レジスタンス・ナイト
その姿を見た途端、雷牙の瞳から殺意と邪悪さが消えていく。 まるで、何もなかったかのようにだ。
「バケ……モノ……」
その言葉を最後に、メアの意識は奈落へと落ちた。
~~~ 同日夜 雷牙の私室 ~~~
この洞窟を見て回って、わかったことがある。 人間の都合でいろいろと手を加えられているが、元は何か、巨大な生物の掘った穴のようだ。 自然洞窟にしては不自然に整っているし、人間がこの大きさを掘るのは難しいからだ。
広さからすれば、全長10メートルは超える。 山の主のような巨竜がいる世界だ。 他にも巨大生物が生息しているのかもしれない。
さて、今回の戦いで分かったことがある。
一つ、雷牙の身体能力は、一般人を何十倍もぶっちぎっているが、雷牙以外にも、ぶっとんだ身体能力の持ち主がいる。
メアと名乗った女は、雷牙に蹴りでダメージを与えた。 メアの脚力は、数百キロは軽く出せるのだろう。
二つ、雷牙の躰は、二つの力で動いている。 一つは普通の筋力。 これも常人離れしているが、この世界ではありえない、というほどではない。
もう一つの力。 精神───魔力だ。 これによる力は、肉体の限界を無視する。 先ほどの戦闘でも、立てないほどの疲労状態でも、魔力で動くことができた。 そして、この力は、この世界の人間でも、今のところ雷牙を超えるものはない。
三つ、精神による力は、雷牙の精神状態に影響される。 ただ、力を引き出しながら、理性を保つのは難しい。 一定を超えると、理性が呑まれていく。
そんなことを考えていると、部屋の戸を叩く音がした。
「入るよ」
「ああ」
部屋へ入ってきたのはレラだった。 その手には、二人分の食事があった。
「飯、持ってきたけど、いるかい?」
「有難い。 腹が減ってたんだ。 それに、ルチルにバレて絶対安静って言われてさ。 ヒマだったんだ」
レラは、トレーをベッド横の台に乗せ、ベッドの縁に腰を下ろした。
相変わらず、香ばしいの対義語みたいな匂いが漂っている。
”””いや、この世界じゃ、この飯こそが美味いのかもしれない……のか?”””
んなわけあるか、という内なる自分のツッコミを無視しながら、雷牙はシチューを口に運んだ。
「すまないねぇ」
「……?」
「いや。 不味い飯しか用意できないことさ。 農業はうまくいってないし、食材も人材も不足してる。 食えるものは全部食わないとやっていけないのさ」
雷牙の心を読んだような発言に、雷牙は思わず息をのんだ。
だが、雷牙は知っている。 食の重要さについて、実戦経験ならだれにも負けない彼だからこそわかることがある。
「……強い軍隊ってのは、例外なく飯が美味いんだ」
「……」
「飯を食うってのは、本能に直結することでな。それは部隊の士気を大きく変える。 そして、その差は簡単には覆らない。 大体、人間である以上、食った飯以上のエネルギーは使えない訳だしな」
「なるほどねぇ」
レラは笑った。 裏表のない笑みだった。
「それができないから、アタシらレジスタンスは負け続けてる。
「幸いにも、この拠点が見つかってないから全滅してないだけでね。
「だけど、実際人も物もない。 それをどうやってひっくり返すつもりだい?
「───何の考えもないわけじゃ、ないんだろ?」
雷牙は牙をむいて笑った。
「任せろ。 策はある」