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雷名の牙R ~獣の拳と竜の巫女~  作者: ファイバード
第一章 紅炎~Crimson flame~
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その1

   ~~~   幕が上がる音   ~~~


「……で、ここ、どこだよ」


 雷牙は、どこまでも続く、森の中を彷徨っていた。


「日本国内に、こんな植物はねぇよな。 ジャングル? でも山ん中なのか?」


 見上げるほどの大木が、無数に続く森。 しかも、どうしてここにいるのか、今一思い出せない。


「え~っと、たしか、どっかの麻薬組織と戦って、それで、撃たれたんだっけか? あー、頭ン中ぐちゃぐちゃだぜ」


 胸の部分には、×印のような傷跡が残っていた。 というか、異変はそれだけではない。 雷牙の両手足は、赤茶けた毛皮に覆われ、指の先は鋭利な鉤爪となっていた。


「まるで獣、つーか獣人だな。 しかも、この耳、動かせるんだな」


 近くに川を見つけたので、自分の顔を映してみたが、以前とはずいぶん違っていた。 具体的言うと、ケモ耳と、雄雄しい鬣、そして不思議な入れ墨が追加されていた。


「わけわかんねーな。 この辺の木の実とかも食えんのか……ッ!?」


 雷牙は、見たことの無い木の実を取ろうとして、異変に気付いた。


「     !!」


 雷牙の超人的聴覚、具体的には某鉄腕少年(アストロボーイ)くらいの聴覚は、遥か彼方の声さえも捉えていた。


「この声は、悲鳴か? ……遠いな、だけど」


 聞こえたのは少女の声。 どうやら、何かに追われているようだ。


”””距離、500メートル、2時方向。 数は、5人以上、か”””


 雷牙は瞬時に状況を読み取ると、走り出した。

 およそ人類ではありえないレベルの身体能力と、いつの間にか覚えていた空間認識能力、そして、此の躰になってから研ぎ澄まされている野生───


 それらによって、雷牙は森の木々を足場に駆け抜けた。 目に映る全てを利用して、世界記録樹立できそうなスピードで走った。


 なぜ走っているのかは、自分でもわからない。 だが、カタギには手を出さないし出させない、という親父の教えが、雷牙を突き動かすのだ!


  ~~~


「ハァ、ハァ……た、助け……て……!」

 少女は森の中を走っていた。 白い髪に、褐色肌の少女だ。 顔や(からだ)には、いくつもの火傷跡、そして、なにより、その胸は豊満だったッ!!(←これ重要な)


 後ろから、バタバタと走る音が聞こえる。 少女を追い立てる兵士たちだ。 皆、統一された革製の鎧を着て、下卑た笑みを浮かべている。


「こ、こない…で…! Lapis() de() pariete()!」

 少女が小石を投げると、地面から土石でできた壁が突き出てきた。 土の魔術によるものだ。


「無駄だ! 観念しろぉ!」

「へへ、悪いようにはしねぇからよぉ~」

「さあ、いい子だからよぉ~」


 兵士たちは一瞬、動きを止めるが、すぐに迂回して追跡を再開する。 ナムサン! 少女が捕まれば、どんな破廉恥かつ残酷な仕打ちが待つかは明白だ! しかし、このままでは、追い付かれてしまうぞ!


「だれか……ハァ……誰か、助け、て……」


 走りつかれた少女が、膝をつく。 そこに兵士たちが群がり───


 人体からは聞きたくない音がして、兵士の首が、あらぬ方向に曲がった。


「いよぅ。 下種共(げすども)。 ───カタギに手ぇ出すたぁ男の風上にも置けん奴らだ。 死ぬ覚悟はできてるか?」


 雷牙は、びくびくと痙攣する兵士を投げ捨てると、残る兵士たちに振り返った。


「き、貴様、何者だ!」

「……名乗るほどのものじゃないけどな。 まあ、覚えておけ。 俺はライガ。 六道、雷牙。 お前らの死だ」


 雷牙は不敵に笑うと、少女の前に立った。 少女は疲れ果てて、座り込んでいる。 ここで雷牙が下がれば、少女は腐悪(ファック)惨殺(グッバイ)だ!


 というか、言葉が通じることに、雷牙は少し驚いていた。 この肉体は、この世界の言葉を覚えているらしい。 日本語で話してないのに、何となくわかる。


「なめやがって~~~! 死ね~~!」


 マジで一昔前の漫画の悪役みたいな台詞と共に、兵士たちが突っ込んでくる。 だが、


「───遅い」

 雷牙は上体を倒すと、目にもとまらぬ速さの拳を放った。 その一撃は兵士の胸を正確に穿ち、胸骨を砕いた。


 兵士は心臓破裂を起こし即死!

「ひとぉつ!」


 そのままの勢いでダッキングし、兵士の槍を躱す。 そのまますれ違いざまに裏拳を浴びせ、頸椎を破壊! 二人目も一撃でKO!

「ふたぁつ!」


「このぉお~~!」

 さらに切りかかってくる兵士の剣を拳で弾き、雷牙は跳躍! 同時に放った跳び蹴りで二人の兵士の頭蓋を破壊! 二人とも即死!


「ば、バケモノだ!」

「知るかよ」

 最期に、逃げようとした一人を投げ飛ばしてKO! 兵士は十秒足らずの時間で全滅した!!


「これで、いつつ、っと。 これで最後か。 ───なぁ、大丈夫か?」

「え…あ…あの、は、はい……」


 雷牙の問いかけに対し、褐色肌の少女は、怯えたように頷いた。 まぁ、返り血を浴びて佇む雷牙の姿は実際コワイので、仕方ないことだったが。


「え~っと、君は……」

「る、ルチル。 ……ルチル・ガーネット。 それ…が、私の…名前…」



「そうか。 俺はライガだ。 ……立てるか? 腰が抜けてるみたいだけど」


「だ、大丈夫、です……。 そ、それより…た…助けて…下さい…」


「助ける? 誰をだ。 状況を、説明してくれ」


 雷牙は、へたり込む少女の前に立膝をついて、視線を合わせた。 そして、ゆっくりとした口調で説明を促す。


「え、えっと、その……わ、私の…仲間が…襲われて…それで……」


「場所は? どっちだ」


「あ、あっち……」


 ルチルは走ってきた方向を指さすが、木々が邪魔をして、具体的な場所は分からない。


「ん~、土地勘が足りんな。 ……案内を頼む」


 雷牙は、ルチルの手を取ろうとしたが、ルチルは怯えたように後退った。


「俺が、怖いのか?」


「ご、ごめん、なさい……、わ、私……」


「いい。 何があったかは知らんが、謝るな。 お前は何も悪くねぇよ」


 一瞬、置いていくかとも考えたが、それではルチルの身が危険だ。 なので、多少強引な手を使うことにした。


「ちょっと掴まってろ!」

「え、ひゃあ!?」


 雷牙は、ルチルを軽々と抱き上げた。 雷牙の筋力なら、少女の体重など、ないも同然だ。


「俺、っつーか男が怖いんだろうが、我慢してくれよ!」


 怯えたように目を閉じて動かない少女を抱えたまま、雷牙は走り出した。 少女は見捨てない。 願い事も無下にしない。 そのためには、これが最善の手だ!!

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