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復讐の果て  作者: 雲母稔
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第8話「貫く悪」

 

「クルミちゃん、僕手が痺れてきたんだけど……」


「意気地無し。じゃあそろそろやめる?」


 どれぐらい時間が経ったのかは分からないが、二人のキャッチボールはようやく終わりを告げる。時間の流れというのは本当に早く感じてしまう。寿命も長いため、このぐらいが丁度良い。


まだ朝にはなっていないようで、クルミはこれから何をするのか考える。ここにいる者は全員魔物であるため、睡眠を取る必要はない。


ただ魔物であろうと疲れる時は疲れるため、それが理由で仮眠を取ることはあるが、基本的には眠ったりすることはないのだ。クルミは周りを見渡すが、特に疲れている様子の人物はいないことを確認する。


「さてと……」


 クルミは頭の中で手に入れた情報を整理する。ギランとマリアからの話では、勇者たちは今日中にアーネスト王国のエッジタウンというところに行くらしい。


そしてアーネスト王国含み、残りの四ヵ国はエンペラー王国、ヴァリキリー王国、イージス王国という国みたいだ。正直、あんな通りすがりの一般人からここまでの情報を聞けたのは意外だった。


何でもやってみるものである。


「明日……いや、今日か。何だか面白い日になりそうだね! 早く戦ってみたいなぁ」


「そんなにわくわくしていていいのですか? またガッカリするのでは?」


「その時は、アーネスト王国を滅ぼす!」


 高らかな声で、一切の迷いはなく宣言する。一同は、冗談なのか本気なのかよく理解していない様子であったが、その刹那、冗談ではないことを理解したようだ。


「いや、それだけじゃ済まさない。エンペラー、ヴァリキリー、イージス共にもう不要だ。全部いらない。私がこの手で……全てを壊す」


 自分でも冷酷な瞳をしているのが分かった。心の内から広がってくる残虐非道な精神。決して冗談で言っているわけではないことが身にしみて感じる。間違いなく、今のクルミはそうする。


そこに何の躊躇も生まれることはない。何故ならクルミ自身も凶悪な魔物であり、人を殺すことに罪悪感もなければ躊躇いもないからだ。


さらに、そこには力を発散させるという意味も含んでいた。


クルミは強い。強すぎるのだ。

本気を出すこともできず、もしも全ての力を解放してしまえば、国に留まらずこの惑星さえも滅ぼしてしまうかもしれない。


全く力を使えないのは、それだけでストレスにもなる。定期的にギランやショートたちと遊んだりするのはそれが理由にもなっているのだ。


「戦うって言ってもどうする気だ? 今度はエッジタウンにでも襲撃するか?」


「あいつらは私たちを倒そうとしてるんでしょ? 何も言わなくても、こっちに来てくれるって。多分」


 とは言っても、アジト内部にまで侵入することは不可能だろう。人間の身で、幻術をすぐ見破るのは困難だからだ。そんなの、問題提示もされていないまま謎を解けと言っているようなもの。


そのために、少なくとも地上に行く必要がある。出来れば人間の通る確率が極めて低い、この森でやってみたいものだが。


「クルミちゃん、それって僕たちは見てるだけでいいの?」


「うーん、人数は五人みたいだからなぁ……。ちょうど一人ずつでいけるよね」


「いいのか? 私たちに情けがないのは知ってるだろ」


 遠回しにそれは、容赦なく殺すこともいとわないと言っていた。クルミのような、相手の力量を量ろうとするお遊びは一切なしであると。


それを知っていたクルミは、ある制約を設けることにした。


「分かってる分かってる。だから、本気を出すのは禁止。手加減してあげてね。それで勝てちゃうならそいつらもいらないから」


 ギランたちは了承の笑みを浮かべる。

彼らからしてみれば、遊びの認識にすらなっていない。何故なら、彼らもまた強者であるためだ。


勇者といえど所詮は人間。蟻程度の存在でしかないと思い込んでいるからだろう。きっとこの中で、可能性を見出だそうとしているのはクルミだけだ。何度も期待を裏切られてきたが、それでも抱きたくなってくる。


