その3 雷牙VS山の主
「くそぉ! 総員、この場から退避せよ! 食われ───え?」
バクン
三本槍が一本目、蒼槍のジードは、山の主に食われて死んだ。
上半身が口の中へと消え、残された下半身は、ぼたぼたと血液を零していた。 だが、山の主が、二口目を所望したことで、なくなった。
「う、うわぁあああ!」
「逃げろぉ~!」
「何だよ、あの怪物はァ!」
兵士たちは散りじりになって逃げていく。 だが、山の主が首を伸ばすと、一人ずつ食われていった。
そんな中、レラは速やかに次の指示を下した。
「アンタたち! 一度散らばりな! 木の陰に隠れて、やり過ごすんだよ!」
”””なんて冷静で的確な判断なんだ! アタ……いや、違うけど”””
雷牙は、難民に紛れる形で、テントの陰に隠れた。 その隣へとレラが滑り込んでくる。
「うまいな。 この状況下で、判断力が落ちないとは、大したもんだ」
「どうも。 えーと、アタシはレラ! レジスタンスのリーダさね。 アンタは?」
レラは斧を構えつつ、雷牙を横目で見た。
「俺はライガ。 六道、雷牙だ。 偶然迷い込んでここに出くわした。 で、とっさの判断で貴様らの側につくことにした。 とりあえずそんなところだ!」
「GRRRRRR!!」
山の主の咆哮! 雷牙が、簡潔に自己紹介をしている間に、ジードの部下が二人ほど食われた。
「……そうかい。 !?」
KABOON! 爆音が響く。 山の主が火の玉を放ったのだ。 炎が直撃した兵士は、一瞬で黒焦げになって即死! ナムサン!
「アイツ、火も吐くのかよ! レラ! あの竜の情報を教えろ、今すぐ!」
雷牙の2メートル横に火の玉が着弾! 爆炎があがる!
「DL8───災害級の怪物、名前はファイアドラン! 突進と噛みつき、後、火炎ブレスを使う! それから、鱗は堅いから、関節か急所を狙わないとダメージにならないよ!」
「了解!」
聞き終えると同時に、雷牙は走り出した。
「なにバカなことを! 死にたいのかい!?」
だが、意味もなく走り出したのではない。 雷牙の視線の先には、先ほど助けた少女、ルチルの姿が映っていたのだ!
奇跡的な幸運にも、褐色肌の少女は狙われてはいない。 その場から動かなかったことが、プラスに働いているのだ。
───だが、兵士を狙った後、山の主は少女を狙うことは間違いない!
KABOON! 雷牙を見つけた山の主が、火の玉を放つ! だが、雷牙はイダテン級の機動力で回避!
「こなくそーッ!」
雷牙の1メートル横で爆発! 炎が雷牙を赤く照らす!
「まにあ……えぇええッ!」
「え、きゃあ!?」
スライディングで火の玉を掻い潜ると同時に、雷牙は少女を抱きかかえる。 少女は突然のことに躰を震わせた。
「えぇい。 ぼさっと座ってんじゃねぇよ!!」
「……ご、ゴメン、ナサイ」
少女は怯えた声で謝罪する。 その声は雷牙を怖がっているようだったが、そんなことは気にしていられないのだ!
KABOON! 雷牙のすぐ後ろに火の玉が着弾! だが───
「───Moenia terrae!」
少女の声が響く。 同時に、雷牙のすぐ後ろに『土壁』が生まれ、二人を爆炎から守った。
”””なんだ今の? いや、考えるのは後だ!”””
雷牙は少女を近くの木陰に隠すと、山の主と向き合った。
「GRRRRRR……」
「さぁて、此の躰なら、竜にも勝てる、のかねぇ」
「無茶だよアンタ! 人間が勝てる相手じゃない!」
テントの陰から、レラが叫ぶが、雷牙の耳には届いていない。 雷牙の視界には、自分の拳と、山の主の姿以外は映っていなかった。
「GUOOOO!!」
山の主は、方向と同時に突進してきた。 ズラリと並んだ無数の牙が、雷牙を喰おうと迫る! コワイ!
雷牙は左へと跳転回避! 雷牙の後ろで、テントが一つ爆散した!
「───今だ!」
山の主が動きを止めた、その一瞬を狙って、雷牙は鉤爪を叩き込む。 竜の膝を裂き、鮮血が舞う!
だが、傷が浅い! 相手が大きすぎて、有効打にならないのだ!
KABOON! 山の主が火炎球を発射! 雷牙は素早くこれを回避!
”””デカすぎて攻撃が効かねぇ、か。 なら───ッ!?”””
弱点を探ろうとして、気付いた。 雷牙の後ろには、ルチルを隠した木がある。 雷牙が次の攻撃を躱せば、ルチルはミンチか消し炭だ。
「───仕方ねぇ、かかってこんかいワレェ!」
「GYAOOOO!!」
雷牙が腕を振って山の主を挑発すると、竜は火炎球を放ち、突進を仕掛けてくる!
「───こなくそぉおおお!」
SLAAAASH! 雷牙の手刀が、火炎球を一刀両断! だが、竜の突進は止まらない。 その牙が雷牙を襲う!
雷牙の左肩を、竜の牙が直撃! 鮮血が舞う!
ああ~っと! 雷牙は竜の頭をガシッと掴んでいる───ッ! 竜の突進を受け止める気だ~~~!
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」
ギャギャギャギャギャ!! 地面を抉りながら、渾身の力で竜を押しとどめる。 ルチルとの距離、残り5メートル!
ダメだ、止められない! 残り3メートル!
2メートル! 1メートル……0!
ガツゥウン! 雷牙は、背後の木に激突した、が、突進を、止めていた。