Darker than black ───闇よりも深い黒
~~~ 一時間後 ~~~
「……」
気が付くと又、檻の中にいた。 手枷や足枷はなくても、首輪に繋がれていることは変わらない。
この館では、苦痛と虚無だけがあって、なにもかもがモノクロに見えた。
ただひとつ、互いの声だけが救いだと思えた。
実験、
検査、
また実験───
それ以外の時は、檻の中だ。
灰色の壁、天井、床。 冷たい鉄格子は、少女の細腕では一ミリも動かない。
この檻が開くときは、実験の時だけだ。
あぁ、体中が痛い。
しびれるように痛い。
焼け付くように痛い。
燃えるように痛い。
ひりつくように痛い。
抉られたように痛い。
刺されたように痛い。
腕が痛い。
足が痛い。
骨が痛い。
首が痛い。
頭が割れそうに痛い。
おなかが痛い。
胸が痛い。
怖い。
苦しい。
痛い。
痛い。
どこもかしこも痛い。
痛い。 痛い。 痛い。 痛い。 痛い。
痛い。 痛い。 痛い。 痛い。 痛い。
痛い。 痛い。 痛い。 痛い。 痛い。
痛い。 痛い。 痛い。 痛い。 痛い。
痛い。 痛い。 痛い。 痛い。 痛い。
痛い。 痛い。 痛い。 痛い。 痛い。
痛い。 痛い。 痛い。 痛い。 痛い。
痛い。 痛い。 痛い。 痛い。 痛い。
痛い。 痛い。 痛い。 痛い。 痛い。
痛い。 痛い。 痛い。 痛い。 痛い。
痛い。 痛い。 痛い。 痛い。 痛い。
痛い。 痛い。 痛い。 痛い。 痛い。
痛い。 痛い。 痛い。 痛い。 痛い。
痛い。 痛い。 痛い。 痛い。 痛い。
痛い。 痛い。 痛い。 痛い。 痛い。
痛い。 痛い。 痛い。 痛い。 痛い。
痛い。 痛い。 痛い。 痛い。 痛い。
痛い。 痛い。 痛い。 痛い。 痛い。
痛い。 痛い。 痛い。 痛い。 痛い。
痛い。 痛い。 痛い。 痛い。 痛い。
痛い。 痛い。 痛い。 痛い。 痛い。
痛い。 痛い。 痛い。 痛い。 痛い。
痛い。 痛い。 痛い。 痛い。 痛い。
痛い。 痛い。 痛い。 痛い。 痛い。
痛い。 痛い。 痛い。 痛い。 痛い。
痛い。 痛い。 痛い。 痛い。 痛い。
痛い。 痛い。 痛い。 痛い。 痛い。
痛い。 痛い。 痛い。 痛い。 痛い。
痛い。 痛い。 痛い。 痛い。 痛い。
痛い。 痛い。 痛い。 痛い。 痛い。
痛い。 痛い。 痛い。 痛い。 痛い。
痛い。 痛い。 痛い。 痛い。 痛い。
苦しい、苦しい、苦しい、苦しい苦しい苦し苦し苦苦苦苦痛───
いやだ。 イヤダ。 嫌だ。
─── ─── ───
「もう、目覚めたの……?」
「あ、お姉、ちゃん」
ルチルが横からの声に振り向くと、隣の檻に囚われた、ヒスイの姿があった。
ヒスイの目には隈が浮き、頬はやせこけ、腕にはいくつもの注射痕と火傷の跡。
ルチルよりもさらに、やつれた姿だった。
「ま、また、顔色、悪くなってる……」
「大丈夫よ。 私は強いもの。 それよりも、ルチルの方がつらいでしょ? 毎日うなされて、とっても辛そうに見える」
ヒスイが細い手を伸ばす。 しかし、隣の檻までは届かず、空しく空を切る。
反対からルチルが手を伸ばして、辛うじて手が触れ合う距離だ。
「お、お姉ちゃん……」
薬のせいか、呂律がうまく回らない。 それに、心なしか、躰が冷たくなってきている気がする。
体温がなくなったら、そのまま死ぬのだろうか?
