昼飯タイム・後編
「いよ~っす。 メシ、持ってきたぞ」
病室と化した大広間のど真ん中に、大なべが置かれると、ドスンという音が響いた。
その音に、ルチルがビクリと肩を震わせる。
「おや、持ってきてくれたのかい。 ご苦労様」
レラは薬を調合する手を止め、音の方を振り向いた。 その目前に、アマナが食器を積み上げていく。
「とりあえずの病人食だ。 消化の良さ最優先だから、動ける奴は食堂で肉貰っとけよー」
そう言いながら、雷牙はシチューをよそってルチルへと手渡した。 ルチルは、薬瓶を置いて、食器を受け取る。
「ライガ、が、作った…の…?」
「まーな。 即席だから上等なモンじゃねぇけどな。 アマナにも手伝ってもらったし」
雷牙の手が、アマナの細い肩を叩く。
「何だいアンタ、料理人だったのかい」
「レラ、それはさっきもやったんだ。 自力で読み返しといてくれ」
「雷牙さんはすごいんですよ! 肉と塩を加えただけなのに、味が全然違うんです!」
アマナが絶賛!
「メタ発言だねぇ」
レラは苦笑いを浮かべた。
「さて、寝たきりの連中にも配ってやんねーとな」
「て、手伝お…う…か?」
ルチルの小さな手が、雷牙に触れた。
「おう。 んじゃ、よそう方頼んだ。 俺が運ぶから」
「う、うん……」
雷牙は、ルチルから食器を受け取ると、両手と頭にのせてシチューを運んだ。
「器用な真似するねぇ。 大道芸かい?」
「ノロノロしてっと冷めるからな。 兵は迅速を尊ぶんだぜ?」
雷牙は牙を見せて笑った。
「ハイお待ちどう!」
「お待ちどう!」
「ハイ次!」
全身を包帯で巻かれた者、片腕を無くした者、皮膚が変色した者。
反応も様々で、感謝されたり無反応だったりした。 それを雷牙は楽しんでいた。
「お待ちどう……って、お前はッ! ……。 ……。 誰だっけ?」
「アンタ、中々失礼ね。 私はアンタのせいで手足を粉砕されて、ここにいるのに」
手足にギプスを付けたままで女は答えた。 その声は、強がっているのか、雷牙を恐れているのか、僅かに震えている。
「あぁ、思い出した。 この前の奴か。 ……名前出てこないけど」
「アンタ、中々失礼ね」
「ライガ。 こ、この人…確か、メアって言ったと…思う…」
「あー、そんな名前だっけ」
ルチルの指摘に、雷牙は膝を打った。 それを見たメアは、驚いたように息をのんだ。
「アンタ、何普通に話してんのよ……。 その娘が何者か、知らないの?」
「……?」
雷牙の視線がルチルを向くと、ルチルは気まずそうに視線を逸らした。
「コイツに、何かあんのか?」
「さあね。 『バケモノ』は『バケモノ同士』、乳繰り合ってればいいんじゃないの」
ルチル本人に聞くのは、どこか憚られた。 そう言えば、さっきまで隣にいたはずのアマナは、ルチルが来ると雲隠れしてしまっている。
意識すると、ルチルに近づくのは雷牙とレラの二人だけだ。 それ以外は、不自然に距離を開けている。
「ふーむ? いや、考えても仕方ねぇ。 残り配るぞ。 手伝ってくれ」
「あ……う、うん」
ルチルは弱弱しく頷いた。 その表情には、『恐れ』が浮かんでいた。