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雷名の牙R ~獣の拳と竜の巫女~  作者: ファイバード
第二章 百拳~Hundred knuckle~
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その6 治療と謝罪とセクハラタイム

「……そうか。 いや、悪い。 忘れてくれ」


 雷牙の聴覚(アストロボーイ級)は、ルチルの声が僅かに震えていることに気付き、深入りするのをやめた。


 ルチルは、その気遣いに気付いたのか、僅かに頬を赤らめた。


 だけど、その変化は、雷牙には気づかれていなかった。 雷牙は食事に戻っていたからだ。


   ~~~   閑話休題とか言って見たり   ~~~


 食事を終えた雷牙は、ルチルに案内され、別の部屋へ移動していた。


 道中の通路も、『医務室』の札がかけられたこの部屋も、すべて岩でできていて、観葉植物の照明が並んでいた。


 医務室には窓があって、日光が差し込み、結構明るかった。


 そして、手当てを受けている人は、雷牙だけではなかった。


 周囲には、けがの手当てをしている人が大勢いる。 恐らく、ここまで逃げてくる途中で、あの部隊に襲われたりしたのだろう。


「ほ、包帯…変える、から……、そこ、す、座ってて……」


「おう」


 雷牙は言われるまま、木製のベンチに腰を下ろす。 そう言えば、このベンチも、見たことのない木材が使われている気がする。


 こんな所にも、別世界だと思い知らせてくる要素があるものだ。



 ”””部屋自体も、血(なまぐさ)いな。 死人がでてる部屋の匂いだ。”””


 雷牙にとっては、特段異様でもないが、一般人なら、においだけで気分が悪くなるような部屋だ。


 きっと、薬や輸血がなくて死んでいく人もたくさんいるのだろう。


「お、おまたせ。 包帯……変える…ね」


 ルチルの腕の中には、使い古された包帯が握られていた。 洗っても落ちない類の汚れが染みついて、不気味だ。


「じゃあ、う、動かない、で……」


 ルチルが包帯をほどこうとした瞬間、殴られたような激痛が走った!



「グ……ッ!」


「あ、ご、ごめん…なさい…!」


 雷牙が肩を押さえると、ルチルは、怯えたように手を離した。


 その拍子にハラリと包帯がほどけて、べっとりと血液がこびり付いた傷口が露わになる。


 生々しい傷口に、ルチルの顔が青ざめた。


「……ごめん、なさい。 わ、私の…せい…で」


「いや」


 雷牙は首を振った。


「これは俺の実力の問題だ」


「……?」


「お前を庇って負った傷なのは確かだけどな。 だけど、それを防げなかったのは、俺が未熟だからだ。 気に病むことはないぜ」


「ら、ライガ……」


 ルチルが落ち込んでるのをみて、雷牙は、話題を逸らすことにした。


「そういえば、この手当、お前がやったのか?」


 その言葉に、ルチルは、ビクリとした。


「ご、ごめんなさい……。 へ、下手…だった…?」


 雷牙は首を振った。


「逆だ。 良い手際だと思うぜ。 この深さで、化膿してない。 衛生管理と、迅速な手当てができてる証拠だ。 ───ありがとな」


「……」


 そこで会話が途切れた。 実際、ルチルは褒められることに慣れていないのか、日本語で表記するのが困難な表情をしていた。


 無言の空間で、包帯を巻く音だけが響く。


 手際のいい動きだ。 おそらく、この手の救護活動に慣れているのだろう。


 それは、年端もいかない少女が慣れているべきではないことだと、雷牙は思った。


「で、できたよ……」


「おう。 ありがとな───ッ」


 雷牙が立ち上がろうとしたその時、激しい立ち眩みが襲った。


 現在、雷牙の肉体は血液を大きく損失している。なので、少しでも無理な動きをすると、一気に視界がブラックアウトする!!


「く、うぉ!?」


