その8 転生な話と共闘関係
「……。 そうさね。 一旦、場所を変えようか。 アタシらがここにいても邪魔になるし、───話が、長くなりそうだしね」
~~~ 閑話休題な ~~~
三人が話場所にしたのは、レラの部屋だった(何故かルチルもついてきた)。
タタミ5~6枚の広さの部屋に、書類、武具、机と椅子、照明用植物、といったものが所狭しと並んでいた。
まさに、指揮官の部屋、といったアトモスフィアだ。
「じゃあ、まずはこっちから話そうか」
レラは、古びた椅子に座って話し始めた。 その隣にはルチル。 反対側には雷牙が座る。
「まず、アタシたちがいる場所、ここはテンガン山───じゃなくて、クドニ山の中だ。
「山の中腹にある洞窟を、魔術と努力で拡張して作った、小さな砦さ」
レラは机の上に地図を置き、右側の山岳地帯の一所を指さした。
「そんでもって、……ここ」
山の間にある、農村のマークを指さす。
「この山から、数キロ離れたところにある村。 アタシの生まれ故郷さ」
「わ、私は、クサリ村の、生まれじゃ…ないけど…」
「あぁ、ルチルは隣村の生まれだったね。 まぁとにかく、3年くらいまえだったかな。
「この村に暴君がやってきたのは」
レラは遠い眼をした。
「暴君? あぁ、だから難民がここに来てんのか」
「そういうこと。 あの事件以来、ヤツはここら一帯の支配者になった。
「憲兵を組織して人々を管理し、都合の悪い人から消されていった。
「一年間で、何人死んだことか!」
その声に、ルチルが驚いて身をすくませる。
「あ、すまないね、ルチル。 思わず声を荒げちまって」
「あ、うん……」
レラの謝罪に、ルチルは小さく頷いた。
「話を戻すよ。 クサリ村は現在、狂政を敷かれて、人々は苦しんでる。
「どうにか逃げ出してこっちで暮らしてる人もいるけど、殺された人も大勢いる。
「なんなら、ルチル本人の許可が取れれば、この子の境遇について、話そうか?」
「れ、レラ……?」
ルチルが不安げに横を見るが、
「いや、聞かんでもわかる」
雷牙が制止した。 その反対側で、ルチルは無表情に戻る。
雷牙はレラに向き直り、目の前で自身の拳をぶつけた。
ゴキン! 力強い音に、ルチルの表情が一瞬強張る。
「なるほど。 よくわかった。 ───そういうことなら、力を貸すぜ。 一宿一飯の恩義もあることだしな」
「ありがたい。 よろしく頼むよ」
レラが右手を差し出し、二人は固い握手を交わした。
「だが、一つ問題がある」
「問題?」
「あぁ、俺自身の話ってことになるが、俺はこの世界のことを何も知らない」
~~~ もつ鍋喰いてえ ~~~
雷牙がこの世界に来るまでのこと、この世界に来た経緯、それを話し終えると、部屋を沈黙が包み込んだ。
雷牙のいた世界のこと、種族の違い、文化、その他諸々……、語るべきことは数多あり、うまく語れないことも多かったが、それでも、どうにか語り終えた。
「……結局、俺は女一人救えずに、ここに来た。 俺は俺自身さえ守れなかった。 俺が、もっと、もっと強かったら! ……グッ」
「ら、ライガ……!」
興奮したせいか、傷口が痛み、雷牙は肩を抑えた。 その反対側で、ルチルの表情が僅かに曇る。
「ま、まだ、縫った…ばかり…だから、う、動かしちゃ、ダメ……」
ルチルは、たどたどしい口調で雷牙を気遣う。
「き、傷が、開いたら…死んじゃう…よ」
「すまん。 もう大丈夫だ」
雷牙は呼吸を整えると、椅子に座り直した。
「そういえば、アンタ、眠ってたから知らないだろうけど、その子はアンタの部屋に通い詰めて、看病してたんだ。 濡れタオルを額に置いて、包帯を代えて、汗を拭いてた」
「そうなのか? ───ありがとな」
「あ、う、うん」
「普段は男には絶対近寄らないんだけどねぇ。 今のところ数少ない例外さね。 惚れられたかね?」
「れ、レラ……!」
レラが茶化すと、ルチルはわずかに表情を変えた。 恐れと怯え以外の感情が乏しい少女だが、たまには表情筋が仕事をするらしい。