ナイトメア・カーニバル
完全に日が落ちた時間。 禍々しい色の半月が夜空に浮かんでいた。
ガサガサ、ガサ。 暗闇の中から、何かが動くような音が聞こえ、見張り兵は振り向いた。
「なんだぁ……? 野良でもで───ゴポッ」
次の瞬間、兵士の胸からは、紅い槍が突き出ていた。 否、槍が紅いのではない。 兵士の鮮血が纏わりついて紅く見えているのだ!
ドサッ。 兵士が倒れると、そこに紅い花が咲いた。 だが、それを気に留めるものはもういない。
だが、槍は見事に鉄製の胸当てを貫通している。 タツジン級の暗殺者だ。
「此方リック。 ネズミは始末したわ。 ついてきて」
小さな声だ。 だが、見よ! その声に応え、十人以上の黒装束の忍が姿を表した!
この男の名は、リック。 ギラルに使える三本槍、その二本目の刺客、『赤槍のリック』だ。
見ての通り、音もなく見張りを殺すことなど造作もない腕前の持ち主だ。 そして、彼奴はこれから、レジスタンスの拠点に進攻しようとしているのだ!
外観も顔も口調も色々と奇抜な男だが、突っ込む人はいないので、このまま物語は進行する! 正直筆者もコイツは描写したくない!
しかし既にトラップは軒並み解除され、見張りも死亡!
───大舞蛾ッ! 此の進撃を止められるものはいないのか? このままでは、レジスタンスは制圧されてしまうぞ!
「状況よし。 前進するわよ」
暗殺者たちは、灯り一つない暗闇の中を、音もなく進んでいく。
「ジードの報告通りね。 確かにクドニ山に拠点があるわ」
忍たちは頷き、洞窟へと───
忍が一人、倒れた。
「待て! 何かおかし───」
などと言っている間に二人目が死亡! だが、リックの対応も早い!
「総員退避! 待ち伏せよ!」
一体、何があったのか? 答えは簡単だ。 レジスタンス側では、ジードの戦死から日数を計算し、この日に討伐部隊が到着すると予想していた。 だが、雷牙が森を見張っていても昼間は来なかった。
ならば、夜討ちを狙っているのは自明の理。 そのことに気付いたレラが、あらかじめ対策をとっていたのだ。
「なるほどねぇ。 一筋縄じゃいかないわねぇ」
ねちっこい声で呟いて、倒れた忍の死体から、ナイフを引き抜く。
黒曜石でできた、黒いダガーナイフだ。 この暗闇なら、黒い刃は全く視認できない。 暗殺にはもってこいの一品だ。
「さぁて、近くにいるはずだけど……」
その時、木の陰から、きらりと何かが光った。
「そこ! 場所が分かれば、狙い撃ちよぉ!」
忍たちは、一斉に手裏剣を投擲! 命中! 悲鳴が上がる!
「グワーッ!」
だがその時、樹上から、いくつもの塊が落下してきた。 それは、こぶし大の金属の塊で、紅い魔鉱石が埋め込まれていた。
───カッ! 金属塊から、軍用ライトにも匹敵する光が放たれ、森の中が照らし出される!
「なにぃ!」
「か、隠れろ! 狙い撃ちだぞ!」
忍たちの姿が浮かび上がり、混乱が広がる!
だが、森の木々の上を見よ! そこには、レジスタンスの兵士たちが構えている!
「落ち着きなさい! 灯りは少ないわ。 第一分隊は死角に移動! 第二分隊はアタイについてきなさい!」
リックの素早い判断で、忍の半分が散開、残りは円陣を組み、攻撃に備える。
「夜分遅くにご苦労様。 だけど、ここから先は進ませないよ!」
レラは樹上から叫んだ。 その左右には、兵士が並ぶ。。
「誰かと思ったら、『昔の』団長じゃない。 だけど、今日はこの森には用はないのよね。 今頃寝てる皆をDethるのが仕事だもの」
「させないさね。 アタシが止めて見せる……!」
「魔術も使えなくなったアナタに何ができるの? それ!」
リックは両腕から槍を射出!
「グハッ!」「ぎゃあ!」
レラの周囲の兵士が二人倒れる。 さらに射出!
「ぎゃあ!」
兵士が死亡!
「このぉ! させるかぁ!」
レラは飛び降りて、四発目を阻止! 同時に、森のあちこちで戦闘が始まる!
ガキィン! レラの斧とリックの槍が激突! リックは素早い突きを連射し、レラは体捌きで躱す!
距離を詰め───れらの踏み込み斬り! だがリックは手甲でガード! 衝撃を逸らす、見事なガードだ!
「チィイ!」
「さっさと死になさい! この阿婆擦れが!」
忍が三人乱入! レラの動きを阻む!
「アンタの相手はそいつらよ!」
「クッ、待ちな! この!」
リックはレラの横をすり抜け、走り去る! レラは追いかけようとするが、忍たちがそれを許さない!