タマとの再会
家族のその後が知りたいと意見頂きましたので、書いてみました!
今回はタマのお兄ちゃん視点のお話です。
妹が失踪してから6年がたった。
今日は妹の誕生日。
俺は彼女が最後いたと思われる廃神社に来ていた。
大きな御神木の根元に花を添え、誰もいないそこに向かって声をかける。
「…誕生日おめでとう、今日でお前も20歳だな。来年の成人式には戻ってこいよ?振袖、準備して待ってるから…」
※
妹が居なくなったのは、彼女が中学二年の時。
その日は丁度、花火大会が行われていた。
俺と弟はそれぞれ友人に誘われ、両親は2人で会場にいっていた。妹だけは祖母に請われて渋々祖母宅で花火を見ている、はずだった。
しかし、俺が家に帰ってきた時既に妹はどこにもいなかった。一晩中家族で探し回ったが見つからず、翌日直ぐに警察に届けを出したがそれでも妹はついぞ見つかることは無かった。
あの日、彼女と共に居た祖母に何があったのか聞くも
「私は何も悪くないわよ。あの子が勝手に出てっただけだもの。ただの家出でしょ?そのうち帰ってくるわよ」
そう言って、自分は関係ないの一点張り。
あの日、二人の間で何かがあったのは明白なのだが祖母は詳しいことは何も話さず、ただ喧嘩したとだけ口にした。
確かに、あの頃の妹は物凄い反抗期で常にイライラしていた気がする。特に祖母に対する態度は酷かった。
ほぼ毎日のように怒鳴り合い、喧嘩していた気がする。
祖母は祖母で口答えするな!孫の癖に生意気だ!と言って手を上げるものだから、よく怪我もしていた。
2人の喧嘩を止める者は手を上げる祖母には何も言わず常に妹を責めていた。妹も確かに悪いが、喧嘩になる原因は基本的に祖母だった気がするのに、だ。
まぁ、俺は俺でそれをただ傍観して
「またやってんのかよ、懲りねぇなぁ」
と思うだけだった。だが、あの時もう少し妹の話を聞いてあげればよかったと思う。
妹が消えてから、祖母の話し相手は基本的に俺になった。
話の内容はコロコロと変わるが、その中には俺の母に対する悪口も含まれていた。
その時、妹はこれに怒っていたのではないかと思った。
俺も正直凄くムカついた。誰が親の悪口を聞きたがる。
馬鹿にされて、気持ちがいいわけが無い。
しかし俺は怒りをぐっと抑えて、話を受け流す。
ここで反抗しても意味が無いと自分に言い聞かせて。
妹が失踪した1年目は、母は常に泣いていた。
そんな母を見て父は必死に妹を探していた。
弟は元々妹のことを姉と思っておらず、興味も無かった為「ふーん」で終わっていた。
祖母は「男でも作って逃げたのよ」なんておかしな事を言い出していた。当時中学生の妹に男がいるわけが無い。
3年目、母は妹の生存を諦め始めていた。
父も捜索を諦め、警察も捜索を打ちやめにした。
弟は妹の存在自体を忘れかけ始めていた。
祖母は妹の死亡届の準備を始めていた。
5年目、家では誰も妹の話をしなくなった。
家族の中では妹は既に死人扱いだった。
6年目の今では妹の事を探しているのは俺だけだった。
大学生になった俺は当時出来なかった事ができるようになったためより情報を集めやすくなった。
しかし、時間がたちすぎてることもあり痕跡すら見つかることは無い。それでも続けるのは、妹が死んだなんて認められないからだ。
妹はどこかで絶対に生きてる。
俺だけはそう信じてやまなかった。
※
妹の最後の痕跡は、この廃神社の御神木の根元だ。
そこには当時妹が持っていたスマホだけがぽつんと落ちていた。何故こんな所にいたのか、一体どこに行ったのか誰にも分からない。
俺は妹が消えたその日から度々この場を訪れていた。
いつかひょっこりと現れるのではないかと期待して。
しかし、今回も妹が姿を現すことは無かった。
暫くの間、御神木の根元に座り込み家族のこと、大学でのこと、色んな話をしてその場を立ち去った。
家に帰ると、そこには見知らぬ男がたっていた。
横から見ただけでもわかるその整った顔はモデルかなにかかと見間違うほどだ。
うちにこんなイケメンの知り合いはいない。
何故、家の前にいるのだろう?
「あの…うちに何か?」
「ん?あぁ、タマこいつか?」
男の隣にはもう1人、女性がいたようだ。
彼の影から姿を現したのは…妹だった。
6年のうちに幾分成長した妹は俺の顔を見るとパッと笑顔を見せた。
「あ、お兄ちゃん。久しぶりー」
「は…?おま、え…?」
突然の事で頭の中が真っ白になった俺はまともに言葉も発せない。どのくらい固まっていたのだろう、妹が俺の顔の前で手を振ったり、頬を抓ったりしていた。
「おーい、起きてる?」
「はっ!お前…!!今までどこいってたんだ!何も連絡しないで6年も!し、心配したんだからなっ…!」
「…うん、ごめんね」
「っ、馬鹿が!!」
気付いた時には俺は妹を抱きしめていた。
その感触に、これは夢じゃないと確信した。
「…、」
途端、視界が滲みボロボロと涙がこぼれおちた。
妹はそんな俺の背中に腕を回し抱き締め返してくる。
「お兄ちゃん、ただいま」
「おかえり…たくっ、帰りがおせぇんだよバカ」
「ぅん、それはごめん」
「…無事でよかった」
「…うん」
存在を確かめ合うように、暫く俺たちは痛いくらいに互いを抱きしめあった。
「あ、そだ。ママ達はいる?なんか、入りづらくて…」
そりゃそうだ。6年も行方不明だったんだから。
いきなり帰ってきたら皆びっくりするに決まってるしな。
「あぁ、父さんは仕事だけど母さんはいるはずだよ」
「ん、わかった…お兄ちゃん」
「ん?」
「勝手にいなくなって、ごめんなさい…」
涙目でそう謝ってくる妹はちゃんと反省しているみたいだ。その様子を見て、仕方ないなぁとため息をこぼす。
「…お前が無事で何よりだよ、もう勝手に居なくなるなよ。せめて連絡が取れるようにしてくれよな」
「うん…」
「暑いし、家に入ろうか」
「ん、ありがとう」
照れくさそうにお礼を言う妹に俺はわしゃわしゃと頭を撫でてやった。擽ったそうにするも嫌がることは無かった。
「ところで…このイケメン誰だよ」
コソッと妹に聞けば、隣の彼のことをすっかり忘れてたのか「やば…」と呟いた。
「え、と…彼は」
「お兄さん初めまして、彼女の旦那で蘇芳と言います」
「だ、んな…?」
彼は妹の言葉をさえぎり、にこやかに言葉をこぼした。
それを聞いた瞬間、俺の中では旦那という言葉のゲシュタルト崩壊が起きた。
だんな?ダンナ…って、旦那か?
