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魔法使いの師匠  作者: アンパンアンパン
2/2

2.体験期間


 千里さんの行動力は美点だが、それに人を無理やり巻き込むのは欠点だと思う。

 俺を無理やり車に詰め込んだ彼女が向かったのは、俺も何度か顔を出した事のある、魔法協会関西支部会長、春宮琢磨の邸宅であった。


 「お邪魔してまーす」


 ズカズカと千里さんが入り込んでいく。

 しかし、既に話が済んでいるのか、はたまたいつもこんな風に入っているのか、入ってすぐの居間に居た女性は呑気にお茶を飲んでいた。


 「あら、ちさちゃん・・・それに凪君、随分と早く来たわね」

 「美咲さんは待たせられませんよ」

 

 春宮美咲さん、彼女は会長に嫁入りしてはいるが、彼女自身は魔法師では無い為、協会の方にも滅多に顔は出さない。しかし、俺と同じかそれより前の代で入会した関西の方の魔法師達で彼女の事を知らない人はいない。

 何しろ、年末年始に忘年会、新年会が行われるのだが、彼女は俺が入会した年に酔っ払って騒いでいた会長を拳一発で3m程もぶっ飛ばしたのだ。その和やかな風貌からは信じられないような膂力は、俺達に強烈な衝撃を与えた。

 いや、まじで怖い。魔法も無しにあんなに人間が吹き飛ぶなんてフィクションでしか見たことなかったんですけど。

 

 「凪君、話は聞いてると思うけど、どう?やってくれる?」

 「いえ、ごめんなさい。少しだけ考えさせてもらっても良いですか?流石に今日聞いて即答できるようなものでもないので」

 「そう、本当に無理はしなくても良いからね。厳しそうだったら、私に一言言ってくれれば良いから。全く、琢磨さん、貴方がまだ高校生だって事わかっているのかしらね?」

 「まあ、来年から大学生なので」

 「それでもよ。全く、人一人を育てる大変さ、あの人ならよく分かっている筈なのに」

 「あ、そうだ、それなら、お互いに体験期間を作るのはどう?」

 

 良い事を思いついたとばかりに手を打ち合わせたのは、今まで俺達の話を聞くだけだった千里さんだ。

 

 「体験期間、ですか?」

 「そう、ちょうど今日、こっちの方に小夜ちゃんが来てるらしいしね。美咲さん、小夜ちゃん呼んできてもらっても良いですか?」

 「?、別に良いけど」


 居間から美咲さんが出て行き、30秒ほどで戻ってくると、その後ろに一人の少女がついてきていた。

 恐らく、街中で見かけたら一瞬、思わず目を向けてしまう程の可愛らしい少女だ。

 腰の辺りまで伸ばされたさらりとした白い髪、初雪の如き白い肌、宝石を思わせる紅色の瞳。触ったら崩れてしまいそうな、そんな儚さを携えた彼女は、俺と千里さんを見ると頭を下げた。


