」

 解は彼女を見つけると大きく手を振り、誘導した。

「お待たせしました」

 雪華は息を切らす。

「今回はエリダヌス本部のガンマバーストですよ」

「えぇ、メールで。活動しているブラックホールから放出されているんですよね?」

「はい」

 解は笑顔で答える。

「それで、そのブラックホールはもうすぐ活動を弱め、眠りに入るので撮影は今回限りです」

「分かりました」

 雪華は頼もしく、返事をする。内容を把握したのだ。

「それから、もう一つ」

「?」

 雪華は後方からの比賀登の声に振り返る。

「ガンマバーストは遠方へ伸びていて、遠くの暗黒星雲という恒星のゆりかごへと影響を及ぼしている」

「ということは、その暗黒星雲ではいつもより恒星の誕生が活発化しているんですね」

雪華は表情を明るくして、答えた。

「そうだ。だから、今回はそれも撮影だ」

「はい」

 三人は現場へ向かった。



《シャトル発射まで、3.2.1.0… 発射します》

 自動アナウンスが流れ、発射を知らせた。

――ここまでは順調。

雪華はシャトルを操縦する。

「もうすぐ、ワープエリアへ入ります」

 雪華は操縦席から、二人へ知らせる。

「はい」

「分かった」

《ワープまで3.2.1.0…》

――よし、順調。

《ワープ完了。目的地へ到着しました》

雪華は操縦をオートモードに切り替えた。

《オートモードになりました》

「切り替え完了しました」

「操縦ありがとう。さぁ、撮影だ」

 比賀登は頼もしく、伝えた。

「はい」



「どうだ?」

比賀登は雪華へ撮影状況を尋ねた。

「確かにあの暗黒星雲には、これから恒星になる原始星がたくさんありますね」

「とても興味深いですね」

 雪華と隣にいた解は窓の外を見て、感嘆した。すると、ビービービーと警報音が突然、流れ出した。

「な、何!?」

 雪華は思わず、高度カメラを下す。

「何かあったのですか!?」

 解が慌てる。

「今、確かめます」

雪華はそう言うと、操縦席に着いた。

「どうだ?」

 比賀登が急かす。

「ブラックホールからのガンマバーストが予想範囲を超えて、こちらへ向かって来ています!」

 雪華は状況を報告する。

「何!?」

 比賀登は驚いた。すると。

「すみません!」

解が頭を下げた。

――え?