え、まて、旦那ってなに?檀那か。いや、旦那で合ってるのか…?旦那…ダンナってなんだっけ?
「そ、そうなの。えっと、私の夫…なの」
「おっと…」
おっと…?夫と旦那は同じ、だよな。うん。
えーっと、ということは…?
「お前…結婚した、の?」
「う、ん。そぅ」
顔を赤らめて照れくさそうに語る妹の肩をイケメン…蘇芳さんが抱き寄せ、妹の事を愛おしそうに見詰めていた。
なんだ…この甘々な雰囲気は…。
さっきまでの感動的再会シーンは何処へやら。
今は目の前にいる夫婦?から甘々な雰囲気がダダ漏れである。
その時、蘇芳さんの腕の中でモゾっと何かが動いた。
よく見れば、彼は片腕に何かを抱えていた。
「あ、起きた」
「本当だ、蘇芳貸して」
「大丈夫か?」
「うん」
そっと受け取ると妹はとても大切そうにそれを抱きかかえていた。俺は、それを見てまたも頭の中が白く染まった。
「お前…それって」
「うん、私の子供。で、お兄ちゃんの甥っ子だよ」
こど、も…俺の甥っ子…?
「子供?!!」
「ちょ、大きな声出さないで!」
「ご、ごめん」
だが、妹よ。それは無理な話だぜ…。
6年音沙汰がなく、生きてるのか死んでるのかも分からなかった妹が突然帰ってきたと思ったらいつの間にかイケメンの旦那捕まえて、子供までいて、俺叔父さんになってたとか…えー…まじかァ。
ちょっとお兄ちゃん、頭がついていかないみたい…。
「…とりあえず、家入るか。蘇芳さんもどうぞ」
「あ、うん」
「お邪魔します」
あ、この説明っておれがするんだよ、な?
えー、母さんになんて言おう…。
俺の後ろを着いてくる妹をチラと伺えば、イケメンな旦那と可愛らしい子供を腕にとても幸せそうに笑っていた。
「…しょうがねぇなぁ」
6年も行方しれずだった妹は今、とても幸せそうだった。
その事がわかっただけでも、探し続けて良かったと思った。生きてると、信じ続けてよかった。
この後に待ち抱える面倒事は全部俺が盾になってやろう。
お兄ちゃん、頑張るわ…。
その後、妹と対面した母は号泣して喜んだ。
いつの間にか孫がいた事も、突然イケメンの旦那を連れてきたことも特に怒りはせずに即受け入れていた。
寧ろ既に孫をデロデロに甘やかすおばあちゃんと化している。弟は妹が生きていたことに心底驚いていた様だ。
仕事中の父にはメールで連絡を入れると仕事そっちのけで飛んで帰ってきた。
父は妹に対して初め怒っていたが、最後には無事でよかったと抱きしめ母同様、孫を可愛がるおじいちゃん化していた。両親の適応力に、俺と弟はついていけなかった。
それから、妹は数日家で過ごした後蘇芳さんと共に帰っていった。
今度はちゃんと連絡をして家に帰ると約束して。
しかし、祖母には会うことは無かった。
それどころか祖母には絶対に連絡してくれるなと言っていた。俺はあの日何があったのか聞くも、妹は困ったように微笑むだけで結局何も語らなかった。
ただ、悲しそうな顔をしていたことから何かとても酷いことを言われたということだけはわかった。
俺はそれ以上何も聞くことはせず、祖母には絶対に内緒にすると約束した。
「今度、お前の家にも行かせてくれよ。どんな所で過ごしてたのか見てみたい」
「う、ん…そうだね」
「なんだ?」
「えと…お兄ちゃんには言っとくね」
「うん?」
首を傾げる俺の耳元に口をよせ、妹はおかしな事を口にした。
「…蘇芳はね、鬼なの」
「は?それは…どういう意味の?」
「えーっと、比喩とかじゃなくて生物として?の鬼って事」
この時は何を冗談を、と思ったが後日妹宅に招待された俺はこの世には常識で表せないことがあるのだと悟った。それから、俺は妹について時折あやかし達の世界、隠り世に足を踏み入れることになる。
そこで未来の嫁と出会うことになるのだが…。
それはまた別のお話。
「ところでお前、タマってなんだよ」
「新しい名前、蘇芳が着けてくれたんだよ」
「…まじか」
「因みに子供は子タマだよ!」
「それはやめろよ…」