表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雷名の牙R ~獣の拳と竜の巫女~  作者: ファイバード
第四章 屍龍~Dragon zombie~
37/43

農奴

敵は速やかに全滅させたが、目撃されている。 誰かに密告されたら御仕舞いだ。


 もはや、雷牙にできることはない。 咄嗟の善意と引き換えに、自身の安全を失ったのだ。


「こうなったら、一か八か───ん?」


 誰かの足音がした。 急いでいるような駆け足だ。


「リリ! 大丈夫か!? なぁ、リリ───ッ!?」


 雷牙が振り返ると、そこには呆然と立ち尽くす、エルフの男の姿があった。


 声からして、先ほど連行されていた人だろうか?


   ~~~   五分後   ~~~


「いや、ありがてぇこってす。 なんとお礼を言ったらいいものか。 とにかく、リリが無事でよかった……!」


 男は、涙をこぼしながら、気絶したままの娘を抱きしめた。


「いや、別にお礼とか、必要ないんだが」


 雷牙は、男に簡単に事情を説明していた。 レジスタンスのことなどは伏せたが、おおむね正直に話したのだ。


 だが、このあと数時間で、殺し合いとなる。 今更なにかをもらっても、無意味だ。


「そんなことを言わず! 娘の命の恩人なんですから!」


「命の……? やっぱり、ここで連行された人間は、殺されるのか」


「あ、旅人さんは知らないんですかい。 ───あれ、見えますか? あの塔」


 男が指差したのは、農地から少し離れた場所にある、小高い塔だった。 煉瓦造りで、灰色の煙を吐き出している。


「あそこに連れていかれた人間は、二度と戻ってこないんでさぁ。 多分、あっしももう、先がないんです。 金もねぇし、借金を返す当てがネェ。 それに、憲兵が死んだとなったら、ここらの住民は、皆殺しでしょうなぁ」


「───それほど、かよ」


「えぇほら、ここら、あんまり人がいないでしょう? みんな、憲兵に連れていかれちまったんでさぁ。

「数年前までは、この村も平和だったんですけどね。

「貧しいながらも、良い村でしたよ。 それが、あの災厄の日から変わっちまった。

「ギラルを英雄だなんて思ってたのは、最初のうちだけでさぁ。

「しばらくしたら、奴は本性を表して、村を支配しちまった。 ……今じゃ、逆らったやつは連れていかれて、二度ともどってきやしねぇですだ」


「あぁ、そういうことか」


 雷牙は納得したように頷いた。


「だから誰も通報しないのか。 誰も、自分が死にたくはないからな」


「そういうこってす。 ま、ここでアンタにこんなこと話しても、何にもなりゃしないってのは分かってんですがね」


「……」


「憲兵殺しがばれたら、あっしらはおしまいです。 こうなりゃ一か八か、一揆でも起こすしかねぇ」


「……」


 床の死体には、べっとりと血糊が付いていた。 床や壁の血飛沫もそのままだ。


「そういや、死体、そのままだな。 汚しちまって申し訳ねぇ。 外の奴もそのままだし、片付けねぇと」


「いやいや、恩人にそんな労働させられねぇですよ! こいつらはあっしが片付けときますんで、アンタはゆっくりしててくださいよ。 あ、そうだ。 こんなもんしかねぇですが……ちょっと待っててくださいよ」


「……?」


 男は戸棚を漁ると、木箱を取り出した。 中身は、(ほしいい)と干し肉だった。


「少しでもお礼を、と思いまして。 お口に会えばいいですけどね」


「……いいのか? 保存食なんだろ、これ。 貴様と、貴様の娘が飢えるんじゃないのか?」


 雷牙は家の中を見渡した。 どう見ても、貧しい家だ。 男の服も、リリと呼ばれていた娘の服も、使い古されているし、家の中に金目のものはない。


 食費に余裕があるようには見えないが。


「いいんでさぁ。 憲兵に目を付けられた時点で、あっしらに未来はねぇ。 まぁ、できればリリだけは逃がしたいですけど、それも絶望的だ。 それなら、食料を残すよりかは、食っちまったほうがマシですわ」


「……そうか。 それなら、有難く頂くがよ」


 男の言葉を聞いて、雷牙は、受け取り拒否をあきらめた。 それに、消費カロリーを考えると、今のうちに補給しておきたいところだ。


「───いただきます」


 雷牙は深く手を合わせ、一礼をすると、肉と芋を頬張った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