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雷名の牙R ~獣の拳と竜の巫女~  作者: ファイバード
第四章 屍龍~Dragon zombie~
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教会と地下牢と奴隷取引

「これが……この竜が、みんなが…私を…恐れる、理由」


 ルチルの顔に、影が落ちる。 なにか、重大なことを抱えている表情だ。



「私が……ここの人たちを───殺した───から」



「見せてあげる……。 私の……キオク」


~~~


 ここで物語は、3年ほど、遡る。 3年前つまり、真暦3217/3/10、クサリ村の教会から、記憶再演を始めよう。


 おっと、ここから先は本当に後味の悪い話が展開される。 覚悟ができているのでなければ、この章を飛ばすことを推奨しよう。 それでも読みたいのなら、この先に進むがいい。

↓ ↓ ↓ ↓















 クサリ村は、ドラン王国の片隅にある農村の一つだった。 その日までは。


 暗雲が天を隠し、豪雨が地を叩き、雷鳴が轟く日に、クサリ村の運命が決定されたのだ。


 おお、見よ! この豪雨の中、歩いてくる人物がいるぞ! レインコートで隠れるため、顔は分からない。 一体、こんな雨の日に何を?


 その答えは、男の前方100m地点にある。 それは、村の教会だ!


 ギィイイ……。 金属音と共に門が開き、人影を迎え入れる。


「……私だ」


 人影は低い声で、戸に囁いた。 男の声だ。 すると戸が開き、神父が現れた。


「ようこそ───ギラル様」


 ギラルと呼ばれた男がフードを外した。 その時、稲光が男の顔を照らした。 白と黒の(たてがみ)を持つ、獣人族(ガルビースト)の男だ。 顔が怖い!


「クク───約束のものは、用意できているか?」


「無論で御座います。 さぁどうぞ、こちらへ」


 そう言って神父はギラルを迎え入れ、本棚に手をかけた。


 あ~っと! 見よ! 本棚の仕掛けが開き、隠し通路が姿を現した!!


 二人は、現れた階段を下っていく。 その姿を、赤紫の提燈(ランタン)が不気味に照らす。


 そして、逆さ十字の描かれた、背徳的な扉を開けると、むせかえるような嫌なにおいが漂ってきた。


「この臭い、懐かしいものだな。 久々に聞く、死体のニオイだ」


 ギラルは満足げに頷いた。


 おお! この臭い! これは死臭! 扉の先は、地下牢に繋がっていたのだ!


 薄暗い部屋に、鉄格子が並ぶ。 そして、その中には、やせ細った子供の姿が、いくつも見える。 どれも虚ろな目をしていて、正視に耐える姿ではない。


 地下牢は薄汚れ、その鉄格子には錆が浮かんでいる。 だが、それよりもなによりも、壁に刻まれた、細い線が、恐怖を煽っていた。


 この線は、『出荷』『入荷』されていく子供たちが、最後の抵抗として壁に残した爪痕、その集合体だ。 壁に爪を立てて抵抗し、それを蹴り飛ばされ、押さえつけられ、首輪をはめられ、地下牢に監禁されていく……。


 後に残るのは、悲鳴の残響と、涙の跡、そして壁の線だけだ。


「しかし、おぬしもワルよのう。 表向きには孤児を保護するなどと言い、裏では人身売買とはな」


「いえいえ、日夜人体実験をしておられるギラル様には敵いませんて」


「ククク。 お前にはあの実験の価値は分からんよ」


 と、そこで神父が足を止めた。


「ギラル様。 こちらがお求めの品で御座います」


「ほう、これは……!」


 檻の中にいたのは、幼い姉妹だ。 岩石族(ドワーフ)特有の

褐色の肌、白い髪。 粗末な服に、首輪、足枷、手枷……


 そして、怯えた目で檻の外の二人を見ている。


「お望み通り、十代前半、生体魔力A判定の女で御座います。 お気に召しましたかな?」


「うむ、十全だ。 では、約束通り……」


 ギラルは懐から小袋を取り出し、神父に渡した。 神父は中身を確認すると、ニマリと(わら)った。 袋の中身は、色とりどりの宝石だった。


 おお! 考えるだに恐ろしい取引が行われようとしている!!


「ハイ、確かに」


 神父は檻の戸を開け、中の壁にかけられている鎖を手に取った。 鎖の先は、姉妹の首輪に繋がれている。


「そう言えば、名は何というのだ?」


「ハイ。 左が、『ルチル・E・ガーネット』、同じく右が『ヒスイ・E・ガーネット』。 間違いなく、あの血族(・・・・)に連なる物で御座います」


「……なるほど。 間違いはないようだな」


「はい。 ───ホラ、おまえらとっとと歩け!」


 神父が鎖を引っ張ると、姉妹はよろめくように檻を出た。


「あ……!」


 その時、ヒスイが檻の縁につまづいて転んだ。 手錠が石の床に当たって、甲高い音を立てる。


「何をやっている、愚図(グズ)が!」


 神父が、鎖につけられた宝石を握り込むと、首輪から電撃が放たれた。


「アアアア!」


 バリバリと電撃がヒスイの幼い躰を責め苛む。 ヒスイは、苦痛に身をよじらせた。


「おい、なにをやっている? 遊んでいないで、とっとと馬車に乗せろ」


「も、申し訳ありません! そのようなつもりは……!」


「フン、まあいい。 早くしろ。 私は暇ではない」


「ハイ、今すぐに! ホラ、早く歩け! ギラル様がお待ちだ!」


 姉妹は、神父の鎖に引っ張られ、階段を上った。 そして二人は、外に停められていた馬車の荷台に、押し込まれ、豪雨の中を出荷されていった。

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