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LAST LORD  作者: トミ
第三章 往路にて
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シバの村4

 カント様は、表情こそ見えないものの、優しい声をしていた。クライブ達の旅を労い、歓迎の意を示してくれた。

 奥の祭壇には、大きな鏡が鎮座している。恐らく、鏡だろう。大きな楕円の一枚の石て、装飾の施された台座に収まっている。それは深い青色の石で、表面をピカピカに磨き上げられているのだった。その青と群青の混ざり合った滑らかな表面に、松明の火がちらちらと閃いている。


「時に、クライブ殿は、魔力を持たぬのですな。」


 ふいに訊ねられて、我に帰ったクライブはドキリとした。カント様もシバの村人達も、巡礼者を歓迎してくれている。ということは、勇者リィネの伝説を重んじているということだ。道中の村やレンデとは違う。

 勇者の末裔の村、伝承を大事にしてきたリィネ村とは違って、多くの人々の中では、勇者の伝説が遥か昔の物語として薄れつつある。この旅で、彼はそれを感じていた。

 勇者の末裔でありながら、魔力を持たぬことを、気にする者もいない。クライブはそれを寂しく思いつつ、少しホッとしていたのだった。

 シバの村の者達は、そうではないだろう。ならば、魔力を持たぬクライブに落胆するかもしれない…。

 クライブは少し身構えてカント様を見た。何と返事をするか迷いながら、フードの奥の暗がりに、カント様の表情を探そうとした。彼が返事をする前に、占い師は首を持ち上げて面白がるような声を上げた。


「ほう!それに従者殿は、火の魔力を宿しておる。」


 今度は、ティナが背筋を伸ばす番だ。ピンと立てた尻尾がピリリと緊張する。彼女が落ち着かなく耳を動かすと、耳飾りに松明の火がちらちらと揺らめく。キース族達は、風の魔法を使う者がほとんどだ。現在コモルの戦士で、火の魔法を使うのはティナだけ。本人は全く気にしていないように見えていたが、少しは思うところはあるのだろうか。


「ほう、ほう。そう、身構えないでくだされ。」


 彼らの様子を見て、カント様は柔らかい声で笑った。


「確かに、エスト島の長い歴史の中で、ほとんどの勇者は水、従者は風の魔力を宿しておりますじゃ。しかしその昔に、魔力を持たぬ勇者と、火の魔法を使う従者がいたこともあると、聞き及んでおります。」


 クライブは驚いた。初めて聞いた話だった。ティナも目を丸くしている。


「知りませんでした。その勇者も、巡礼の旅に出たのでしょうか。どんな人物だったのでしょう。」


「カント様、火の魔法を使う従者の方は?キース族だったの?」


 身を乗り出して訊ねる二人に、カント様は、ほっほうと笑った。


「さあ。老生が生まれるよりも、ずうっと前の話ですじゃ。しかし、立派な方々であったと聞き及んでおります。」


 そうですか、と答えながら、クライブを姿勢を正した。思わず、興奮して身を乗り出してしまった。カント様はおいくつなのだろう。その、魔力を持たぬという勇者は、どれくらい前の人なのだろう…。


「クライブ様、強い魔力を持つ者しか感じられぬことがあることは、リィネの末裔ならば、ご存知でしょう。しかし、さればこそ、逆もしかり。ですじゃ。夜にしか見えぬ星があるように、貴方様にしか見えぬものがある。老生は、そう思いますじゃ。」


 彼は驚きながらその言葉を聞いた。クライブは、なんとか、はいと返事をした。ジーンとしていた。故郷では、魔力がないことを補うようように、剣の道に打ち込んできたのだ。自分は劣っているのだから、人よりも努力しなければならないと思っていた。

 カント様は、今度はティナの方は頭を傾けて言った。


「ティナ様、水は命に恵みをもたらし、風は命を運び、火は命に活力を与えます。風の精霊に使仕える貴方様ですが、その存在は島に生きる者どもを繋ぎ、活気づかせる要となるやもしれませんな。」


 ティナは、大きな目をぱちぱちさせた。


「わ、ええと…。ありがとうございます。」


 そう、もじもじと照れたように言った。

 二人は丁寧に挨拶をして、カント様の社を後にした。この後、双子に村を案内して貰うのだ。


「カント様、いい人だったねぇ…。コモルのみんなは大らかだけど、あんまり深いこと考えてないから。」


 ひどい言いようである。クライブは少し笑った。


「ま、アタシもそうだし、だから気にしてなかったけど…。みんなと違うよね、とは思ってたんだ。だから、あんな風に言ってくれて嬉しかった。ね!」


 彼女はそう言って、縞模様の尻尾を揺らした。


「うん、そうだな…。カント様と話せて良かった。」


 クライブはそう言って頷いた。暗闇の中でしか見えぬもの。口の中で、小さくその言葉を繰り返した。カント様のお社を後にした後も、あの鏡の中に見た松明のように、彼の心の中でその言葉がちらちらと燃えていた。

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