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LAST LORD  作者: トミ
第一章 旅立ち
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剣術大会1

「エール…」


 遠くで呼ぶ声が聞こえる。エールは闇を漂いながら、ゆっくりと浮上するのを感じた。辺りの暗闇が薄れていき、柔らかな光が降り注ぐ。


「エール、起きなさい。エールったら!」


 突然、耳元で怒鳴られ、エールはびっくりして目を覚ました。

 目の前に幼馴染のアスカの顔がある。その整った顔をしかめて、アゴを少し持ち上げて口を結んでいる。いつもエールを叱るときにしてみせる顔だ。

 アスカは一つ年上で、エールを妹のように可愛がってくれている。

 エールは早くに両親を亡くし、兄クライブと二人暮らしだ。両親が死んだ時、エールはまだ幼く、アスカの母テルナが何かと世話を焼いてくれたのである。

 アスカは長い金髪をポニーテールにしていた。木漏れ日が、髪に透けて金色にきらきらと光る。その金髪をちょっと羨ましく思う。

 エールは、いつも昼寝をするお気に入りの場所に仰向けに寝転がっていた。村はずれに大きな木が一本立っていて、ちょうといい木陰になっているのだ。体の下には草の感触があった。首が痛いのは、アスカに両手で頰を挟まれ、顔だけ持ち上げられているからである。

 アスカはエールの鼻先に、ずいと顔を近づけると言い募った。


「探したわよエール!やっぱりここにいたわね!こんな日にまで昼寝だなんて、何考えてるの!」


 エールはまだ寝ぼけており、意味を理解するのに時間がかかっていた。ただ、アスカがよっぽど怒っているのはわかる。ごめん、と謝りながら身体を起こし、苦笑いする。


「なんだか変な夢見たんだよね。階段があってね…松明が…」


「そんなこと言ってる場合じゃないわ、もう準決勝が始まっちゃうわよ!急いで会場に行かなきゃ!」


 アスカに言われ、エールは跳ね起きた。そうだ。今日は剣術大会の日だったのだ。


「あ!もうそんな時間!?ありがと、アスカ!」


 言うや、考えるより走り出す幼馴染をアスカが追いかけてくる。


「エールったら!剣を置いてってるわよ!」


 エールは急ブレーキをして戻り、アスカが差し出す剣をひったくると、その鞘を掴んだまま踵を返し走り出した。


「ありがと!またあとで!」


 走りながら、エールにはアスカの呆れ顔が見える気がした。



 ここはリィネ村。エスト島という辺境の島の、そのまた山奥の田舎村だ。島にはいくつかの村や町があり、それぞれ平和に暮らしている。

 治める王や領主がいる訳でもないが、争いもなく、人々が飢えることもない平和な島である。この平和は、大昔よりエスト島に祀られている三精霊によって守られていると伝えられている。

 伝説によると、かつて大地が闇に覆われ、人々が絶望した時、一人の若者が剣をもって立ち上がった。勇者は水・風・炎の三精霊と共に魔を打ちはらい、救ったとされる。

 その勇者が、三精霊と共に闇を封印したとされる地、島の中央には、魔の山と呼ばれる岩山が聳えている。

 魔の山は、闇が封じられているその為に、生命が産まれることも生きることも出来ぬ地になったのだという。

 平和で豊かなこの島において、この草木も生えない魔の山だけは、固く立ち入りが禁じられている。ここを迂回して通らねばならない為に、村々の行き来には時間がかかるのだが、島人で魔の山に近づこうとする者は誰一人としていない。

 立ち入ると命を吸われるだとか、満月の晩に魔の山の方を見ると気がふれるだという、眉唾ものの俗説も多い。伝説が遠い昔となった今でも、人々にとっては恐れの対象となっているのだ。


 ここリィネ村では、島を守りし三精霊が一つ、水の精霊セイレーネを祀っている。

 リィネ村は、エスト島の南東端の山奥にある。辺境の島の中にあって、さらに辺境の地とも言えるこの場所で、村人達は畑を耕し、家畜を飼って素朴な暮らしをしている。

 村の東にある精霊の山には、水の精霊の加護を受けるとされる泉があり、そこより流れ出る水は清らかで、病や怪我にも効くとされている。村の空気は澄んでおり、療養の為にわざわざ遠くからリィネ村を訪れる者もある程だ。

 泉のほとりには、水の精霊セイレーネを祀る祠があり、リィネ村の人々は古くからこれを守り暮らしているのだった。

 そして、リィネ村にはもう一つ、村人達がこれを語らずしてリィネ村を言い表せないという特色があった。

 伝説に残る勇者の名はリィネ。このリィネ村こそ、魔を打ち払いし勇者リィネが興した村であり、村人達は勇者の一族の末裔であったのだ。


 伝説は遠い昔のことであり、島人の中には、リィネは空想上の人物であるという者もいる。しかしリィネ村の者達は、自分達が勇者の末裔であることを誇りに思い、平和な今の世にあっても、剣の腕を磨き続けているのであった。

 その成り立ちから、リィネ村の者達は誰しもある程度の剣の心得がある。それこそ、農夫から村長まで、である。

 年に一度、村人総出で開かれる剣術大会は、他の町からの参加者や観客も多く、小さな村がひと時賑わうのだった。

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