決戦前
~~~ 数時間後 ~~~
「決戦、か……」
数時間の眠りから覚めると、岩の天井が見えた。 あの後、雷牙は自室へと戻り、仮眠をとった。
「男なら、どんな時でも眠れること、か。 キャプテンハーロックだっけか? まったく、本当、その通りだぜ」
雷牙がいかに強いと言っても、不眠不休で戦い続けられるわけではない。 それに、力を発揮するには、エネルギィが必要だ。 つまり、飯と眠り抜きには、戦いは成立しない。
幸い、タスクボアの肉は塩漬けにしてとってある。 睡眠は足りている。 そして、リックが使っていた装備を奪えば、動きやすいポイントガードが手に入る。
明日の夕暮れを狙って、襲撃をかける。 レラの作戦は現実性が高く、異論をはさむ余地はなかった。
「なのに、なんでだ。 嫌な予感がするんだよな……」
雷牙の本能が、危険を告げていた。 いわゆる、胸騒ぎがする、というやつだ。
「いや、危険は承知! 黒槍とやらを倒して、この戦いを終わらせてやらぁ!」
~~~ 一方そのころ ~~~
「戦の匂いがするわぁ。 もうすぐここにも、敵が来よるさかい。 今から血がうずいて仕方ないわぁ」
雅な具足に身を包んだ人影が、艶やかな声でつぶやいた。 竜人の女だ。 だが、レラとは違う、漆黒の鱗が手足を包んでいた。
漆黒い鱗に、片側だけが肥大化した角。 そして、闇の様に深い眼。 そんな姿を、少し欠けた月が、妖しく照らしていた。
「……失礼します」
障子戸を開けて入ってきたのは、黒装束の忍だ。
「舞夜様。 ご報告します。 赤槍───リック・エーベルの戦死を確認したとの事です」
「おやまぁ」
黒鱗の女騎士は、残忍な笑みを浮かべた。
「やっぱり、赤槍の旦那には荷が重かったんやなぁ」
「左様ですか」
「大体、相手は炎竜を狩ったんやろ? そんなんにあれが勝てる道理あらへん。 ギラルも無茶言いよるわぁ」
「はい。 そこで、舞夜様には、直々にご出陣戴きたい、と」
その言葉に、舞夜は牙をむいた。
「やれやれ、最初からウチが殺れば、蒼いのも紅いのも死ななかったに。 まぁええわ。 ───炎竜を狩ったくらいで強いと思ってる、そやつの首もらってくればええんやろ? 任せときぃや。 ウチがみぃんな、殺したるさかい」
いつの間にか、舞夜の右手には、月光を反射して黒く光る、漆塗りの薙刀が握られていた。 一目でわかる、相当な業物だ。
「ウチの前じゃ、誰も彼も等しく弱兵さかい。 全部この『黒椿』の錆にしてやるわぁ」