躰が少しづつ壊れていく感覚に、恐怖を覚える。
「手が、震えてるのね」
「うん。 死が、私を見てるんだ。 それか、お姉ちゃんが先に死ぬかも……」
「それは……」
「怖いの。 生きてるのと同じくらい。 死ぬのが怖い。 毎日、一つづつなにかを失ってくのが怖い」
「……」
「お姉ちゃんは、死なないよね……? お姉ちゃんまで、いなくなったら、私は……ここで一人で死んでいくんだよ……」
そう言ったルチルの眼は、奈落の底よりも深い闇に包まれていた。
「大丈夫よ」
ヒスイの手が、ルチルの手を包む。
「……」
顔を上げると、ヒスイは諭すように微笑んでいた。
「大丈夫。 大丈夫。 私はいなくなったりしないから」
「うん。 ……ずっと、一緒にいて、ね。 ───お姉ちゃん」
~~~ Dead or Alive? ~~~
一週間経った。
毎日が変わることはなかった。 実験、検査、檻、夜闇。
毎日毎日毎日毎日、毎日がその繰り返しで
繰り返しで
だれも
助けては
くれなかった。
二週間たった。
毎日が変わることはなかった。
変わったのは、うまくしゃべれなくなったこと。
それから、うでがしびれること。
それだけ
たぶん、いっかげつたった。
い
たい
こ
との
く
り
か
え
し
で
痛くて
繧上◆縺励′縺?繧後↑縺ョ縺九b縲√♀繧ゅ>縺?縺帙↑縺
痛く逞帙>縲?闍ヲ縺励>縲?霎帙>縲?豁サ縺ュ 死
死にたい
縺ォ縺九£縺、縺溘▲縺
きょうが、いつなのかわからない
でもきょうは、なにかちがった。
~~~ ××/×/×× ギラルの館、B1F ~~~
「ふむ、姉の方はあまり伸びんな。 これ以上実験を続けても、変わらんだろうな」
ギラルは、地下の実験室で、椅子に座ったまま呟いた。
「まぁいい。 まだ『使い道』はある。 廃棄するのは、その後だ」
ギシ、と椅子が軋んだ。 ギラルは座ったまま、使用人から書類を受け取った。
「妹の方は、と。 そろそろ苦痛で出せる数値の限界に来ているな。 次のステップに移行しよう。 ───クク、計画は順調。 全くもって順調だ」
書類の束を机に置き、ギラルは椅子を90度回した。
ギラルが向いた方の部屋の壁は、硝子張りで、外は大空洞に繋がっている。
そして、その空洞の中心には、
無数の鎖に縛られて眠る、巨大な竜の姿があった。
轟欄蛾! この竜は、レジスタンスの拠点、その最奥に眠っていた竜と同じ姿だ!!
岩のような鱗に、鉄でも砕けそうな爪、そして、視界に収まりきらないほどの巨体!
「星竜の一柱。 大地の化身、岩土竜。 ───ガイアドラン!」
ギラルは巨竜を見つめ、両手を広げた。
「あぁ、誰に分かる? この素晴らしさ! この美しさ! この力!」
と、そのタイミングでベルが鳴った。
ジリリリリリン!
「何だ、この忙しい時に、誰だ?」
ギラルが通話機に怒鳴ると、すぐに返事があった。
「私だ。 ギラル」
「───!!」
「命令だ。 速やかにその地域を制圧しろ。 命の数が足りない。 計画の完成に向けて、貴様も大量の命を集めるのだ」
「……ハッ、仰せのままに。 絶王、ベルグ様」
ギラルは一拍おいて頷いた。
「任せたぞ。 ギラル」
「はい、すべては王の為に。 えぇ、村一つ分の命、その命を焼べて見せましょう!」