 雪華は操縦席から、声のする後方を見た。

「僕の予報が外れてしまったせいで」

 雪華からは申し訳なさそうにしている解の姿が見えた。

「大丈夫だ。このまま、安全域まで撤退しよう」

 比賀登は咎めず、雪華と解へ指示を出した。

「はい」

解は返事をすると、頭を下げた。

「ちょっと待って!」

 雪華は前方に何かを見つけ、思わず叫んだ。

「どうした?」

 比賀登は彼女の声に気付き、操縦席の後ろから、前を覗き込んだ。

「向こうに一機、シャトルが目視できます」

 雪華は伝えた。

「何? 向こうも気付いているんじゃないか?」

 比賀登は操縦席のシートの肩に手をかけると、前方をまじまじと目視した。

「そうだといいのですが」

「連絡してみろ。一応な」

「はい」

 雪華は比賀登の指示に返事をすると、対象のシャトルに連絡を取った。

「こちら、シャトル55。応答願います」

《こちら、シャトル22。どうなされましたか?》

 返答があった。雪華は急いで、ガンマバーストのことを伝える。

「ガンマバーストが予報を外れ、こちらに向かって来ています。気付いておられましたか?」

《いいえ。連絡ありがとうございます》

 どうやら、知らなかったようだ。

「今すぐ、ワープして下さい」

《はい。ありがとうございます。では》

すると、通信が切れた。

「どうやら、大丈夫のようですね」

「そのようだな」

しかし、再び、ビービービーと警報音が響いた。

「また、警報音?」

 雪華は首を傾げる。

「どうして?」

 解はスピーカーの方を見た。

「情報は?」

 比賀登は操縦席の雪華へ尋ねる。

「今度は、この暗黒星雲の中の原始星から放出される双極分子流が予報をそれています」

 雪華はそう報告する。

「何!? 今度はそれか!」

 比賀登は思わず、叫んだ。

――また、外れた。

 そんな彼の横で、予報を外した解は落ち込んでいた。

「そろそろ、こちらも撤退しよう」

 比賀登は指示を出す。

「はい」

 雪華は返事をする。が。

――おかしい。

雪華は正面の景色に目を凝らしていた。

「どうした?」

 比賀登は彼女の様子に気付き、尋ねる。

「あのシャトル、さっきワープするって言っていたのに、まだ、撤退してないんです」

「え!? なぜだ!?」

 比賀登は驚く。

「連絡します」

 雪華は通信を開始した。

「こちらシャトル55。シャトル22、何かありましたか?」

《こちらシャトル22。ワームホール型、光速型、どちらのワープもエラーの表示が消えなくて》

「本当ですか!?」

 雪華は慌てた。

「光速型ワープを使おう。それで向こうのシャトルと共に撤退しよう」

 比賀登は冷静に指示を出す。

「はい」

 雪華はそれに返事をし、向こうのシャトルへ連絡を取る。

「シャトル22、今から、そちらへ向かう。そこから一緒に光速型で撤退する」

《了解しました》

 その返答が帰って来た。



《手動操作へ切り替えました。第2翼、シャトル22とドッキング完了いたしました》

 自動アナウンスが流れ、シャトル同士のドッキングが完了した。

「よし、このままワープだ」

「はい」

《光速型ワープまで、3.2.1…》

ドゴォォォという轟音と共に、シャトルはワープを開始する。

――このまま、アンドロメダ支社へ。

ヒュゥゥゥンと出力が落ちた。

《ワープ完了いたしました。アンドロメダ支社へ到着いたしました》

 そうアナウンスが流れ、無事を実感した。

「よかった。無事到着」

 雪華が安堵する。

「あとは、向こうのシャトルの修理だけだな」

 比賀登が微笑む。

「はい」

雪華も笑顔になった。



「ここは?」

 解は辺りを見渡す。

「私がいつも本業の仕事をしているところ」

 雪華は微笑んで言う。どうやら、雪華は落ち込んでいる解を自身の仕事場へ案内したようだ。

「いらっしゃい」

管理人の弓弦は笑顔でやって来た。コーヒーを三人分用意して。

「珍しいですね。誰かと一緒だなんて」

 弓弦はテーブルにコーヒーを置く。

「こちらは、私の同僚の宇宙予報士、佐木解さんです」

 雪華は彼を弓弦に紹介した。

「初めまして」

 解は軽く、会釈する。

「こちらは、ここの管理人をしている関弓弦さんです」

 今度は、弓弦を解へ紹介する。

「よろしくどうぞ」

弓弦は笑顔で握手を求めた。解は少し、緊張しながら握手をした。

「今日は何の撮影かな?」

 弓弦は雪華へ尋ねる。

「今回は、ブラックホールです!」

雪華は嬉しそうに笑顔で答えた。

「おぉ、そうなのですね」

 弓弦は少し、興味深げにリアクションをする。

「もしかして、黒色ですか?」

 弓弦は自身の推測を雪華に聞いてみる。

「いいえ。赤色です」

 瞬殺だった。

「赤色でしたか、でも、なぜ?」

 弓弦は疑問を口にする。

「佐木君は分かるよね?」

 雪華は解の方を見る。

「あぁ、そうですね。宇宙予報士さん」

弓弦は笑顔で解を見る。

「はい。光はブラックホールに吸い込まれて行くとき、波長が重力で引き延ばされて次第に赤色へ近づいて行くのです」

 解は少し、緊張して答えた。まだ、この場に慣れてはいない。

「なるほど。そうだったんですね。さすがです」

 弓弦は尊敬のまなざしで、彼を見た。

「ありがとうございます」

解はそれを感じて、少し微笑んだ。

――良かった。

雪華も微笑んだ。


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