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LAST LORD  作者: トミ
第二章 コモルの戦士達
33/53

畑荒らし2

 畑荒らしが通ったと思われる場所は、枝や草が切り刻まれ、めちゃくちゃに踏み荒らされていた。

 暴れながら進んだとも言えるその跡を辿りながら、パウロは疑問に思う。モリカマキリはナワバリの木にカマで削った跡をつける習性があるが、それとは違うと感じた。

 何故こんなことをしたのだろう?野生の生き物は普通、無駄に体力を消耗するようなことはしない。モリカマキリ達が、何か必要があって森を破壊するとも思えない。

 考えてもわからない。でも、なんだか胸騒ぎがする。何か良くないことが起こりそうな、そんな予感だ。先程の、怒りに叫ぶ親友の顔が頭に浮かぶ。パウロは、予感が間違いであることを祈り、走った。


ギャァギギイィ!


 突然、金属を擦るような音が響いた。同時に、何かを砕くような激しい物音がする。すぐ近くだ。パウロは背中の武器を外して構えると、茂みから転がり出るように飛び出した。

 そこには、大きなモリカマキリがいた。ただ、足が数本もげ、地に這いつくばるように倒れている。腰の部分が潰れ、青い体液が流れ出ていた。大きな虫はなんとか頭をもたげ、ギチギチと苦しげな音を立てている。その瀕死のモリカマキリを前に、サブが武器を構えて立っていた。

 彼が切りつけたのだろう。モリカマキリの素早いカマの一撃は恐ろしいが、虫だけあってその体は脆いのだ。

 サブは大剣を上段に構えていた。変わった形の片刃の剣は長さに対して幅と厚みがあり、切るというより叩き潰すようにして使う武器だ。刀身の背の部分に食い込むように長い持ち手があり、槍のように構えることもできる。

 サブは剣を振り上げると、モリカマキリに叩きつけた。不快な音と共に、虫の身体が真っ二つに折れた。ぐしゃりと地面に倒れ、ひくひくと痙攣する。じきに死ぬだろう。かわいそうだが、村の安全の為には仕方がない。

 パウロは、武器を下ろしかけて、ピタリと止まった。臭いがする。近くに、もう一匹いる。

 パウロは、大ブーメランを水平に構えた。集中し、深く息を吸う。直後、前方の頭上で空気が動くのを感じ、地を蹴った。

 同時に、樹上から大きな影が飛び出し、木の葉が舞い散った。別のモリカマキリが飛び出して来たのだ。数瞬前までパウロの頭があった空間を、鋭いカマが薙ぐ。

 パウロは、前に飛び出して片手を着くと、そのままの低い姿勢から、手にした大ブーメランを力いっぱいに振り上げた。

 手応えを感じながら、最後まで振り抜く。そのまま、武器の重さと遠心力を借りて軽やかに一回転し、すたんと着地する。

 モリカマキリは、一撃で両のカマと、首を切り飛ばされていた。ギチギチと抗議するような音を立て、中途半端に羽を広げたままバサリと地に落ちる。パウロは、ふんと鼻息を吐いた。オイラの勝ちだ。

 その時、背後からズドン!と音がして、パウロは飛び上がった。振り向くと、サブが、倒したモリカマキリの死骸を踏みつけ、剣を突き刺していた。


「サブ?」


 ズドン、ズドン。繰り返し剣を振り上げ、振り下ろす。モリカマキリの身体はバラバラで、もはや限界を留めていない。それでもなお剣を振り上げるサブの背中に、狂気を感じた。


「サブ!何やってんだよ!?もう死んでるって!」


 パウロがびっくりして声を上げと、サブが振り返った。ちょうど剣を振り上げたままの姿勢で、ぽかんとした顔をしている。


「あれ?…あ。」


 そして、我に帰ったように自身の足元に目を落とした。


「あれ、何やってんだろ。」


 サブは、バラバラのモリカマキリの死骸に、今気づいたかのように驚いた顔をしていた。


「ごめん。なんか、すげー腹が立ってさ…。」


 サブはそう言って武器を下ろすと、うつむき肩を落とした。

 また憤怒の表情で睨まれることを恐れていたパウロは、半ばほっとしていた。サブは尻尾を下げ、黙り込んでいる。本気で落ち込んでいるようだ。


「なあ、サブ…。なんか、今日変だよな?」


「うん。そうかも。」


 恐る恐る切り出すと、サブはうつむいたまま、ポツリと返事をした。パウロは大きな手のひらを握りしめた。何と言ったらいいかわからない。でも、ちゃんと話さなければ。サブは覚えてないかもしれないし、話してどうなるのかもわからない。それでも、パウロは心に決めた。


「実はさ、サブ。昨日、シルフールの間で…。」


ギチギチギチィ!


 パウロが口を開いた瞬間、モリカマキリの警戒音が響いた。何匹もいる。二人のキース族は慌てて身構えた。

 今いる場所は、木と茂みに覆われて、非常に視界の悪い場所だった。それでも、鼻と耳の良いキース族の二人には、囲まれていることがわかった。いつの間に近づいてきたのだろう。

 ギチギチという音は、包囲網を狭めるように近づいてくる。二人は背中合わせに立ち、武器を握りしめた。ヒゲがピリピリと震え、毛が逆立っている。言うまでもなく修羅場だ。

 パウロとサブが覚悟を決めるのは早かった。どちらともなく、ふっと短く息を吐く。二人の周囲でゆっくりと空気が動き出し、足元の草を凪ぐ。

 その動きを感じ取ったのか、モリカマキリ達の動きが止まった。その一瞬に、少年達は風の魔法を用いるべく、声を合わせた。


風の精霊シルフールの名の下に命ずる…

風の魔素よ、来たりて渦を巻け!