この行動だって、きっと何かを生むはずなのだ。


「とりあえず私は地上に行ってみようかな。もう来てたりして」


「さすがにまだ寝てる時間帯だろ」


「来てるみたいですよ」


「……は?」 


 レイの腑抜けた声が小さく響く。


「正確には勇者たちなのかは不明ですが、この時間にこの森に出向く者など、そうはいないでしょう」


 このアジトは防音であるため、外からの足音もこの場に響くことはない。

これはマリアの魔法、〈全領土化フル・テリトリー〉と呼ばれるものだ。常時発動しているものであり、言わばこの森は彼女の領域。


どこに誰が歩いているのか、人数は何人なのか、人間か魔物か。全てを把握することもできる最高位の魔法だ。


「へぇ……」


 

 その時、地上では今まさに複数の人間がゆっくりと森の中を歩いていた。ゆっくりである理由は、警戒である。


肌寒い風が辺りをよぎる。まだ朝になっていない、明け方の時間。通常であれば、こんな時間に外を出歩く者などほとんどいない。


しかし、この森の内部では、人々の希望となる勇敢な戦士たちが潜入していた。


シャルド、アンナ、ミナト、キャリー、ジークという名の、五人の勇者が。


「みんな……しっかり眠れたか?」


 シャルドからの声に、特にミナトとキャリーは眠そうにあくびをしていた。アンナとジークはそのような言動は見受けられない。二人と違って、お気楽にはなれないのだ。


「俺はまだ寝ていたかったけどなー。この時間帯が一番良いって言うからさ」


「魔物が一番力を発揮できなくなるのがこの時間だからよ。勝率は高い方が良いでしょう」


 それが唯一とも言える魔物の弱点であった。明け方から早朝にかけてのこの時間帯は、魔物の力が抑制される。


逆に昼は魔物の力が活発的に、夜は凶暴になると言われているのだ。


そのため、魔物を討伐するのであればこの時間が最良だろうという、シャルドとアンナの計らいである。


「ねぇ……森に入った時から気になってたんだけど、なんか不気味じゃない?」


 キャリーからの言葉に、全員が立ち止まり、辺りを見回す。

その時、辺り一面を風が覆い、不気味な気配が漂い始める。


「確かに……まるで結界でも張られているかのような……」


 その言葉の後であった。突如として、前方に激しい風が発生する。キャリーとジークは背中に携えていた物体を取り出し、シャルドたちもまた身構える。


「そこに気付くとはお見事です。人間にしては……ね」


 一つの声が響き、その人物は姿を現す。

眼鏡をかけており、全体的に黒めの服装で統一されている。見た目だけで受け取れば、人間としても見ることができる。


だが、それを見たキャリーは身を震わす。


その瞳が、あまりにも冷酷であったためだ。到底、人間にできる眼ではなかった。


「なるほど、かなり個性的な格好ですね」


「でもあんま強くなさそうだよ。威圧感も足りてない!」


「お前も人のこと言えないだろ」


 次々と姿を現していく三人の男女。

一人は、美しい容姿をしている男。一人は、無邪気で無垢な瞳をしている少年。一人は、強気な表情をしている女性。


そして最後に、もう一人、可憐な見た目をした少女が姿を現す。


「初めまして、勇者の皆さん。私はクルミ、今からあなたたちを殺します」


 クルミと名乗り、そう宣言する少女にシャルドたちの顔はより強張る。


「それが嫌なら私たちを倒すしかないね」


「あなたたちはいったい何なの……? 何が目的!?」


 アンナからの問いかけに、クルミたちはつまらなそうな表情を浮かべる。そんなことはどうでもいい。そうでも言っているような感じだ。それがさらに、アンナたちの顔を強張らせていく。


「アンナ……いざって時は分かってるな」


 シャルドが小さな声で呟き、一歩ずつ前に歩み出る。アンナは複雑な表情をしながらも頷く。


「お前たちの悪事もここまでだ。ここで討伐する!!」


 気迫に満ち溢れた声が森全体に響き、シャルドは剣を取り出し、力強く握る。

そして今、戦闘が始まろうとしていた。















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