黒槍との闘い3
「まさか……」
舞夜はニタリと嗤った。
「憲兵の数、少なかったやろ? 本陣なのに、ほとんどおらへんもんなぁ。 じゃあ、残った戦力は何処に行ったんやろね?」
「……貴様!」
雷牙は瞬時に、状況を察した。 同時に、自分がいま、絶望的な状況にあるという結論がでた。
「ほいじゃ、答え合わせ、しよか」
「今頃、ギラルとその手下が拠点を制圧しとるわぁ。 すでに研究は完成しとるから、ガイアドラン動かせるんよねぇ。 だから、もうこの村も必要ない。 ───残った村人は全部、『絶王』様に捧げることになっとるんよ」
「貴様……」
「そんで、もっと大きな街に行って、もっともっと命を集めるんやと。 ───アンタが何したところで、今更何も変わらんのよなぁ」
「バカな。 そんなことが」
呼吸が乱れる。 思考が纏まらない。 ……アイツらが死んだ? 本当に?
否。 落ち着け。 全て本当なら、こんなにべらべら喋らないはずだ。 つまり、一定のブラフが含まれている!
「───ま、アンタにも死んでもらうけどなぁ」
「ッ!」
舞夜の突進! 雷牙はすんでの所で回避するが、その動きは精彩を欠いていた。
「ハイヤー!」「オラァ!」
烈火のような猛攻を、気合で捌いていく。 しかし、精神の差で、少しづつ押され始めていた。
このままではじわじわと削られていくだけだ。 どうする? 雷牙!
ガキィン! 足刀で薙刀を弾くと、一瞬、互いの動きが止まった。
「……?」
「───おかしいことに今、気付いたんだ。 なんで貴様がここにいるのかってな」
雷牙の口調には、鬼神のような迫力が練り込まれていた。
その声からは、先ほどまでの動揺は見当たらない。
「拠点を制圧するなら、主戦力であるお前が出陣してないのはおかしい。
「必要のない村を守る? そんなことに一番強い奴を配置するか?
「そして、お前があれこれ話して時間を稼ごうとしていたことで、確証を得られた」
雷牙はゆっくりと拳を構えた。
「あらまぁ、予想以上に立ち直りが早いわぁ。 まぁでも、ウチの優勢は変わらんしなぁ。 ───夢幻零式、極の型『甘楽火』!!」
舞夜が薙刀を振るうと、その刃から無数の火の玉が放たれた。
BOOM! BOOM! BOOM!
雷牙の全身が炎に包まれる。 並の人間なら、一撃で消し炭になったことだろう。
「時間も十分稼いだし、そろそろ死んでもらうわ!」
とどめとばかりに、舞夜の前方に特大の火の玉が形成されていくぞ!
”””───許せねぇ”””
雷牙の精神、その最深に眠る『力』が、マグマのように煮えたぎっていた。
”””───俺から仲間を奪っていくヤツが、許せねぇ”””
バチバチと迸る雷撃が、炎を打ち消している。
ドクン
”””───もっとだ。 もっと、力を寄越せ”””
これでは、足りない 雷牙の怒りに呼応するように、力は増幅されていく。
これまでの様に、力の表層だけでは、足りない。
”””アイツを、殺す!!”””
「死ねぇ!」
KABOOM!!!
特大の火の玉が雷牙を直撃! その爆発でタタミは炭化し、壁は灰になった!
───その爆心地は目も眩むほどの光に包まれていた。
「ゼェ……これで、仕舞いどす……ゼェ」
舞夜は軽くよろめいて、薙刀を降ろした。 魔力を過剰に消費したことで、体力が限界に来ているのだ。
壁の穴から風が入ってきて、煙を散らしていく。
「今日は萬月也氏、この位置なら、そろそろ月は出ているか……!?」
月光を、影が遮っていた。
そう、満月をバックに立つ、人影によってだ。