黒槍との闘い1
村娘が目を覚ましたのは、その一時間後だった。
「あ、あれ? 私……?」
「お、起きたか、リリ! よかったなぁ、生きてて!」
リリと呼んだ娘を、父親は力強く抱きしめた。
「あれ? 父っちゃ……。 そうだ、私、憲兵に……父っちゃ、どして泣いてるの?」
リリは不思議そうな顔で尋ねた。
「あぁ、お前を、旅人さんが助けてくれたんだべ。 ほらぁ、そごに……あれ?」
父親は雷牙のいた場所を指さしたが、そこには誰もいなかった。
「誰もいないよ」
「あれ? おっかしいな。 だって、さっきまでそこに───。 なんだ、けっきょく名前も告げずに行っちまったんか」
少し減った糒と、壁の血のりだけが、これが夢ではないと主張していた。
~~~ 一方そのころ ~~~
「尾行られてんな」
居住区域から少し離れた廃墟の通り。 その中心。 雷牙は舐めるような視線を感じていた。
近くではない。 観察者は、かなり遠くからこちらを見ている。 だが、周囲には廃墟、死体処理場、荒れた畑……それだけだ。
人の気配はない。
だが、確かに狙っている。
「!!」
唐突に殺気! 雷牙はイダテン級の反射速度でブリッジ回避! その数センチ上を火柱が突き抜けていった!
一瞬遅れていれば、大ダメージだったはずだ。 攻撃してきたのは、どこからだ?
「狙撃に近いな……。 場所は……あれか!」
咄嗟に狙撃ポイントを特定。 相手は、謎の塔から攻撃している!
BOM! BOOM! 次々に火の玉が降り注ぐ! これを側転回避!
塔までの距離は後150mだ。 雷牙は一気に走り抜けることを選んだ。
雷牙は弾丸のように飛び出す。 その後ろでいくつもの爆発!
KABOOM! 1m右で爆発! だが雷牙は止まらない!
KABOOM! 50cm左で爆発! だが雷牙は止まらない!
KABOOM! 20cm! 目の前だ! 雷牙は跳躍して突破!
KABOOM! 直撃! 雷牙は爆炎に包まれ───否、見よ! 爆炎を切り裂き現れた雷牙の勇姿を!
雷牙は足を塔の外壁にかけ、最上階へと壁を昇っていく! 人間離れした脚力が実現させる、無茶苦茶な移動方法だ!
「ウォオオオオオオオ!」
雷牙の拳が、塔最上階の外壁を粉砕! 空いた穴を通って、雷牙は塔の内部へと侵入する。
降り注ぐ煉瓦の欠片と同時に、雷牙は内部の空間に着地。 塔の内部は───
「ほう……?」
内部は、タタミが敷き詰められた、和の空間となっていた。
見慣れた光景を見て、雷牙は首を傾げた。 なんだこれは、まるで日本のようだ。
と、誰かの気配がした。
「! 誰だ!」
座敷の奥、そこに誰かいる。
その人影は、一歩ずつゆっくりと雷牙に近づいてきた。 甲冑に身を包んだ、雅な武者姿だ。
武者は、雷牙の手前タタミ3枚分の距離でピタリと止まると、ゆっくりと一礼した。
「お初にお目にかかりやす。 ウチは三本槍が最後の一本───黒槍の舞夜いいます」
”””女の声? いや、手練れには違いないか”””
「俺は雷牙。 六道、雷牙だ。 仲間のため、貴様の命をもらう!」
礼儀として名乗り返してから、雷牙は右手を突き付けた。 しかし舞夜は動じない。
「おお、怖い怖い。 殺気立って、殺す気なん? それとも凌辱するん? ……まぁ、ここまでたどり着けたらの話やけどなぁ」
パチン。 舞夜が指を鳴らすと、天井の絡繰りが開き、忍や鎧武者が飛び出してきた。
「ウチの配下の精鋭どす。 まずはお手並み拝見やわぁ」
”””総勢15人。 雑魚戦で動きを観察しようって魂胆か。 戦い方を知ってるやり方だな”””
勝てるかどうかの難敵には、多少の犠牲を出してでも戦力を調べる。 実際、このレベルの手練れなら、その差は大きい!
「だが、押して参る!」
四方から鎧武者が突っ込んでくる。 まずは一人目の刀を弾くと、貫き手で心臓を粉砕!
「グワーッ」
「ひとぉつ!」