 戦士達の祝詞に、それまで緩やかに渦を巻いていた風が凝縮するかのように加速してゆく。つい今までほとんど風のなかったこの場所で、二人はビュウビュウと唸る竜巻の中心にいるのだった。


風の魔素よ、刃の嵐となり、我らの敵を切り裂け!


 二人が声を上げると同時に、樹上からモリカマキリが飛び出した。同時に、低い茂みから数匹が這い出る。虫達はカマを振り上げ、一息も置かずに襲い来る。


「う、おおぉっ!」


 掛け声と共に、二人はお互いの武器を振るった。背中を合わせたまま、風車のように回転し、留めていた魔力を解き放つ。

 竜巻が弾け飛んだ。凝縮された空気が拡散するかのように暴風が巻き起こり、周囲の木々がザアザアとしなる。風の魔法・ヒュール。風の魔力を刃とし、放つ技である。

 風が吹き抜けた後、一瞬だけ静寂が訪れた。直後、バサバサと、周囲の木々と共に切り刻まれた虫達の残骸が地に落ちる。

 モリカマキリの集団ごと、森が円状に刈り取られていた。まるで、二人を中心として、全方位へ円状に薄い刃が通り抜けたようだ。

 十はいるであろうか。周囲に倒れたモリカマキリ達は弱々しげにギチギチと音を立てている。虫は、身体を分断されたとて即死はしない。上半身だけでも数分の間は動くことが出来、油断はできない。もう襲い来る個体がいないのを確認してから、パウロとサブは深く息をついた。窮地は脱したようだ。


「森を、傷つけ過ぎちゃったかな。木達に悪かったな。」


「ああ。でもヤバかったし…」


 息をついたのもつかの間、二人はハッとして再び身構えた。何かが近づいてくる音がする。バキバキと音を立て、真っ直ぐに向かってくる。明らかに、こちらに気付いている。

 今、パウロとサブがいる即席の広場。その奥の茂みが揺れた。木々が切り刻まれ、乱暴に薙ぎ倒される。息を飲んで見つめる中、それは現れた。

 巨大なモリカマキリだった。先程倒した虫達の倍近くある体躯に、一際大きなカマを持っている。その個体は、他のモリカマキリと違い、大きな羽を有していた。

 光沢のある薄い羽は、端が僅かにウェーブしており、光の当たりによって七色に輝いて見える。こんな時でもなければ、その美しさに見惚れていただろう。

 間違いない。目の前にいるのは女王カマキリだ。モリカマキリは、蟻のような群れを作って暮らす虫なのである。虫の中では唯一集団で狩りをすることでも知られている。

 その女王は、普通は地中に作られた巣の一番奥にいて、滅多に出てこないはずだ。パウロも見るのは初めてだ。

 女王カマキリがカマを持ち上げ、ギチギチと威嚇音を出した。羽を広げると、威圧感も相まって、その身体は壁のように大きく見える。

 パウロは新たに現れた敵を警戒しつつ、チラリと隣に視線を送った。それに気付いたサブが僅かに頷く。大きいとはいえ、敵は一体だ。間合いの外からの魔法攻撃で倒せるだろう。パウロは敵を刺激しないよう、静かに半歩後ずさった。

 その時、嫌な臭いがした。ドロリと鼻の奥にこびりつくような、不快な臭いだ。それはパウロの不安を呼び起こした。この臭いに覚えがあったからだ。

 女王カマキリがゆっくりと上体を起こす。大きな複眼が、薄い水色にぼうっと光っている。その表情のない瞳に、底知れぬ憎しみと殺意を感じた。

 ふいに虫の身体が黒ずんだ気がした。それも束の間、女王カマキリから、ぶわりと紫色の蒸気のようなものが立ち上った。それは身体の奥から湧き上がるように溢れ、あっという間に濃度を増してゆく。

 二人は武器を持って身構えたまま、呆気に取られてそれを見ていた。やがて紫の蒸気は黒い炎となり、高く燃え上がる。それに阻まれ虫の身体は見えなくなってしまう。

 少年達はじりじりと後ずさった。何が起こっているかわからない。未知数すぎて、攻撃するも逃げ出すも、判断がつかずにいた。彼らが見守る中、やがて炎が薄れ、再び紫の蒸気となる。

 女王カマキリは先程より二回りも大きくなっていた。いや、それは今や、モリカマキリという種であるかも怪しい。節のある足は先程よりも太く黒ずんでいるし、四本に枝分かれした触覚は長く伸び、意志を持った鞭のようにゆらゆらとしなっている。

 先程美しいと思った羽は、ドレスのように長く伸びているが、黒鉄のような光沢を放ち、禍々しいとしかいえない模様が入っている。見ていると恐怖が込み上げてくるようだ。水色に仄光る複眼だけが、先程と変わらぬ殺意を湛えていた。

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