その10 バトラッシュ・バトル
「もう逃げられない。 フフ、私についてきなさい? 後悔させてあげる!」
~~~ 刃牙っぽいBGMが流れてます ~~~
雷牙が連れてこられたのは、大きな闘技場だった。
「ここは、私たちレジスタンスの兵士たちが鍛錬を行う場所。 だけど今日は、貴方が屈服する日になるの」
だだっ広い空間の四方を、太い柱で支えている。 その中心に闘技場が設置されていた。
闘技場といっても、砂の地面を簡単な壁で囲っただけの、原始的なフィールドだ。
「今からあなたには、レジスタンスの兵士50人を相手にしてもらう。 ───竜を狩ったんだから、余裕よね?」
「……ッ」
闘技場の周囲には、ずらりと並ぶ兵士の姿! まさか、この人数で雷牙を倒そうというのか!? なんたる卑劣!
「勿論、ここに来た時点で拒否権なんてないから、覚悟なさい?」
闘技場の右側を見る。 兵士が並んでいる!
闘技場の左側を見ても、兵士が並んでいる!
正面にも、兵士が並んでいる!
そして、その奥! そこにメアが立っていた。
「……いいだろう」
雷牙の声が、ドスの効いたものに変わる。
『む、無茶したら、ダメだよ。 今度…傷口が開いたら…し、死んじゃう、よ……』
ルチルの声が脳裏をよぎる。 だが、雷牙は止まらない。 その場で高々と跳躍!
数秒の滞空時間の後、闘技場のど真ん中に着地! この動きは実際高等技術!
「フン、その顔が地面とキスするまで、どれだけ耐えられるかしら?」
兵士たちが次々と入場する。 雷牙はその表情を読むが、殺意は感じられない。 おそらく、修行の一環とでも言って騙しているのだろう。
「「「オネガイシマース!!」」」
兵士たちが一斉にお辞儀する! 壮観な眺めだ。
さて、筆者の手元にある『王国騎士団英勇録』によると、聖騎士の称号を持つ者は、この人数差を覆すのが当たり前だとされるらしい。
しかし、この数を相手に、徒手空拳で勝てるのか? などと書いている間に入場は終わり、開幕を告げるゴングが鳴った───ッ!!
カァアアアン!!
最初に仕掛けたのは、雷牙の方だ! 兵士たちのど真ん中に突っ込み、目にもとまらぬ速さで3人をKO!
ストレート・リードからの素早い回し蹴り! ワザマエ!
だが、次の兵士が飛び掛かってくる!
KABOON! 突然の爆音! 否。 雷牙のワンインチパンチが、兵士を弾丸の如く打ち出したのだ。
この一撃で、さらに5人撃破! スゴイ!
「……ッ!」
実際、出鱈目な強さを発揮する雷牙に対し、兵士たちは足を止めた。
当然だ、誰だってこんな攻撃の犠牲者にはなりたくないものだ。
さて、膠着状態の中、雷牙は自身の躰の性能を確認していた。
”””なるほど。 躰が軽いぜ。 筋力2~3tは、いってるか? 人間離れしてるな。 それに、これだけの動きをしても、関節はびくともしねぇ。 肉体の強靭さも遥かに上がってると考えて良さそうだ”””
「!」
後ろから気配が二つ! アブナイ!
雷牙めがけての正拳突き。 だが雷牙はダッキング回避! 即座に躰を起こし、裏拳で一人撃破!
続いて左右から跳び蹴りが飛来!
「ハッ!」
咄嗟にスウェーバック回避! 空中で兵士を掴み、投げ飛ばす。
DOON! 反対側の兵士に当たり、二人まとめて瞬殺!
”””五感も鋭くなってる。 後ろの動きまで見えてるみたいだ”””
だが、心拍数があがりすぎている。 傷が開ききる前に、と短期決戦を挑んだが、失敗だっただろうか?
「ゼェ……ゼェ……」
雷牙の体力には、あまり余裕がない。 強大な力を振るうためには、多大なスタミナを消費するのだ! しかも、山の主を相手にして失った分を取り戻し切れていない。
このままでは、力尽きてしまう。 だが、攻撃は続く。
前後左右、4か所同時に攻撃が飛来! 回避する場所はない!
ならば───
「「!?」」
その時、兵士たちの目前から、雷牙の姿が消えた!
否、上を見よ。 兵士の動体視力を凌駕する族度で跳び上がり、天井へと着地した雷牙の姿を!
”””この一撃に、残りのスタミナ全部使う!”””
雷牙は足の筋力だけで、逆月を背負う蝙蝠の如く天井に張り付いている。 そして───
「Break it!!」
雷牙は天井を足蹴にして、垂直降下! 螺旋を描くように地面に向かって一直線に突っ込み、そのまま着弾!
KABOON!!
衝撃が闘技場全体を揺らす! もうもうと土埃があがり、視界を埋め尽くす。
数秒間の停滞。
「ケホッ、一体、なにをしたのよ……!」
メアがせき込む。 お互いに姿が隠れるため、ウカツに動けない状況だ。
そして、ゆっくりと煙が晴れていき、視界が戻ってきた。
雷牙の一撃によって、大半の兵士がダウンした。 具体的には、45人! スゴイ!
残っているのは、メアとその周囲の兵士数名だ。
だがしかし、雷牙もパワーのほとんどを使い果たし、立っているのがやっとの状態!
「ゼェ……ゼェ……」
雷牙は肩で息をしながら、ふらつく足取りでメアの方に躰を向けた。 だが、
「ッ」
ガクリと膝をつく。 もう、体力が残っていないのだ。 山の主との死闘。 常人なら死んでいるであろう失血量、そこから目覚めてすぐの連戦、そして今の大技。
人間の体力をはるかに上回る消耗だ。 雷牙の心臓が動いているだけで、奇跡的なことなのだ!
「さすがに、力を使い果たしたみたいね。 対する私は、無傷。 ───潔く負けを認めなさい? そうしたら、終わるから」
「ハッ、誰が、ゼェ……、認める、かよ……!」
「そう」
メアは無表情に頷き、次の瞬間、雷牙へと前蹴りを繰り出した!
ボグッ!
「グハッ!」
顎へと直撃! だが、雷牙に反撃する体力は残されていない!