 「八坂さんと、胡蝶さんですよね?お爺ちゃんが迷惑をかけてしまって申し訳ありません。特に胡蝶さんは怪我をされていて、大変な時期なのに」


 すると、千里さんが大仰な仕草で指を振る。


 「ノンノン、小夜ちゃんが謝る必要なんて全く無いよ。凪君も、怪我は本当だけど、むしろ、そのせいで特訓も出来なくて時間持て余してるから」

 「まるで、俺の事を全部分かっているかのように言うのやめてくれません?まあ、時間が余ってるのは本当ですけどね。てか」


 千里さんに耳を近づけるよう言って、美咲さんと小夜ちゃんに聞こえないよう尋ねる。


 「お孫さんが女の子なんて、俺は知りませんでしたね」

 「いや〜、言うの忘れてたわ」


 殴りたい、このニヤケ面。

 しかし、そんな事をしても何の意味もない事位はわかる。


 「まあ、良いですけどね。さっきの話、説明して下さい」 

 「良いですとも。まま、取り敢えず小夜ちゃんも座って座って」


 全員が着席した所で千里さんが俺とお孫さんーー小夜ちゃんが対面するように座る位置をズラす。


 「先に二人とも自己紹介しようか。小夜ちゃんと凪は初対面でしょ?ま、小夜ちゃんの方は会長さんから話聞いてるみたいだけど」


 緊張しているのか、千里さんに言われてもこちらの様子を伺うだけの彼女に俺から話を振ることにする。


 「じゃあ、俺から。胡蝶凪です、よろしく」

 「あ、よろしくお願いします。私は春宮小夜、です」

 「よし、これで二人とも知り合いだね。じゃあ、ちょっと説明させてもらうよ。まず、小夜ちゃん」

 「はい」

 「君は魔法師になるかどうかで悩んでいる、そうだね?」

 「・・・っ、そう、です」

 「ついでに凪!君は立派な師匠になれるかどうかを気にしていると」

 「まあ、ね」

 「これを二つとも一気に解決する手段、それこそが体験期間って訳さ」

 「・・・つまり、期間限定でこの子は魔法師の、俺は師匠の体験をしてみろと?」

 「その通り、ちょうどいいし、今から三ヶ月間、小夜ちゃんの高校入学、凪は大学入学まで、お試し期間って事でいってみよう」




 お試し期間なんて許されるのだろうか、そんな不安は杞憂であったらしく、その後美咲さんが会長に聞いてみたら、いくつかの条件付きで許しが出た。

 とは言っても、全部俺ではなく、小夜ちゃんーー小夜についてだった。


 とはいってもそこまで厳しいものではない。身内の前以外での魔法使用の禁止、毎週、会長か美咲さんにどんな魔法を使ったのか報告する、などなどだ。

 ちなみに呼び捨てにしたのは、師匠と弟子になったからだ。昔からの慣習で、関西支部では弟子の名前にさんなどの敬称をつけてはいけない事になっている。


 「まずはどんな方面に適性があるかを見てみないとね」


 そう言って千里さんは俺と小夜を連れて魔法協会に戻ると、空いていた第三訓練室を借りた。

 第三訓練室は殺風景な白い壁と床に囲まれた部屋だ。第一、第二も同じようなものだが、そっちの方には観客席のようなものがあるのに対し、第三はそれすら無い。


 「小夜ちゃん、これ持ってみて」

 「これって」

 

 小夜に手渡されたのは掌サイズの白い結晶ーーマナスペクトルだ。握って、解放句を唱えれば、人の身体に潜在する魔力を励起し、使用可能なレベルまで活性化させる事が出来る。

 

 「入会する人には原石じゃなくて、加工された物を渡すんだけど、その際はちゃんとどんな形にしたいか聞くからね」

 「はい」

 

 二人で話している間に右腕の調子を確認する。今年の秋頃、トレーニングの最中に怪我してしまった右腕、魔法によって大きく押し進められた現代の医療ですら、治すのは不可能と言われた大怪我。一時期は、魔法師として復帰する事が絶望的とまで言われていた。

 幸いにも、今は少しずつ回復傾向にあるらしいが、それでもいつになるか分かってはいない。


 「良いよー、そっちはどう?」

 「問題ありません」


 千里さんが俺達から少し離れた位置に立つ。

 魔力を使用しての戦いは使わないそれより、大きな衝撃が伴う。流石に目の前の小夜と、怪我をした俺ではそこまでの物にはならないだろうが、念のためだ。


 「行くよ」

 「はい!」


 俺の左耳につけられたピアスと、小夜の持つ原石が白い光を放つ。それこそが魔力の励起、身体の内側から、それまで意識していなかった、されど元から持っていた力が湧き上がる。


 「「解放アスファール!!」」

 


 



 

 

 

 

 

 

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