 思わず倒れ込みそうになり、反射的に腕を伸ばす。 なんでもいいから掴めるものが欲しい。


 闇雲に手を振り回した結果、何か、柔らかいものに手が触れた。


「……ダ、ダメッ!」


 布の感触がしたが、うまくつかめずに、脚が床を離れる。 そのまま横向きに倒れ込み───



 DOOON!



 咄嗟に右手を突き出して、受け身を取ることはできた。 だが、視界が黒く染まったままだ。


「……」


 数秒間の静止の後、ゆっくりと視界が戻ってくる。 そして、最初に見えたのは、眼前50㎝にある、ルチルの顔だった。


 突然の事態だが、チーター級の速度についてこれる動体視力の持ち主の方なら、今の動きが見えたはずだ。


具体的に言うと、雷牙に腕をつかまれて、ルチルがもんどりうって倒れ込んだ光景が、だ。 尚、この行為は偶発的かつ突発的かつ不可抗力であり、卑猥は一切ない。


 ないったらない。 いいね?


「あ…あの…えっと…」


 怯えたような表情で、ルチルは雷牙を見上げた。


 そこで、雷牙は左手に伝わる、やーらかい感触に気付いた。 というか、ルチルのおっぱいを揉んでいた。

 それは、やーらかくて、弾力抜群で、小さな躰に反比例するように豊満だった。


「す、すまん……!」


 雷牙は、とりあえず数回揉んで感触を手に焼き付けてから、慌てて手を離した。


「……ヘンタイ」


「身に覚えがないな! 不可抗力だ!」


 そして、躰を起こそうとした、まさにその時だった! (なぞの演出入りま~す)


 ガチャリと扉を開ける音!


「ッ!?」


 雷牙の視線の先には、人影! 誰だ!? 即座に顔を確認しようとしたその時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「……なんだい、お取込み中かい。 これは、出直した方が良かったかね?」


「いや、別に」

 雷牙は片手の筋力だけで器用に立ち上がると、手の埃りを掃った。 部屋に入ってきたのは、レラだった。


 尚、雷牙が立ち上がると同時に、ルチルは雷牙の下から抜け出し、そしてゴキブリの如く猛疾走(ダッシュ)して、レラの元へと逃げ込んでいた。


 そして、レラの背後から泣きそうな目で雷牙を睨んできた。


「……! ……!」


 涙目で何かを訴えかけるルチル。 その視線に、なぜか罪悪感が胸に突き刺さる雷牙。


「なにやってんだい。 アンタら」


 レラの視線も痛い。


「まさか、初日で手を出すとはねぇ。 いや、三日ぐらい経っちゃいるけど、そんなに溜まってんのかね?」


(いいや)、不慮の事故だ。 不可抗力だったんだ。 信じてくれ」


「……ま、まあ、いいさね。 それより、体調は? 丸三日間寝てたんだ。 少しは回復したかい?」


 丸三日寝ていた、という事実が雷牙を驚かせた。 マジかよ。 腹が減るわけだ。


「少しはな。 だが、血と肉が絶対的に足りねぇ。 此の躰は傷の治りも早いし、感染症や何かにもつよいみたいだけど、それでも、一週間はかかるな」


「そうかい」


 レラは笑った。


「アンタには二つ、伝えることがある」


「……?」


 レラの表情が、僅かに険しくなる。


「まず一つ。

「ルチルを助けて、山の主と闘ってくれたことに、感謝する。

「今、アタシらがこうして話せるのはアンタのおかげだ。 雷牙」


 レラはそう言って、深々と頭を下げた。 こういった動作や礼儀は、異世界でも共通らしい。 小さなことだが、共通点も多い世界だ。


「そんなに感謝されることでもないがな。 実際、助けられなかったヤツも多いし。 で、二つ目は?」


「あぁ、その実力を見込んでのことさ。 ───アンタは自分を弱く見積もってるみたいだけど、実際強い」


「ふむ」


「だから、その力を貸して欲しいのさ。 アタシたち、レジスタンスの為に」


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